12話 メス堕ちで発覚、まさかの女認定だった
「……えぇ――――――!? うそ、ほんと――!?」
「え……何その反応」
「だーって! 私、てっきりレイちゃんのこと、リアルが女の子だって思ってたもん!! だから百合営業してたのにぃ!!」
「……そりゃまたどうして……」
僕はたぶん、不安なんだ。
僕の十数年来のアイデンティティーたる男子、漢としてのそれがたったの1ヶ月で脆くも崩れ去りつつあることに。
だから、インしたらすぐに招待を飛ばしてきたルーチェさんのところへ行って「秘密の話がある」ってプラベに来ているわけで。
……そうか、僕のこと女子だって思ってたからこんなに仲良くなったし、プラベOKなのか……なるほど、普段の僕に対する女子たちと同じ扱いだったのね……。
そりゃそうだ、いくらバーチャルの世界だとは言ってもリアルが女の子なら、リアルでも女の子って分かってる相手か、よく知ってる男しか部屋に入れないもんね……。
「そもそも僕、男だって言ってましたよね……?」
「だーって、女子のフレンドさんも男のフリしてる子多いし! けどお互いに女子って察してるだけですし!」
あー、それ事前知識で知ってたわー。
「そもそも僕、男の声だったじゃん……」
「だーって、ボイチェン使えばそんなの分かんないし。声高い男子とか居るでしょ!?」
あー、それも知ってたわー。
「それにほら! 体動いてないときはぶっきらぼうだしどっちか迷ってたけど、そうして動くようになると自然な女の子だし!」
「……自然……そうか、僕はそこまでメス堕ちして……」
「わー!? 急に体育座りしないでー!? 見えてる! おぱんつ見えちゃってる!!」
そうか……僕、自然な女の子の動きしてたんだ……。
なんかショック。
いや、すごくショック。
「ていうか正直、今でも女の子だって思ってるんだけど!?」
「これだけ自白しといて証拠足りない……?」
犯人が自白してるのに疑われるとかさぁ……そんなに僕、メス堕ちしてた……?
「ううん、逆。わざわざ女子だって隠してない私に『リアルは男子だ』って言いに来てるから……待って、頭くるくるしてきた……女子って思えるのに男子……? なにこれぇ……?」
「奇遇だね……僕もだよ……」
頭を抱える僕たち2人。
中身はメス堕ちしかけてる男子と、それを同性だと思い込んでいた女子という地獄。
「リアル僕っ子ってかわいいって思ってたのに……」
「そりゃあどうも……」
「てか、女子のフレンドさんも普通にレイちゃんのこと女子扱いしてるよ……?」
「そりゃあどうも……みんな節穴だね……気をつけてね、女の子のこと狙ってる悪い男のこと……」
僕はもうダメだ。
いろいろと破壊されたんだ。
「けど……そっか。レイちゃん……じゃない、レイくん、男の子なんだ」
「そうだよ……ごく普通の男子学生……だと思いたかった何かだよ……」
普段のきゃぴきゃぴはどこへやら、普段より低めの声で普通に話しているルーチェさんが新鮮。
「……今度、女子でオフ会しようって話が……」
「断っといて……あと、その女子メンバー、リアル女子なのか、もう一度点検した方が良いよ……僕みたいなの混じってるかも……無自覚なのか狙ってか、それとも心は本当に女の子ってのか分からないけどさぁ……」
「うーん……確かに。 レイちゃん……じゃない、レイくんの例があるもんねぇ……」
「実例がここにね……」
ああ。
性別も年齢も人種も関係ないはずのオンラインのVR空間で、まさかリアルの性別がこうも僕を痛めつけてくるだなんて。
「……ちなみに聞くけど、レイくんって女装とか」
「したことないよ……まぁもう心はメス堕ちしてるけど」
「そんなにかわいい仕草とかできるのに?」
「うん……正直したくなってたよ……」
「じゃあすれば? 似合うと思うよ?」
「ははっ、そうだね……いっそのこと男の娘として活動しよっかな……この界隈、なぜかやたらとそっち系が人気あるし……」
知りたくなかったVRなチャットの世界。
そこでは結構な割合で、声だけとかでも女子になろうとしている男が居て、それなりにモテているらしい。
しかも、自撮りとかですごいいいねとかついてるし……何この地獄……下手な女子より男の方が人気とかさぁ……。
「まー、うん。リアル女子よりガード緩いし、お砂糖ですーぐ堕ちるのはそういう子って言うし?」
「そうなんだ……」
そうなんだ……。
「あと、何より今まで彼氏居たことないのが確定だからじゃない? ほら、このゲーム始めてから『女の子』になったんだったら、それまで女の子としてモテたことないわけで?」
「そうなんだ……」
そうなんだ……。
知りたくなかったよもう、そんな地獄なんて。
「……だからたぶん、レイくんもレイちゃんとして狙われてるよ……? 中身が男子だって思ってるだろう人たちからも」
「そうなんだ……えっ」
そうなんだ……えっ。
「え? 気づいてないの?」
「うん……」
「……あー、なるほど。この無警戒感と無頓着さはちょろいよね」
「ルーチェさんから見てもそうなんだ……」
僕はなんにも知りたくなかった。
ああ、1ヶ月前に還りたい。
そしてこのままインストールもせずに普通の男としてのアイデンティティーを盤石にしたいんだ。
もう遅いけど。
「んー、なんだろ……女子に対するガツガツさがないとか、なんか話し方が柔らかいとか、ですますとか」
「話し方はともかく、ですますは初対面の人もいる中じゃ普通でしょ……」
「その普通ができない男子が多いのがこの界隈だよ?」
「そうなんだ……もういや……」
「あと、やっぱり雰囲気っていうかなんて言うかが、こう、女子で……」
「もうやだぁ……」
そういやそうだった……初対面からタメ口でも違和感ないもんね、VRなチャットって……。
「……でも、レイくん……ううん、レイちゃんはそんな男子の中でも……」
「……?」
最後は良く聞き取れなかったけど、とにかく僕は落ち込んだ。
もういっそ女の子に……やだなぁ、そんなの……。
◆◆◆
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