小話4 誰も彼も足りないものを持って、それでも生きている
「なかなか病的だね」
「やっぱりそう思う?でもめっちゃ好きなんだ」
「そもそも思春期まっただ中の、生粋の日本男子がそんなに好意を表に出せるのがオカシイ。変態なの?それとも人生二回目?」
「…どっちでもないと願いたい。」
これ、二階堂すずめと藤堂海翔の会話。
内容はお察しの通り、“青豆について”
「だってあの子、すごい綺麗で可愛いじゃん…」
「そうかあ?」
すずめはすでに飽きていた。
たぶん、あと三分で鼻をほじる。
二階堂すずめという存在は不思議だ。
女らしさも男らしさも、どこか置き忘れてきたような、真ん中のひと。
いつも青豆の味方でありながら、海翔の気持ちも簡単に理解してしまう。
それが洞察なのか、経験なのか――海翔には分からなかった。
「てかさ、青豆が藤堂を裏切ることはないよ」
そうだ。
あの子は情に厚くて、無駄に真面目で、底抜けに優しい。
それでも、どうしてか不安は消えない。
恋って、ほんと理不尽だ。
「それが分かっても、あんたの不安はなくならないよ」
すずめは淡々と、未来を予言した。
まるで悪気のない預言者みたいに。
やだな、超当たりそう…。
「分かってる、自分でも分かってるんだ」
きっと、すずめと海翔は足りないものが似ている。
それ故、諦め方とか、譲れないものの持ち方とか。
そして、好きな人への執着の仕方とか。
「すずめー、帰ろ。あれ、藤堂?まだ帰ってなかったの?」
仮にも彼氏にこの扱いである。
普通、逆じゃない?
「俺も一緒に帰っていい?」
「ごめん。今日は、すずめとの約束だから」
拒絶。
その一言が、心の奥に刺さる。
海翔は立ち上がったまま、フリーズする。
「ま、そういうことで~」
すずめは軽い口調で教室を出ていく。
海翔は思わず青豆の手を引いた。
「藤堂?」
きょとんとした目。
言わなきゃ。何か言わなきゃ。
「青豆、俺の方が好きだからね」
出てきたのは、情けないほど嫉妬まじりの言葉だった。
青豆はすぐに察する。
そういうところ、ほんとズルい。
「藤堂、これ、貸してあげる」
青豆は首から外したヘッドフォンを、海翔にかけた。
まだ、青豆の熱が残っている。
音楽は再生中。青豆のスマホと繋がったまま。
「これ、離れたら切れちゃうじゃん」
「自分のとペアリングしなよ」
「ううん、ギリギリまで青豆ので聞きたい。いい?」
「しょうがないなぁ、聞かせてやろう」と言いながら
青豆はあっさり手を振って出て行った。
窓際に座り、海翔は外を見た。
青豆とすずめが、肩を並べて笑っている。
なんだよ、それ。ずるいじゃん。
ぶつり、と音楽が途切れた。
――ここまでか。
海翔はヘッドフォンを外す。
くん、と電子機器の匂いを嗅ぐ。
青豆の残り香と、わずかなぬくもりが耳に残る。
「あれ?やっぱり俺って変態なのかな?」
恋は、平等じゃない。
でも、“不平等を許せる”のも恋の醍醐味かもしれない。




