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10 運命の賭博師、絶望の選択肢


王都から北へ三日の行程、古い遺跡群が点在するアルカナ平原。エリア、セレスティア、ガルス騎士団長の三人は、魔王軍の動きを追ってこの地で偵察任務に当たっていた。ルシアンは別の情報収集のため、少し離れた村で聞き込みを行っている。


「妙ですね」セレスティアが周囲を見回した。「魔王軍の痕跡はあるのに、肝心の敵が見当たらない」


「ええ、まるで私たちを待っているかのような...」エリアが魔法陣を展開して探査する。「この辺りに強大な魔力反応があります」


ガルス騎士団長が剣の柄に手を置いた。


「罠の可能性もありますが、ここで引き返すわけにはいきません。ルシアン殿の合流まで、この辺りを調査しましょう」


その時、空間が歪み、優雅な女性の姿が現れた。深紅のドレスに金の装飾品を身にまとい、まるで高級社交界の貴婦人のような佇まい。しかし、その美しい顔には不敵な笑みが浮かんでいた。


「あら、お客様がいらっしゃったのですね」女性が優雅にお辞儀をした。「私はカサンドラ・フォーチュン。魔王軍第三天王として、皆様をお迎えいたします」


「第三天王...!」ガルスが即座に戦闘態勢を取った。


「お待ちください」カサンドラが扇子を開いて制した。「戦闘の前に、皆様に運命をお見せしましょう。私には見えますの、これから起こる未来が」


「未来?」エリアが警戒した。


「ええ」カサンドラが扇子を振ると、周囲の空間に鮮明な映像が浮かび上がった。「エリア様、あなたが炎の魔法で攻撃なさった場合の運命です」


映像には戦闘の様子が映し出されていた。エリアが炎の魔法でカサンドラに攻撃を仕掛けているが、その魔法がカサンドラの時間魔法によって軌道を変えられ、ガルスの背中に直撃している。騎士団長が苦痛に顔を歪めて倒れる様子が、恐ろしいほど鮮明に描かれていた。


「これは...」エリアが息を呑んだ。


「88%の確率で起こる運命ですわ」カサンドラが冷静に解説した。「でも、確率が高いということは、ほぼ確実に起こるということ。運命に近いものですのよ」


ガルスの表情が厳しくなった。


「戯言を...」


「戯言ではございません」カサンドラが別の映像を見せた。今度はセレスティアが氷の魔法で攻撃している場面だったが、氷の結晶がエリアの足を凍らせ、彼女が転倒して頭を石に打ち付けている。「セレスティア様の場合は82%。これもほぼ確実な運命です」


セレスティアが顔を青ざめさせた。


「そして...」カサンドラが最も恐ろしい映像を見せた。ガルスが剣でカサンドラに突進しているが、彼女が時間魔法で一瞬だけガルスの動きを加速させ、制御を失った騎士団長がエリアとセレスティアを巻き込んで倒れ込んでいる。「ガルス様の場合は94%。もはや運命と言ってよろしいでしょう」


「なぜこんなことを...」エリアが震え声で尋ねた。


「わたくし、無駄な戦闘は好みませんの」カサンドラが優雅に微笑んだ。「運命は変えられません。でも、選択する権利は皆様にございます」


三人は困惑した。映像はあまりにも鮮明で、リアルで、まるで実際に目の前で起こっているかのような説得力があった。


「これが...本当に未来なのか?」ガルスが呟いた。


「90%を超える確率は、運命と同じですわ」カサンドラが扇子をパタパタと仰いだ。「でも疑うなら、試してみてはいかがでしょう?きっと、運命通りの結果になりますわよ」


エリアは迷った。しかし、ガルスとセレスティアが危険にさらされる可能性があるなら...


「やめておけ、エリア」ガルスが制した。「敵の思う壺だ」


その時、カサンドラが突然攻撃魔法を放った。紫色の光弾がセレスティアに向かって飛んでいく。


「セレスティア!」


咄嗟にエリアが身を挺してセレスティアをかばおうとしたが、カサンドラの時間魔法が発動。エリアの動きが一瞬だけ遅れ、中途半端な位置で魔法を受けることになった。結果、エリアはセレスティアに倒れ込んでしまう。


「エリア!」セレスティアが慌てて彼女を支えた。幸い軽傷だったが、映像で見た「仲間同士の衝突」が実際に起こってしまった。


「ほら、ご覧なさい」カサンドラが得意そうに笑った。「96%の確率で予測した通りです。これが運命の力ですのよ」


ガルスが歯噛みした。


「卑怯な真似を...」


「卑怯?」カサンドラが首をかしげた。「わたくしは運命をお教えしただけですわ。それを信じる信じないは皆様の自由です」


セレスティアがエリアを支えながら立ち上がった。


「でも...でもこのままでは」


「そうですね」カサンドラが新たな映像を見せた。今度は、エリアとセレスティアが協力して魔法攻撃を仕掛けているが、カサンドラの時間魔法によって二人の攻撃タイミングがずれ、互いの魔法が干渉して大爆発を起こしている。「連携攻撃の運命は79%の確率。これも避けられない結末です」


三人は完全に身動きが取れなくなった。どんな戦術を取ろうとしても、カサンドラはその未来を見せつけ、必ず仲間同士で傷つけ合う結果を提示してくる。


「運命に抗うのは無駄ですわ」カサンドラが楽しそうに手を叩いた。「確率という名の運命は、絶対なのですから」


エリアが拳を握りしめた。


「くっ...このままでは...」


「さあ、最後の選択をしていただきましょう」カサンドラが大きな映像を出現させた。そこには三人が撤退していく姿が映っている。「撤退なさる場合の運命は99%の確率で『全員無事』です。これこそが、皆様にとって最良の運命ですわ」


ガルスが悔しそうに剣を握った。しかし、エリアとセレスティアの安全を考えれば...


その時、遺跡の影から足音が聞こえてきた。


「やれやれ、随分と運命論的な戦闘をしているじゃないか」


現れたのはルシアンだった。村での聞き込みを終えて、仲間たちと合流しようとしていたのだ。


「ルシアン殿!」ガルスが安堵の表情を見せた。


「あら、噂のルシアン・グレイヴァルト様ですのね」カサンドラが興味深そうに見つめた。「ちょうど良いタイミングでいらっしゃいました。あなたの運命も、とても興味深いものが見えますわ」


ルシアンは周囲の状況を素早く把握した。仲間たちの表情、カサンドラの余裕ある態度、そして空間に浮かぶ不気味な映像。


「なるほど、運命予知で相手を縛る戦術か」ルシアンが冷静に分析した。「それで仲間たちを困らせていたのか」


「困らせているなんて心外ですわ」カサンドラが扇子をひらりと振った。「真実の運命をお教えしているだけです。ルシアン様、あなたにも見せて差し上げましょう」


新たな映像が現れた。ルシアンが仲間たちを助けようとして前に出ているが、カサンドラの罠にはまり、逆に仲間たちを更なる危険に陥れてしまっている光景だった。


「93%の確率の運命です」カサンドラが楽しそうに言った。「あなたが行動を起こすことで、皆様の運命はより悲惨なものになります」


ルシアンは映像を注意深く観察していた。その詳細さ、リアリティ、そして仲間たちの動揺ぶり。確かにこれは強力な能力に見える。


しかし、彼の表情には不思議な余裕があった。


「興味深い能力だね」ルシアンが微笑んだ。「でも、君の『運命予知』には一つ致命的な欠陥がある」


「欠陥?」カサンドラの表情に僅かな動揺が現れた。


戦いは、これからが本番だった。

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