19話 お砂糖という魔境の極致
「うーん……」
「お? どうした? いよいよフレンドさんたちのあいだでレイちゃんの取り合いで修羅張っちゃった?」
「いや、そんなことにはなってないけど……」
悪友の馬鹿話を一蹴する。
んなことあってたまるか。
……って言い切れないのがこの界隈の怖いところなんだけどなぁ……。
「でもお砂糖――バーチャル恋愛のお誘い多いんでしょ?」
「それはお前にだって来るって言ってたろ……」
「まぁね、VRなチャットの民は見境ないからさ」
目の前で美少女になっている中村が美少女な仕草で――さりげなく声もかわいくなりやがってからに、言う。
「人ってさ、相手の外見で好き嫌い決めるじゃん? 少なくとも初対面は」
「まぁな。知ってる情報が外見しかないんだからしょうがないよな」
「うんうん、しょうがない。まぁ中には美醜の感覚が薄い子とかも居るけどさ、レイちゃんみたいに」
美醜の感覚。
そういや僕も、そんなフシはある。
……だからこそ、こんな悪友とも顔つき合わせて平気な部分があって、それがなぜかコイツのお気に召したからまとわりつかれてるわけだけども……ああ、これは正しい感覚だったんだな、生存のために。
「んで、美少女よ? 男はもちろん、女だって……ほら、かわいいドールとかおめめキラキラの少女漫画とか、ニチアサの美少女戦隊ものとか好きなわけで、つまりはかわいいは正義なわけでよ?」
「あー」
「要は『かわいい』って時点で男女ともに好感度高いわけ。で、VRなチャットではプロのモデラーさんが丹精込めて作ったすっげぇ美少女、それも3D、しかもたいていはおっぱい盛っててさ」
「……胸は関係」
「レイちゃんのアバター」
「なんでもない」
「良いのよ? 男はおっぱいに逆らえないんだから。俺ちゃんの揉む?」
ふるんっ。
フルトラで身震いするヒカリ。
僕と同系統の美少女ケモミミ尻尾アバター(Dカップくらい)の物理演算がプリンのような動きをする。
「……要らない……」
「レイちゃんの目の保養のために盛ってるのにぃ」
僕をバカにしてくるところは、完全に学校でと同じノリだ。
それがはたして僕を現実に留めておこうという努力なのか、それとも単純になんにも考えてないバカだからそれしか言えないのかは置いておく。
「だからさ、つまり何が言いたいかっていうとだね、美少女アバターってだけでガチ恋してもおかしくないのよ。ほら、バーチャルはバーチャルでも2次元で配信とかしてる方のにもそういうの多いでしょ?」
「あー」
「あと単純に、マンガとかアニメで好きなキャラとか、中には1枚絵でも好きな推しになるのって居るわけで」
「あー」
「でさ、バーチャルの方に戻すとアレってさ、中身男で男ボイスで何度『男です』って言っても信じずにガチ恋アピしてくるのとかいる魔境なんだって。もちろん男から」
「ここと同じか……」
「だねぇ」
うん。
男って、バカだな。
「画面越しでもゴーグル経由でも、めっちゃ近いとこで、まるで生きてるみたいで本物みたいな美少女。……そら仲良くなれば」
「好きにもなるか……」
「そゆこと。レイきゅんだって、アバターとかしゃべり方、仕草だけで正直クラッときた相手、居るっしょ?」
「………………………………黙秘する」
だって、しょうがないだろ?
みんなかわいい見た目だし、僕が好きな系統の属性のキャラで動いてしゃべってる人が居たら、ついつい見ちゃうだろ?
「てなわけで、お砂糖が多発しやすい環境なわけ。ま、リアルでも毎年クラス替えのあとGWまでに付き合ったフラれたって話が出始めるし、毎日のように会ってれば1ヶ月くらいで好きになる相手が居るのも自然っしょ。相手の中身が同性だったとしてもさ。まぁリアルだと性別っていう物理的な制約で友達のレベル止まりがほとんどだろうけど」
「……お前、そういうことには頭回るんだよな」
「もう勉強見なくて良い?」
「ごめんなさい」
悔しいことに、だ……こいつ、頭良いんだよな。
おまけに体育でも女子からキャーキャー言われてるし。
なのになんで僕にばっか絡むんだろうな?
「……あの、さ」
「……どうした急に、しおらしくなって」
朗々と自説を語っていた悪友が、いきなり聞いたこともないような声になって思わず聞き返す。
……こいつ、こんな声出せるんだな。
なんていうか、庇護欲をかき立てられるっていうか。
「ど、どうしてもお砂糖のお誘い……つまりは告られて面倒だったらさ。お、俺ちゃんとお砂糖……つまりはレイちゃんは人のカノジョってことにしても、良いよ? んで俺ちゃんがカレシ」
「どうしてそこで僕が彼女なのかがよく分からない」
「だってメス堕ちしてるじゃん?」
「ぐぅ」
「女声もすでにデフォルトで中性ボイスにできてるわ、仕草がいちいちエロいわ、しゃべり方もいよいよだわでもう正直俺ちゃん襲いたくなるレベルで襲って良い? ジャストしちゃう?」
「やめてくれ」
ジャスト。
電脳空間上での仮想的な――恋人同士がする繁殖行動のこと。
何とは言わない。
「な?」
「……ああ」
事実羅列陳列罪だけど、僕は黙るしかない。
「ま、そゆことで。俺ちゃんの話術ならなんとでもなるからさ。困ったらコールしてねん? レイきゅんからだけは着信音変えてるから」
「なんだか怖いからやめろ」
「ああん」
「……ふぅ」
僕は――もはやまったく負荷にも感じなくって違和感もない、VRゴーグルを付けたまま――胴回りと脚に巻いたフルトラッキングのバンドを意識して、自室の床に寝転がる。
――光が……いや、ヒカリが、お砂糖相手。
「そういうこと」にすれば……うん。
仲がいい人ほど僕がこいつに誘われて始めたって知ってるし、前はともかく最近はわりと一緒にどっか行ったり集会行ったりしてるのを知っている。
そんな僕たちがお砂糖――付き合っているって噂が広まれば、まるで校舎裏に呼び出されて男から告白されるっていう、正直嬉しいのが悲しいシチュも激減するだろう。
「レイきゅん」
「何だ」
「今日の俺ちゃんのおぱんつ、好き?」
「……黙秘する」
「よしよし、黒紐パンも好き、と」
……うん、アバターが悪い。
なにもかも、高々数千円で自分の体のように動かせる、現実離れしたかわいさと色気のあるこの美少女アバターが悪いんだ。
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