涼とXとの対話
中学生の涼は、近くの山で墜落した宇宙船の側でぐったりしている宇宙人に出会った。全身ツルツルで白くて目が大きい、グレイ型とかいう宇宙人だ。宇宙人は、苦しそうに「地球人の君、すまないが水を持くれないか…」と言ってきた。口の動きと音声が合っていないので、自動音声通訳を使っているようだ。
涼は家からペットボトルの水を持ってきて、宇宙人に手渡した。宇宙人は震える手でペットボトルを受け取り、ゆっくり飲み干すと、体力を回復したようだった。その後、宇宙人は「ありがとう。助かったよ。私の名前はXだ。君の名前は?」と聞いてきた。涼は自分の名を名乗ると、「涼、ありがとう。君のおかげで生き延びられたよ。お礼に、君の願いを可能な範囲で叶えてあげよう。宇宙旅行とかね。何がいい?」と言った。
涼は、特にないけど、できればXに宇宙人の生活などを聞かせて欲しい、と言った。Xは「なんでも聞いてくれ」と答えた。
以下は涼とXの一問一答である。
涼「宇宙船が故障しているようだけど、何があったの?」
X「普段、自分の星で仕事をしていて、本社は自分の星から250光年離れた星にあるんだ。普段はテレワークしているんだけど、本社で作業する必要があってね、本社に向かう途中で船が故障して地球に不時着したんだ」
涼「そうなんだね。ところで、Xさんは男性? 女性?」
X「我々に複数の性別はない。かつてはあったけどね。今は中性しかない」
涼「どういうこと? なぜ前はあったのに今はないの?」
X「大昔に、男女平等と性別の不公平が議論になった。性別によって色々な違いがあるのは不公平だ、と。なぜ女性だけが子供を出産するのか、とか多くの観点から差異を議論した。結論として、差異をなくすために、テクノロジーで中性しかない人体構造に改変したんだよ」
涼「Xさんは結婚してるの?」
X「していない。そもそも結婚というものがない。地球でいう恋愛もない。だから恋バナもできない。地球人が羨ましいよ」
涼「Xさんたちグレイ型は、なぜみんな同じような姿をしているの? 見分けが難しいと思うんだけど」
X「我々もかつては違う姿をしていた。しかし、見た目に違いがあるのは不公正だ、という議論が出てきた。例えば、太っているとか、ハゲている、というのは、それぞれ対になる別の状態があるよね。そして、体型などによっていじめやからかいが起きる。それは不公平だ、となったんだ。だから、いっそ体毛も無くしてしまおう、体型などサイズも小型で近いものにしよう、瞳の色も統一しよう、となったんだ。合理的だよね。おかげで体型に関してはコンプレックスなどという概念が消え失せた。その代わりに、人の身体的特徴の魅力というものがなくなった。みんな同じだから、差が出ない。でも、前に地球人に『見た目が気持ち悪い』と言われてブルーになった」
涼「普段はどういう食生活をしているの?」
X「食事は水だけだよ」
涼「水だけ? それじゃなんかつまらない気がする…。僕は食べるの好きだから」
X「そうだね。その気持ちはよくわかるよ。かつては、我々も多様な食事を摂っていたが、食料資源・環境問題などの問題が出て来て、解決が必要になった。例えば、穀物は星全体で作れる訳ではない。生産する場所が偏っている。戦争が起きれば、穀物輸入が難しくなる。物価も高騰する。生活は苦しくなる。さらに世が荒む。それと、食料が豊富にある地域だと、フードロスの問題が起きる。こういう要素を根本的に解決しなくてはならなくなった。だから、テクノロジーで、水だけで済むように人体を改変したんだ。だから今でも水は貴重なんだ」
涼「Xさんはお金持ち?」
X「いや、別に…。みんな収入は平等にもらっているから貧富の差はないよ。一種のベーシックインカムだね。みんな慎ましい生活をしている。なんせ水だけで生活できるからね」
涼「なぜお金を公平に高く配分しないの?」
X「その理屈はシンプルだ。星の人口が多すぎる場合、お金を公平に配ると、先進国の人のお金は減る。例えば、地球で言えば、大富豪が数百兆円の資産があるとしよう。それを公平に星全体で配ったら、みんな裕福になるかと言うと、そうではない。日本では数十兆円規模の財政出動をして国民に定額給付したとしても、短期間で使われてしまうだろう。これは人口などいろんな要素が関係するんだけど。会社を例にしよう。例えば零細企業とか非正規雇用の話をすれば…。涼、こんな話は退屈だよね。やめようか」
涼「いいよ。聞かせて。僕のお父さんとお母さんも非正規だから、聞いてみたい」
X「そうだったのか…。では零細企業の話をしよう。地球の経済のことはある程度知っているからね。零細企業で、資産が少ないところは、本当にお金がない。だから残業代なんて満額出せない。出したら会社が潰れる。ボーナスも出せない。会社の求人で『賞与年2回』と記載してあるけど、額を見たら『合計一ヶ月分』とか残念な場合がある。でもこれは、『ボーナスを出すように』という世間のプレッシャーに対して、『ボーナスは出している』と言う会社側のポーズになるんだ。確かにその通りなんだよね。でも、会社によっては、毎月の給与を減らして、ボーナスに当てているだから、年収が上がる訳ではない。残業代も似たような話だ。残業代未払いがある企業が、残業代を出すよう世間からプレッシャーをかけられて、残業代を実際に大幅に増やしたとしよう。しかしその分、基本給を大幅に下げる操作ができる。だから年収は上がらない。イタチごっこなんだ。行政とか政治の側からすれば、『きちんと指導をした』と言えるし、会社からは『指導に従った』と言える。実際は、ルールの抜け穴を使われる。労働者は恩恵を受けない。非正規の話もそうだ。以前、5年以上非正規を続けたら、無期雇用転換になるルールができた。だが実際は、求人に『契約期間は5年未満。更新なし」と明記するところが出始めた。無期雇用はしないよ、と言うサインだね。こういう風に、どんどん抜け穴が出来ていく。でも、零細企業からすれば、お金がないから仕方なく抜け穴を探して対応しているんだよね。そして、特に若い子とかは愛想を尽かして会社を去っていく」
涼「そうなんだ…。お父さんとお母さんかわいそう…」
X「結局、そういう状況が嫌なら、みんな嫌だと思うけど、資産のあるしっかりした会社に転職するとか副業するとかしないと状況はよくならない。スキルや経験も必要だ。涼のお父さん、お母さんだって頑張って勉強すればきっとなんとかなるよ」
涼「ありがとう。Xさん」
X「とんでもないよ。ただね、俺たまに思うんだ。『平等・公平って何だろう』とね。平等・公平が実現された世界を私は生きている。でも涼の星はそうじゃない。だから思うんだ。平等・公平には正負の側面がある気がしてならない。涼はせっかく多様性のある世界を生きているんだ。いい意味で多様性を生かして生きていけよ」
宇宙船からアラームが聞こえた。Xが「おっと、レスキュー船から連絡が来たみたいだ。そろそろ帰還出来る。涼、本当にありがとうな。元気でな」と言って二人は別れた。
その後、涼の目に映った世界がなぜかいつもと違って見えた。世界の色や形といったものがより鮮やかに見えるようになった。 (完)




