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西園寺青豆の不運  作者: 雨水卯月
第二章

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20/33

4.恋心、それぞれ

藤堂海翔。

家族運には恵まれなかったが、何かと運がいい男。


食べたかったサンドウィッチは、最後の一つを発見し

5分遅れた講義は、教授の遅刻で間に合う。

自習室に入った途端、満席だった席が空く。


最近では、藤堂家のコネクションと財力と、自分の運をフル活用して入学した大学で俄かにモテている。


それもすべて、青豆のおかげ。

本人はそんなつもりないんだろうけど、運の神様は彼女に感謝してる。






カフェで朝ごはんとコーヒーを注文する。

あ、好きなサンドウィッチが最後の一つ。

青豆だったら、絶対目の前で売り切れて悲鳴をあげてるんだろうな、と思う。


ふと後ろを振り向くと、女の子がそのサンドウィッチをじーっと見つめている。

“あ、どうぞ”と自然に譲る。

女の子は迷わずサンドウィッチを注文した。


青豆が食べられたら、きっとこんなふうに喜ぶんだろうな。

にっこり笑いかけると、女の子は真っ赤になった。



大切な講義に5分遅刻。

大学は最新鋭のシステムを導入している。

入室はカードキー必須。代返?途中退室?そんなの、昔話の世界の話だ。

教授より先に入れば、遅刻にはならない――運命のちょっとした勝負。


僅差で教授より先に入室できた。

間に合った。

もしこれが青豆だったら、カードキーをかざす瞬間に限ってエラーになって、遅刻扱いになってるだろうな。

そんな想像をして、思わず笑みがこぼれる。


入室と同時、教室がざわついた。

あの“カイ”が笑った、と。



自習室に入ると、ほぼ満席。

うろうろする学生もちらほら。

この自習室、冷暖房完備、設備も最先端。静かで、誰にも邪魔されない。

当然、寮でやるよりは勉強が捗る。席の争奪戦は毎日小さな戦争だ。


海翔が入ると――目の前の席が空いた。

あちらでうろうろしている学生がいる。


(あ、あの人せっかく待ってた席を取られた。)


不運に見舞われた人を見つけると青豆じゃないのに、どうしても青豆に見える。

海翔はその男子学生を手招きした。


『ここ、空いたからどうぞ』

『え、でも、君が先に見つけたんじゃ…?』

『君はずっと待ってただろ?いいよ、俺はどこでも出来る勉強だし』


この部屋でしか出来ない機器やアプリもある。

笑いながら、海翔は学生を着席させる。

彼は戸惑いつつも礼を言った。戸惑う素振りも、礼の仕方も、青豆そっくりだ。


藤堂海翔――そんな男。

青豆を思い出し、青豆の妄想をし、つい自分の株まで上げてしまう。

でも、やっぱり青豆のほうが――

冷静さと礼儀正しさを兼ね備えつつ、ちょっと天然で、全部ひっくるめて可愛いところまである。


……くそ、思い出したら、会いたくなった。


海翔は笑った。

それでも、この自習室でちょっとだけ、自分も青豆に近づけた気分になれるのだから、人生は不思議だ。



海翔が株を急上昇さているころ、青豆は塾に通っていた。夏期講習からそのままスライドして、気づけば入塾していた。受付のお姉さんの見事な手腕に乾杯――いや、完敗。手も足も出ない。


青豆は七瀬と百田という友人ができた。


そう――あの恋バナの二人

女子力の高さ、随一を誇る百田は相変わらず桜井の話ばかり。しかし、塾では毎回十位以内に入る猛者だった


七瀬は学ラン茶髪の少し悪そうな風貌。

昔の海翔を思わせる鋭さの中に人懐こさを見事に共生させている。

いやがおうにも、海翔を思い出してしまう。


「青豆、今日も遅刻?」


最初の小テストが終わった教室はざわざわしていた。

青豆はいつも通りの不運を発揮し、遅刻した。

くそう、この小テストで二人を追い抜くつもりだったのに。


「電車で産気づいた妊婦さんがいて…」

「すごい人助けじゃん」七瀬が感心したように言う。


「でも、家族に間違われて…」

「うん?」


雲行きが怪しくなっていく。


「救急車に乗せられて」

「ほう。」


青豆劇場、開幕。


「千葉まで…」

「「千葉!」」


二人が驚き、声を上げる。


「さらにね、駅の改札でチャージしてあったのにSuicaが鳴って…」

「え!?また!?」


「自分の靴の紐で転がって…」

「誰か止めてよ!」


「…あ、しかも雨降ってた」

「もう、青豆の不運フルコンボじゃん!」


「せっかく自習室で勉強しようと思って早起きしたのに、全部パー…」


深いため息をつき、肩をぐっと落とす青豆。

七瀬と百田は腹を抱えて笑った。


――でも、不運の女にも味方はいる。


次の小テストが配られると、ペンを握る手に自然と集中力が宿る。

小テストの解答用紙も、今日はきれいに揃っている。

そしてテストが返却されると――


「…あれ?90点…」


青豆は自分でも驚く。

不運フルコンボの中、ほんの少しだけラッキーの神様が味方してくれた。この瞬間だけは、まるで運命が微笑んでいるみたいに。


今日も通常運転の青豆――でも、ちょっぴり輝く瞬間も確かにあった。





⁻⁻⁻


七瀬遥(ななせはるか)

『ハルちゃん』と呼ばれるのが死ぬほど嫌い

ちょっと悪そうな見た目にしているのは、舐められないため。

でも、実は人情に厚く――真面目。


最近、面白い友人が出来た。いや、友人というか想い人。

西園寺青豆。


日本人形のように整った顔立ち。

芯のしっかりした瞳。

声が少し低くて、落ち着いた雰囲気を漂わせている。

なのに、ちょっとおっちょこちょいで、死ぬほど運が悪い。


そんなところも可愛くて仕方ない。


モモ、こと百田がにやにやしながら、告げる。

「七瀬ぇ。青豆、彼氏いるって」


はい、終了。絶望。


「でも、遠恋で数年は帰ってこないって」


数年!?じゃあ、希望は…ある?


「彼ピ、医大生で藤堂家のお坊ちゃんだってさ」


なかった。完全に終了。


「想うだけならタダ。とか、やめときなよ。恋愛はタイミング!攻めるのみ!」


さすが百田。恋愛至上主義。

さて、この負け戦、どうしよう。





桜井一樹

この男、モテる。何をしてもモテる。

ハンカチを拾うと、モテる。

ほんの少しコンビニに通っただけで、モテる。

もう目が合ったら、モテる。

人生、常に勝ち組ロードを爆走中。


そんな彼の前に、最近どうにも思い通りにならない存在が現れた。

西園寺青豆。


振り回しても、告白しても、びくともしない。

手に入らないものほど、欲しくなる――

桜井一樹は、人生で初めて焦がれるものを手に入れようとしていた。


「西園寺さん、最近どう?困ってることない?」

「ありません、順調です。」


ほら、面白い


「遅刻した分の小テスト、受けたい?」


小声でささやかれる提案は、

青豆にとって、間違いなく魅力的だったのだろう。

さきほどまで死んだ魚のようなだった目が輝く。


「先生!私、困ってることあります!(小テスト!受けたい!!)」


……ああ、まんまと嵌ってくれた。青豆、分かりやすくて助かる。


自習時間、個別相談室で二人きり。

小テストの問題用紙を前に、青豆は必死に鉛筆を動かす。

桜井なんて、まるで存在しないかのように。


「ねぇ、青豆ちゃん」

「先生、私、今、問題解いてます。必死なんです。どうしても友達を抜かしたいんです。」


「邪魔しないでください」と、にべもない返事。

でも桜井は笑う。

この強い瞳も、思い通りにならないところも、全部好きだ。


青豆が必死に解く間、桜井は黙って見つめる。

解き終えた青豆が顔を上げ、気まずそうに眉を下げた。


――あ、困ってる。かわいい。


桜井はにっこり笑った。


「出来た?採点しようか?」

「はい。お願いします。」


青豆は律儀に両手でテストを差し出す。

こういうところ、まさに良家のお嬢様って感じだ。


警戒してるくせに、ちゃんとしているところもかわいい。


嵌った自分の方かもしれない。

まさに「人を呪わば穴二つ」――いや、ミイラ取りがミイラってやつだ。


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