50話 貢がれる僕
「あ、あの、レイさんっ」
「はい?」
「こ、これ……受け取ってください!」
「……あー、ありがとうございます……」
「! お、俺も……」
「私も」
「……ありがとうございます……」
◇
「……で、渡されたのがSNS経由で……」
「うん……」
僕は、新しい衣装を着せたアバターに入り、ミラーでいろんな角度を確かめたりしつつ、言う。
「新衣装……なるほど。つまりはあれだ、貢ぎ――」
「違う……って言いたい……」
VRなチャットは、電子データの世界。
……だからこそ改造が簡単で、簡単にするツールも配布されていて……アバターごとの専用の衣装だったり、ちょっと手を入れるだけで素人でもわりと簡単に合わせて着せられる。
そして――オンラインのショップで販売されているそれらは、他人が買ってプレゼントすることもできる。
「そういうの、最近多いね?」
「うん……」
「嬉しい?」
「……嬉しい」
「うんうん、順調に姫プしててなにより」
「お前……」
……自覚はしている。
僕はなぜか、モテている。
それも「性別不明」として。
「……男って、公言してるのになぁ……」
「や、だってSNSはVRなチャットのスクショと自撮りでしょ」
「それでも、前から知ってる人とかとは……」
「ねぇレイきゅん? 初対面は知らない人同士で、それから数ヶ月かけて仲良くなった人とか。……最初になに話したとか、どんな声だったかとか……覚えてる?」
「………………………………」
「そゆこと。リアルならリアルの肉体で個人の識別ができるけどさぁ、ネットはねぇ……アバターだって数千円払って一瞬で導入だし、SNSだってアイコンと発言変えちゃえばもう分かんないでしょ? 後はほら、全校集会で会う程度の関係とか、男だったのが女になってても絶対分かんないでしょ?」
――確かにそうだ。
ネット上の相手の属性なんて、その人の発信内容で推測するしかない。
つまりは――言ったもん勝ち。
その人がそう主張するんなら、そういうことになるんだ。
「もし、声が最初は男だったとしてもよ? それがボイチェンとか男除けで男兄弟に代弁してもらってた――とかだったら、もうわかんないでしょ?」
「……確かに……」
「今はボイチェンとか高性能になっちゃったからねぇ……アバターはデフォでかわいいし、もうわけわかんないよね」
「うん……わけわかんない……」
僕は頭を抱える。
――銀髪ロングのウィッグから、地毛でも肩を隠すようになった髪の毛を。
「レイきゅんだって、最初の頃みたいにウィッグ使わなくなったもんねぇ」
「ウィッグは……頭が痒くなるんだよ……」
「わかる。特に夏場はね」
「VRゴーグルも暑いから……」
部屋の隅の段ボールには、もう使わなくなったウィッグが収納されている。
……ヒカリから情けなく泣きつかれ、しょうがなくケモ耳バンドは着けてるけどさぁ……。
「ね? 生粋の男子だったレイきゅんがこうなるまでの時間よ?」
「お前のせいだけどな」
「じゃ、やめる? もう1人ずつから数千円程度貢がれちゃってるけど」
「………………………………卑怯だぞ」
最近は僕の服――コスを適当に漁って着ているヒカリが、ずるい顔をする。
「まあまあ、メス堕ちしちゃった責任は取るってぇ」
「そうか。ならいいか……」
もうよく分からないけども、なにかあったら責任取ってくれる確約はしているから大丈夫だろう。
心配だからこいつの姉にも密かに連絡を取っているし。
「任せて! 玲くんが幸せになれるようにがんばるから!」って言ってくれたし。
ああ、お姉さんは素敵な人だったな。
こいつとは違って。
「あ、レイきゅんの干し芋」
「干し芋……ああ、通販サイトの欲しいものリスト」
急に話を変えるのはいつものことだから、疲れる頭を酷使して話題の転換について行く。
「おー、何個も発送済みになってるねー」
「? 特に買ってないし、そもそもなに入れたか――」
――すっ。
ノートパソコンの画面を見せられる。
「………………………………」
……え?
「どうやら本当に貢いでるねぇ……ほれほれ、今VRのレイきゅんが着てる服とおんなじやつ、念のためにって干し芋リストに放り込んどいたの、明日着くって」
「……こんなにかわいい服を?」
「こんなにかわいい服を」
「住所とか名前……」
「バレないバレない。たまーにお漏らしされるけど……ま、大丈夫でしょ」
……どうやらリアルの僕にも、これを着ろと。
「……フレンドさんたちは、なに考えてるんだろうね……」
僕は、送ってくれた仲の良いフレンドさんの顔を――もちろんVRアバター、もちろん美少女とか小動物とかの姿――を思い浮かべる。
「VRなチャットでも着てほしいし、リアルでも着て自撮り上げてほしいってさ」
「……そうか」
「あ、そういやさ、言ってなかったんだけど」
「大切なことなら早く言ってくれ」
「レイきゅんのファンボ――月額課金のファンサイト。『特典でSNSに上げてない自撮り上げる』って書いちゃったんだけど?」
「………………………………」
「あ、えっちなのはナシだから。 そこだけは俺ちんを信用して?」
「……お前って、僕が本気で怒るぎりぎりのライン攻めるよな……」
「ふふん、責任取る関係だからね!」
よく分からない理屈で楽しそうにしている悪友を小突きつつ。
「……お、お金取ってるなら、ちょっとは際どいのとか撮らないといけない……のかな」
「レイきゅんがOKならね」
「………………………………」
僕は、発想された服のリストを見つめる。
………………………………。
……うん、肌色面積の多い服だけど……男の体でも良いんなら……。
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