24話 ハジメテの感想
「うんうん、それは大変だったねぇ親友よ」
『うん……本当、死ぬかと思った』
「さすがの俺ちんも、この話、学校ではしなかったけど聞いても良いよねぇ? いつもお世話したげてるしぃ?」
『……一応、信用できるところ紹介してくれたしな。それに言わなかったらしつこいだろ』
「あはっ♥ さすがは親友だねぇ」
『うるさい』
教室――放課後、でもまだそこそこの人数が「なぜか」残っている教室。
そんな空間に、佐々木玲の声が響き始める。
中村光が「良いことがあるから」とクラスの男女の大半を引き留めていた――夕暮れの教室に。
「?」
「おい、中村。そのスマホ、スピーカーモードに……」
「そんなに痛かった? 玲きゅんの、ハジメテって」
『……すごく』
「どんくらい?」
『今でも思い出したくないくらいには……』
「!?」
「!!??」
男女とも一斉に中村光へ振り返り――「彼」の声が響く、その手にしたスマートフォンへ、くぎ付けになる。
「明日、学校大丈夫そう?」
『うーん、全身の肌……特に股がヒリヒリするからなぁ……座るのも痛いし、体育とかあるし……』
「うんうん、なにしろ初めてだからねぇ、痛みもしばらく残るよねぇ」
『もう、動かすたびにまだ痛くってなぁ』
「 」
「 」
女子たちの顔が深くなり、男子たちの顔は赤くなる。
「そうだよねぇ。ハジメテのあとしばらくは痛むよねぇ」
――うんうん。
数人の女子が「その痛み」を思い出し、深くうなずく。
同時に「彼」を、自分たちの仲間と――同じ痛みと恥じらいを経験した仲間と認識する。
「ただの男子」ではなく「痛みを共有した仲間」として。
『次からは痛みは減るって聞いたけど……僕、こういうの初めてだし、肌の感覚とか敏感な方だから、もうしばらく痛むかもって』
「だろうねぇ。なにしろレイきゅんは敏感肌で感度良いからねぇ」
『その表現にはもの申したいけど……確かに、小さいころはくすぐり合いとかで1番先に負ける弱さだったからな……』
「玲きゅん、知ってる? ――足の裏とか脇の下とかが弱いってさ、感度すごいんだって」
『その表現は止めてくれ……』
「うっ……」
「………………………………」
男子たちの何割かが、机に突っ伏す。
女子のうちの何人かが、素早く何かをノートに書き記す。
「てかさ、思い切ったよねぇ。初対面の大人相手に1人で行って、服脱いでおっぴろげとかさぁ」
『おっぴろげ言うな。……すっごく、恥ずかしかったんだから』
「初めて会う大人の人相手に全身さらけ出すとか、一生に1度しかない体験だもんねぇ」
『……さっきから表現おかしくない?』
「でも事実でしょ? 玲きゅんの細い体つきと白いお肌を余すことなく」
『分かったから表現だけ改善してくれ』
「だって玲きゅん、筋肉もつかないし日焼けしないって言ってたじゃん」
『そうなんだよなぁ……そういう体質だって諦めてるけど』
「そう――女の子の素質、最初っからあったんだよねぇ」
『つい数十日前まではただのコンプレックスでしかなかったはずなんだけどなぁ……』
「 」
「゜」
天井を向いて目を剥いている男子が、数人出始める。
息の荒くなり始めた女子が、数人出始める。
「んでんで? テクニシャンでエキスパートな担当者さん紹介したけど、優しくしてもらえた?」
『話し方とか手つきとか、する前までは優しかったんだけどな……』
「いざとなったら、玲きゅんが脱いだら豹変したと」
『痛いって言ってるのに止めてくれないんだ……』
「何回も何回もやられたわけね」
『途中から涙とか声とか止められなくってさ……終わってから頭とか撫でられて恥ずかしいってもんじゃなくって。でも、終わるまで「もうちょっとだから」って励ましてくれたからさ』
「 」
「 」
ペンを走らせていた女子が撃沈した。
「大丈夫? そんなに激しくされて、気絶とかしなかった?」
『さすがにそこまでは……最後の方になってようやく慣れて、痛みがちょっとだけ楽になったから』
「気持ちよくなったりした?」
『………………………………』
「ん?」
『………………ちょっとだけ』
「!!!!」
「はぁ……はぁ……」
教室の中で、まともに座っている生徒は1割以下。
ちなみに最初は立ち話をしていた生徒も、最寄りの床で体育座りをしている。
「服脱いで、ベッドに仰向けになって、お股開いて、何されても目をつぶってじっと耐えるしかないもんね。がんばったがんばった」
『世の中の女子って、本当にみんな、あれを……?』
「うんうん、女子だからねぇ。するときはなされるがまま、上に乗られて欲望のままにされるんだよ」
『……施術の話だよな?』
「施術の話よん?」
聞かないフリをして勉強をしていた――はずの、学級委員長の耳元が真っ赤になり、とうとうペンを置いて撃沈する。
「ま、安心して。次からは楽だから」
『本当だな? 信じて良いんだよな?』
「ハジメテのときは緊張してこわばるし、無駄に集中しちゃうからいろんな感覚に神経尖らせちゃうし、初めての痛みと屈辱と格好とで本来より痛く感じちゃうの。でも2回目以降になると『あ、こんなもんか』ってなるし――あと何より、1回使ったから、次からは使われたところも柔らかくなるし」
『……本当に施術の話だよな?』
「そうよ? 他になんだと思ってるの玲きゅん」
『もう切るぞ……相談に乗ってもらった分は、ちゃんと話したからな。あとで「まだ足りない」とか言って変なこと言ってくるなよ』
「うんうん、俺ちんもおいしい話聞けて大満足よん」
――ぴっ。
会話が終わると同時に、教室中でため息が漏れる。
「――ね? 日が陰ってくるまで教室戻ってもらった見返り、あったでしょ?」
光は、頬をつやつやと光らせながら立ち上がる。
「ええ……」
「ああ……」
「佐々木が……初めてを……」
「あの佐々木が……」
「佐々木きゅんが……無理やり……」
他の生徒――20人ほどの彼らは、ぴくりとも動けない。
「玲きゅんったら、元から毛は薄い方だしぃ? たぶんふとももとかは目立たなくなるから――スカートへの抵抗感も、薄くなるよねぇ」
「!!!!!」
「中村……お前……!」
「そういうわけで」
ひとりだけ鞄を担ぎ上げた「悪友」は――とびきりの笑顔を、残りの生徒たちに向ける。
「――玲きゅんのスカート姿、早く見たくなった人は。積極的に、コスプレして来てね? 女子もそうだけど、何よりも男子諸君――君たちが羞恥心を早く捨てるほどに玲きゅんの素晴らしい姿を拝めるよぉ……?」
その瞳は――夕日を反射して、悪魔のように光っていた。
◆◆◆
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