53話 練習で外出女装――していたら
「………………………………」
駅前。
休日の午後とあって、人がたくさん居る場所。
最寄りからは少し離れた繁華街――僕はそこで、女子の格好をして立っていた。
商業ビルのガラスに反射する、僕の姿。
着慣れた――自室とバーチャルで――僕のメインで使っているアバターのデフォルトの服装にそっくりなセーターに肩出しシャツ、スカート。
念のためで今日はカツラ――じゃなくてウィッグを被り、髪の毛は背中に届く程度。
コスプレっていうわけじゃないから毛の色は僕の地毛に合わせてあるおかげで、違和感のない長髪の――「女の子」。
服装自体はコスプレではあるけどもシャツの色は違うし……うん、VRなチャットに染まっている人じゃないと反応もしないだろう。
こんな休日のこんなにリアルが充実している男女だらけの場所だ、1人寂しくインするようなバーチャルの世界の住人なんて、そうそう会うはずがないから大丈夫なはず。
「………………………………」
そうだ。
今の僕を知る人はここには誰も居なくて、外見も――高くしていれば声も、女の子。
顔は家を出る前にいじってきたし、これなら僕がうっかり地声を出しちゃうか「男なんです」って言っちゃうか……うっかりにもほどがあって男子トイレに入って立ったまま用を足しちゃうとかしない限りには、バレることはないはず。
……出かける前に母さんに言われたっけ、「堂々としていれば、たとえ似合わなかったとしても違和感持つ人なんてそうそう居ないわよ」って。
だから僕は、この前に無理やり連れ出されたときとは違って、あのときのトラウマを払拭すべく自然体で歩き出す。
――ナンパ除けのいろいろは母さんから教え込まれたから大丈夫なはず。
ここに僕を知る人は居ない、気楽に行こう。
◇
……数分おきにナンパされた……もうやだ。
疲れた僕は、女の人が多いカフェをわざわざ選んで駆け込んで――ついついでまた太りそうなスイーツセットを頼む。
入ってから「女性は基本的に2人以上で歩くから、1人で入ったら男ってバレるかも」って思ったけども……いざ入ってみれば、ぽつぽつだけど1人でお茶を楽しんでいる人も居てほっとした。
「ふぅ……」
それにしても、甘いものはやっぱり良い。
このせいで無駄に太ったけども、確かに甘いものは食べていて飽きない。
男でも甘党とかいるけど……僕、そういうのだったのかな。
それとも中村が茶化すように、メス堕ちしたから甘いものが好きになったのかな。
もうどっちか分からないけども……どうせ学園祭までだ。
それが終われば女装する理由も無くなるんだし、そこで男らしくきっぱりと終わらせよう。
まだ母さんにも言ってないけども、区切りをつけておかないと僕の将来までがメス堕ちしそうだから怖いんだ。
いやだって、僕、普通に男として社会人になるつもりで居るし……別に精神的に女の子になりたいわけでもそう主張したいわけでもないから、本当に普通の男として静かに働いて暮らしたいんだ。
そうだ。
ヒカリも言ってたじゃないか――「せっかく、今だけだから」って。
なんでも思春期はホルモンバランスがどうとかで性別に疑問を持ちがちってことだけど、大人になって落ちつけばただの黒歴史で済んでくれるはず。
この衝動は、VR空間で発散すれば良い。
はしかみたいなものだから、きっとそのうちに飽きるだろう。
……飽きるよね?
「………………………………」
……その闇が母親と父親と学友に知れているのは……学友はどうせ社会に出たら疎遠になるから良いとして、両親はどうすべきかなぁ……。
気の迷いってことでなんとかお互いに口にしにくい話題ってことにしたいんだけど……どうするかなぁ。
と、甘いものでダウナーな心を中和していたらスマホに電話が。
『レイきゅんだいじょぶ?』
「うん、なんとかね」
『野郎にかわいい連呼されて丸め込まれて連れ込まれたりしてない?』
「するわけないだろ……」
『でもメス堕ちしてるから心配で』
「メス堕――は止めてくれヒカリ……」
周囲の盛り上がっている女性同士の会話の方がうるさいから問題は無いだろうけども、話してる内容が内容だ。
自然に声は小さくなるけども、普段通りのヒカリについつい抗議してしまう。
「…………?」
『んでんで? 露出の感想は?』
「女装な? ……思ったよりも平常心だ」
『なるほどぉ。なら心配しなくて良いっぽい?』
「うん。ナンパも軽くあしらえたし……いざとなったら走って逃げれば良いし」
『あー、うん。さすがにそこは男の脚力だからねぇ……普段運動してなくっても普通の男子だからなんとかなりそうね』
「まぁスカートだから走りづらそうだけど」
『確かに。そのスカート、長めだし』
「シアノちゃんのだからね……」
『レイきゅんの好きな、清楚系のアバターだからね!』
「……!」
「……あ、ごめん。今お店の中。電話して睨まれたら怖いから切るよ」
『うん、がんばってねぇー』
ぴっ。
「ふぅ……」
しゃべっている最中から視線を感じた僕は、そのままだと今日の感想をいろいろしゃべっちゃいそうだったこともあって、なんとか会話を打ち切った。
悔しいけど、今の友人の中で僕のことをいちばんくわしく知ってて話も弾むのがあいつだからなぁ……。
「……あの、ちょっと良いですか?」
「え? あ、はい」
顔を上げると――女の人。
大学生くらいな雰囲気の、おしゃれな人。
確か隣のテーブルで1人で優雅にスイーツを楽しんでいた人だっけ。
怒っている感じじゃないけど、わざわざ話しかけてくるってことは。
「ごめんなさい、電話がうるさかった――」
「あの、人違いだったらスルーしてほしいんですけど」
と、僕に被せるようにたたみかけてきた彼女は、
「……あなた、もしかしてレイくん?」
「……へ?」
僕は――座っている僕に向かって少し屈むようにしてのぞき込んできている、年上でおしゃれで、声も優しい感じで――けれども「似た声をどこかで聞いたことがあるような」感じがして――ぼけっとしながらなにも反応できずにいた。
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