表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西園寺青豆の不運  作者: 雨水卯月
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/33

小話2 海翔VSすずめ(香澄)

「ホントさぁ、なんなのよ。藤堂」

「本当に申し訳ない。」


海翔は、米粒サイズにまで小さくなって謝っている。

青豆の“留学宣言”のあと――

二階堂すずめと、妹・香澄による藤堂への口撃タイムが始まっていた。


「あーあ…青豆と旅行行ったり、夜通し飲んだりしたかったのにな~」

「それは、留学してても出来るじゃん」


青豆はうれしそうに笑う。

“寂しがってもらえることが、嬉しい”らしい。

俺が言ってもそんな顔しないのに。なんで。

……軽く嫉妬する。


すずめもすずめで、美大の授業に追われる日々。

最近は、前みたいに青豆と遊ぶことも減っていた。

そこへ――“留学”予定の知らせ。


「藤堂はさ、ずるいんだよ」

「青豆のためって言うなら、日本の大学でよかったじゃん。なんでわざわざアメリカ?」

「それは…がん治療の最先端だし…」

「あ゛?」

「日本の大学だと兄と比べられてやりにくいし…」

「なんだと?」


「ちょ、ちょっと!すずめ!!もういいじゃん」


――青豆、仲裁モード発動。


「お前のコンプレックスのために、青豆は留学すんのか?」

「ごめんなさい…」

「お前の思い付きのために、11年も待つのか?」

「それは…!いや、申し訳ないです。」

「医大だって、“青豆のため”って言って、結局は自分のためじゃないの?」

「ご指摘ごもっともです…」


逆上した女子相手には言い訳をしない。偉い。

すずめとの対決で、海翔の良心と素直さが、むしろ光ってしまっている。

負けてるのに、なぜか好感度が上がるタイプ。


「まー…家族に問題あるのは分かってたけど」

「分かってたって?」

「あの学校で金髪にしてくるヤツが問題ないわけないじゃん」


良家の子女が通う伝統校。

金髪は、自由だけど“空気的にNG”。

すずめは観察眼が鋭く、そして遠慮がない。


「で、どういうこと?」

「えっと……親に医学部行きたいって言ったら、『東大か国外の大学なら、学費出してやる』って言われて」

「えっ、聞いてない! それ実質“国外追放”じゃないの!?」

「青豆、黙って!」


「まあ、そういうこと。で、海外ならどこでもいいって言われたから」

「それでポンッとカリフォルニア大学? あんた、嫌味なやつ」

「すずめぇ、そこは“よくやった”でしょ」


「ヤな奴」――すずめは眉をひそめる。

でもその目の奥には、ちゃんと“労り”と“怒り”がある。

きっと、海翔を責めながらも、彼の家を責めている。



「分かった…もう文句言わない。青豆連れてっていいよ」

「いや、まだ行かないよ」

「二階堂、ありがとう」

「海翔、感謝する相手違うでしょ」


――そして、青豆は思った。

あれ? 私、今ここにいるよね?

声、届いてる?

ねえ、誰か私の存在、認識してる?


「じゃ、次、香澄行きな!」

「人の妹を犬扱いしないで!」

「ワン!」

「待って!香澄!海翔はもう満身創痍だから、優しめでねっ」


海翔、すでにHP赤ゲージ。

すずめとの戦いを経て、もうほとんど“再起不能モード”である。

疲労が顔に色濃く出ている。


「まず、藤堂さん。」


香澄が居住まいを正して、ずいっと顔を出す。


「おねえとの結婚式、どこで挙げる予定ですか? サンフランシスコですか?サンフランシスコですよね?」

「か、考えてなかった! でも……いい案だと思う」

「ちょ、ちょっと待って!?」


流れが速い。

いや、もはや加速している。


「良かった〜! ハワイはベタすぎだし、ニューヨークは寒そうだし。アメリカ西海岸の海辺でウェディングフォトとか素敵じゃない?」

「青豆との結婚式は、香澄ちゃんに相談するよ」

「……なんで? 私じゃなくて?」


青豆、妹に嫉妬する。

冷静に考えて、勝負の土俵がちょっと違う。


香澄が、声を潜めた。

こういう時の香澄は、大抵ロクなことを言わない。


「あとね、これ、すっごく重要なことなんだけど……」


海翔と青豆、反射的に前のめり。


「私、スタバのサンフランシスコ限定ボトルが欲しいんです」


「「…」」

「…もちろん、買って送るよ」


海翔の方が、数秒立ち直りが早かった。


「やったー! 持つべきものは優しいお義兄(にい)ちゃん! 大好き!」

「香澄ちゃんが認めてくれて嬉しいよ。ありがとう」


――私には『大好き』なんて言ってくれないのに。

静かに、青豆の中で何かが燃えた。


「くっ……! スタバの限定ボトルで、姉の地位が脅かされているっ!」



青豆は思う。

家族って、面倒くさくて、うるさくて、勝手だ。

でも、誰かを責めながらも、ちゃんと心配していて、

愛しながら、ちゃんと嫉妬もしている。


それを“ややこしい”って言う人もいるけど――

青豆にとっては、世界で一番あたたかい混沌だ。


そして今日もまた、彼女の周りでは、

愛とツッコミとスタバのボトルが、静かに回っている。


海翔の通っている大学は、架空の大学です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ