9話 アイデンティティー崩壊の音がする
うん、今なら分かる。
これ……中身が男だって分かってても「見た目かわいいからもう男でも良いや」ってなるわ……肝心の中身が光だから踏みとどまれてるだけで。
そういう意味ではリヒターさんには悪いことしてる気がするな……。
けど、それよりも。
目の前の――アバターのヒカリは。
「……パンツ、見えてんぞ」
「見せてるの♥」
「………………………………」
「や、これ、スカートの挙動のせいでこうなっちゃうんだわ。こればっかりはわざとじゃない。座ると普通に見えちゃうアバター、見たことあるでしょ?」
「まあ……」
「あと、有名な横町行くとやばいエロアバターとか普通に居るからね? もち、こんな清楚なおぱんつ様じゃなくって、上下どぎついのとかスキンのテクスチャがやばいのとか」
「そうか……」
「レイきゅんは」
「行くわけないだろ……中学男子じゃないんだから……」
「そういう方面じゃなくてもー?」
「魔境を煮詰めた魔境とか、初心者が行くか……?」
「確かに」
……美少女アバター。
着せ替えができるという言葉の通り……ああもう、つまりはだ、性器こそつるつるになる健全仕様だけど、下着とかは普通の服の下に着てるわけで。
それを着てる本人はいつでも、周囲でさえ、覗こうと思えばいとも簡単にスカートめくりどころか直接拝めるっていう、小中学生男子キラーな仕様なんだ。
んで、今言われたように――改造をしようと思えば「バーチャルなそういう用途」向けのR18も真っ青なのになるらしい。
まあ……うん。
そういうコンテンツ並みのとか。
うん。
これ、僕もそのくらいの年頃にハマってたらヤバかった……小学校高学年か中学でこれに触れてたら、絶対性癖歪むって。
なんならバーチャルの世界から戻って来られなくなってフェードアウトするって。
「ねぇ」
「だから見えて……良いから、何だ?」
美少女アバターに入ったヒカリが、蠱惑的な上目遣いで僕を見てくる。
「ハマったアバターでの自撮りとか……最高よ?」
「………………………………」
……うん、ちょっとはしてみた。
僕だって男だ。
フル3Dで好きなように動かせるアバター。
美少女。
……しないのは男じゃないだろ?
「よーし! レイきゅんがレイちゃんになっちゃう前に勉強だ勉強!!」
「プラベでは名字の方で頼むわ」
「あ、もしかしてレイちゃんって名前、その美少女なバーチャルと一体化しつつある感じ?」
「……まあ、な」
「自己同一性は大切! うんうん了解、俺っちの親友、佐々木君とお勉強だ!」
「おう」
そうして僕は2週間ぶりくらいに――溜まっていた宿題やプリントを机に出す。
「あ、そういやヒカル」
「なに?」
「お前……ゴーグル着けたままで勉強できんの?」
「あ」
やつの美少女アバターが、下を向く。
……そうだよなぁ、ゴーグルしてると首の動きトラッキングするもんなぁ。
「しかもフルトラで……?」
両手――まではVRゴーグルのコントローラーで分かるけど、横になってるしなぁ、ソファに……。
目は手元を見られない、そもそもとしてその手元すらコントローラーを握っている状況で、本気で勉強を始めようと?
「………………………………」
「………………………………」
僕たちのあいだに、沈黙が流れる。
学校でのそれとは違い、今度は相手が汗をかく気配が含まれたものが。
「……俺ちんもちょっとヤバいかも?」
確かにヤバさはうかがえる。
けど、
「大丈夫だ。僕みたいに壊滅的にはなってない」
「その自覚がある時点でヤバいんだけど……」
目の前の、光の美少女アバター、ヒカリがもぞもぞと動き出す。
「………………………………」
そして、ワールドの鏡で僕自身を見る。
「………………………………」
……誰でも手軽に好みの美少女になれるっての。
これはまだ……人類には早すぎたのかもしれない。
てかこれ、まず間違いなく少子化を加速させるような……?
だってほら、野郎どもが本気で自己満足するようになるだろうし……?
プライベートな空間で国の未来を憂う――そんな夕方だった。
◇
「やっぱ人類――てか我が国民の将来ってさ、電脳空間に意識アップロードしてーの肉体はマトリックス的に生きてるだけにしてーの、国民総アニメ調美少女種族になるんじゃねぇ? つまり、マジでエルフ的存在になるのよ」
「中村、お前……いやまあ、そう思わなくもないけど」
「だろ? これ、やばいよなぁ」
数日後。
僕たちはあいかわらずに、ネット上での勉強会をしている。
「お互いに自分好みの美少女になりきるって前提だから声との乖離とか気にならないしぃ? なにより我が国民が大好きなかわいいだしぃ? 将来的には某眼鏡小僧の蝶ネクタイな変声器なボイチェンでリアルタイム翻訳だろうしぃ?」
「否定できる要素、なにひとつないな……」
「でしょ? てかそもそも、美少女率ここで高いのって我が国だけらしいし」
「この国はもう終わるな……」
「わりと真剣にね。主に人口の再生産が止まるって生物学的な理由でね。この国の最後は人口が1人になってからの……ってな」
あれから試行錯誤して、結局勉強中もフルトラでやるようになったヒカリ。
なんでも、プリントとかを全部スキャンしてパソコンに写して、VR機器でそれを表示して勉強するとかいうアクロバティックで無駄すぎる手法にしてるんだと。
馬鹿か?
いや、こいつより馬鹿なのは僕だった……僕はこれよりも馬鹿なのか……。
「……それにぃ?」
ずいっ。
ヒカリが――俗に言う「女豹のポーズ」でにじり寄ってくる。
「この姿同士なら、くっついててもレイきゅんが嫌がらないしぃー?」
「………………………………」
「どきどきする? ねぇ、どきどきする?」
「……否定はしない」
画面はそのままで、思わずに顔を背ける。
……だってしょうがないじゃん、たとえ中身が悪友だろうと、画面越しの見た目はかわいいんだから。
「……ぇ」
ぽつり。
「………………………………」
「………………………………」
え?
何その反応?
……いや、何か言ってよ……?
気まずすぎる静寂が流れる。
「……あ、あー! なるほどぉー!」
アバターごとがばっと起き上がったヤツは、もういつも通りのテンションに戻っていた。
「……レイきゅんもオトコノコ。このおっぱいに見惚れちゃったかなぁー?」
「ログアウトして良いか?」
「なにしろレイきゅんの性癖はそのアバターで完璧に把握! なるほどなるほど、レイきゅんのアバターくらいのほどよい大きさので、肩出しが――あ、ちょ――」
ぷつり。
「……ふぅ……」
僕は、とっくに終わっていた宿題に――「ヒカリ」との勉強会のために自主的に進めていた問題集を畳みながらため息をつく。
「……こりゃあ本当に、人口減少どころか滅亡まで引き起こしかねないな……」
僕は――部屋を閉め切ったせいで暑くなっていたせいだろう、熱くなっていた体と顔を冷ますため、軽くジョギングでもしてくることにした。
◆◆◆
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