25話 だだ漏れの個人情報
「ありがとうございました! 私、始めたばかりで……」
「このゲーム、名前とステータスは強制表示だからね……明らかに女の子っぽい名前でnew user――始めたばっかって分かったら」
「パブリックなワールド――誰でも入ってこられるこんな場所じゃ、初心者の女の子狩りも多いもんねぇ」
特に予定もなく、勉強も終わり、なぜか続いている演技指導を終えた僕たちは、適当なワールドで適当に過ごしていた。
……そしたら入ってきた、明らかに操作に不慣れなアカウントの人。
そして群がる男ボイスたち。
どう見ても、治安の悪い駅前とか繁華街でたむろして、好みの女の子を見つけると囲んでいくタイプの男だよな。
だからそこへ僕たちは突撃し、待ち合わせのフリをして追っ払った。
「この界隈はね、治安はびっくりするくらいに良い方なんだけど」
「ああいう輩は一定数居てさ、名前が知られてきたら転生し直すからさ……」
「下半身直結と構ってちゃんはねぇ……」
「レイきゅんも最初は苦労してたよねぇ」
転生。
アカウントを作り直す、または別のアカウントで始めること。
それが簡単にできてしまうのは良いことでもあり、悪いことでもある。
まぁ良い人は悪用しないし、悪い人はどんな環境でも悪用するからそういうもんだと諦めるしかない。
「でも良かったです! 女の人に助けてもらえて」
「えっ」
「え?」
目の前の――最初から選べるサンプルアバターの、声が明らかに女子でしゃべり方もまた女子、スマホ音質ってことで本物の女子が――僕を見て疑問の声を上げる。
うん。
最近は――慣れてない人限定で、リアルの性別が分かるようになってきたんだ。
選ぶアバターとか名前とかプロフィール欄の言葉だけでも。
「……ごめんなさい、僕、男なので」
「えっ」
「いわゆるネカマです……この用語を知ってるかは知りませんけど」
「え、でも、声とか話し方とか落ち着いた女の子って感じで」
「かふっ」
演技指導。
……そうだった……今日は短かったけど、継続してヒカリにコーチング受けてる演技指導のせいで、ナチュラルに演技してた……!
「……んんっ。地声はこうです」
「わっ!? 本当に男の人!?」
「そうよん? レイきゅんはリアル男の娘よん?」
「ちょっと静かにしてくれるかなヒカリよ、余計混乱するだろ」
あと個人情報。
個人情報……!
「わ、私、男の娘とか初めて見ました! 両声類とか言うんですよね!」
「おや、そこそこ詳しい?」
「はい、動画とかでVRなチャットのことを見てから興味持って」
「最近は良いよねぇ……基礎知識仕入れてからみんな来てくれるから」
両声類。
異性の声も扱える人のこと。
……そういうチャンネルも多いからなぁ……そこにボイチェンも含めると、もはや元の性別年齢が完全に信用できなくなる魔境だ。
「レイさん!」
「……何でしょう」
「フレンドさんになってください!」
「それは良いですけど」
「あと写メ交換しましょう!!」
「ネットでは悪い男ばっかりなので、そういうことは」
「いえ、男の娘とか、うちの学校とか居ませんし」
「そういうことじゃなくてね」
「ある程度仲良くなったら俺ちんが見せたげよっか?」
「!!! はい!」
「ヒカリ、頼むからどっか行ってくれ」
どうやらこの子は残念な子らしい。
僕たちが結託してこの子の興味ありそうな話題で釣って、AI生成でもした「男の娘」の写真でも送って、それで「じゃあリアルでも会おうよ」っていうパターンのことを考慮していない。
「……そういうパターンあるから気をつけようね?」
「え? でも、レイさんは男の娘ですし、声からしてヒカリさんは……」
「美少女アバターでかわいくなってる俺ちんたちは女子にとって無害な存在よ? だって自分たちがかわいくてちやほやされたい側だもん」
「ですよね!! かわいいです!!」
「……はぁ……」
きゃっきゃし出したその子とヒカリを置いて、僕はそっと離れる。
……初対面でヒカリと同じテンションってことは、慣れるとヒカリと同じく面倒なタイプだってことだ。
僕はワールドの反対側まで行き、そこで壁に沿って座って、文字でコミュニケーションを取っている人たちの輪の外側に収まる。
ああ。
この世界で僕の居場所はなくなり、学校でもなくなり……家でも微妙な空気が漂っている。
……僕の居場所、どこに行っちゃったんだろうね。
「ほらごらんよ あれ、フルトラなんだぜ?」
「え、じゃあリアルでも女の子座りしてるんですか?」
「うんうん、今はちょっと変な座り方になってるけど、あれはお安い機材だから。高い機材使えば、男なのに柔らかい関節のおかげで女の子座りできるようになって、それがデフォになってるレイきゅんがご堪能いただけるのよ?」
「やばい……天然男の娘最高……」
「でしょお? しかも最近は……」
……そういえば。
脱毛のおかげで……ふとももからうぶ毛以外なくなってるんだよな。
「………………………………」
僕は、ヒカリが来たときに部屋に置いていった――女子の制服のスカートを思い浮かべる。
「………………………………」
……どうせ、この座り方するのなら。
どうせ、母さんが居ない時間帯なんだから。
いやいや、まだ宅コスは早いって。
まだってなんだ。
いや、どうせ学園祭ではすることになるんだから。
いやいや、まだまだ先の話だから。
でもかわいいのは嬉しいでしょ?
嬉しいけど。
そう、頭の中でもんもんと考え続け――膝が痛くなってきたころになって、ようやくにヒカリたちが寄ってきて、静かな時間は終わりを告げた。
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