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第4章〜What Mad Metaverse(発狂した多元宇宙)〜⑦

 〜銀河連邦捜査官・ゲルブの見解〜


 シュヴァルツとキルシュブリーテから解放され、ボクたちの方へと歩み寄ってきた浅倉桃(あさくらもも)は、彼らの疑似催眠の効果が薄れたこともあって、一旦は、意識を取り戻したものの、ボクたち並行世界の住人の存在と、目の前で倒れている玄野雄司(くろのゆうじ)の姿を目にしたため、これ以上パニックを起こされる前に、大人しく眠ってもらうことにした。


 屋上フロアに倒れ込んでいる上級生の元に駆けつけようとする彼女には、ブルームが簡易麻酔を施して、()便()()()()で、保護することに成功している。

 

 玄野雄司(くろのゆうじ)には、本当に申し訳ないことをしたと感じるが、ここまでは、ボクたちの思惑どおりに事態が推移している。


 一方、自分たちの計画が思わぬかたちで阻止されようとしていることに対して、『ラディカル』の幹部メンバーは、怒り心頭のようだ。


「我らの計画を止めるために、一般人を射殺するとは……銀河連邦捜査官ども、これが、貴様らのやり方か!?」


 シュヴァルツが、声を張り上げて、ボクらを糾弾する。


「シュヴァルツ……これは、玄野雄司(くろのゆうじ)が望んだことでもある。周りの人間を傷つけ、迷惑を掛けてしまったことへの彼なりの(つぐな)い方だそうだよ。キミの最終計画は、もう破綻しようとしている。大人しくボクたちに身を委ねるんだ」


 その昔、兵士の間では『ハンド・キャノン』とも呼ばれた、いささか古めかしい45口径の『コルト・ガバメント』をモデルにした自動拳銃を構えながら、ボクは、かつての親友であり、のちに過激派組織に身を投じた相手に対して宣告する。


 だが――――――。


 シュヴァルツを睨みつけるように、視線の中央で捉えていたボクは、一瞬、視界の端に赤く明滅する光源をとらえた。


 シュッ――――――。


 という、ごく短い音ともに、赤く伸びた光線がボクの足元に命中し、コンクリートの破片が飛び散る。

 光源の元をたどると、『ラディカル』のもうひとりのメンバーが、レーザー銃を構えている。


「落ち着いてください、指導者(フューラー)・シュヴァルツ。まだ、()()()()()()が不可能になったというわけではありません。仮に玄野雄司(くろのゆうじ)が即死状態であったとしても、脳はまだ機能しているはずです。時間をおかなければ、稼働中の彼の脳から、アナログ・記憶(メモリー)を取り出すことは可能です」


 こんな場面でも落ち着き払った口調で、自分を諭すように語るキルシュブリーテの言葉で冷静さを取り戻したのか、シュヴァルツは、


「それもそうだな……少し手順は狂ってしまったが、予定どおり、玄野雄司(くろのゆうじ)の知見を持って帰ることにしよう」


と言って、胸元から小型デバイスを取り出した。


 距離があるため、確認はできないが、彼が取り出したのは、ボクらのセカイの住人と違って、電脳化(デジタライズ)されていない脳から、記憶その他のデータを取り出しや書き込みが可能な、|ユニバーサル・シリアル・ブレインサーキット《U・S・B》と呼ばれる機器だろう。


 シュヴァルツたちが、玄野雄司(くろのゆうじ)の記憶や知見を狙っているのは、事故で偶発的に発生してしまったトリップ能力の謎を解明するためだ、とボクたちは推察している。


 セカイ統合計画を推進する『ラディカル』のメンバーは、セカイの統合後に発生する可能性のある並行世界へのトリップを全面的に禁止する意向のため、玄野雄司(くろのゆうじ)のように、予期せぬカタチでトリッパーとしての能力に目覚める人間が出てくることを恐れている。


 彼らの目的は、玄野雄司(くろのゆうじ)がトリップ能力を得るに至った脳内器官のはたらきを解明することでその発動を事前に抑制し、さらに、玄野雄司(くろのゆうじ)自身のトリップ能力が発動しないように施術を行うことだったと思われる(もっとも、当の玄野雄司(くろのゆうじ)が生きていなければ、後者については意味をなす行為にはならない訳だが……)。


 どうやら、シュヴァルツたちの計画完遂も、目前にまで迫っているようだ。


 玄野雄司(くろのゆうじ)の自己犠牲の精神のおかげで、ここまでは、おおよそ、自分たちの目論見どおりに推移しているが、ボクたちに残されている時間も多くはない。


 シュヴァルツの隣で、キルシュブリーテが、ボクたちを威嚇するようにレーザー銃を構えているため、『ラディカル』とボクら捜査官側は、均衡状態にある。


 ただ、このままだと、玄野雄司(くろのゆうじ)の脳内データを吸い出したシュヴァルツたちに逃げ切られてしまう――――――。


 そんなとき、シュヴァルツとキルシュブリーテの後方で、校舎との出入り口になっているドアが音もなく開くのが視界に入った。

 黄田冬馬(きだとうま)と意識を同期したときに得た知見によれば、屋上フロアに連なる出入り口は、ボクらが利用した海側と、『ラディカル』のふたりが背にしている山側の二か所のみだ。


 その山の手側のドアは、開いたときと同様に、音をたてずに閉じられると、ひとつの人影が足音もなく忍び寄る。


 前のめりに姿勢で、左右の腕を後ろに伸ばして振ることなく、顔を進行方向に向けて走り寄るその姿は、ボクらのセカイで放映していたテレビアニメーションで、忍者のキャラクターが披露していたモノとそっくりだった。


 まるで、くノ一のようにキルシュブリーテの背後に忍び寄った彼女は、手にした刃物を順手で構えたまま、過激派メンバーの首元に押し当てる。


「ここまでだべ、キルシュブリーテ。命が惜しいなら、大人しくお縄につくべ」


 ボクたちとは、別の場所に捜索に出たシュノ―が、首尾よく絶好のタイミングで駆けつけてくれた!


 ただ、形成逆転、と思ったのも束の間、忍者が使用するクナイのような刃物を喉元に突きつけられてるにもかかわらず、キルシュブリーテは、声を張り上げる。


指導者(フューラー)・シュヴァルツ、私の身に構わず計画の完遂を!」


 その言葉に、『ラディカル』のリーダーは、


「大義だ、キルシュブリーテ……貴様の功績は、後世で称えられるであろう」


と言葉を発して、しゃがみこんで玄野雄司(くろのゆうじ)の頭部に、|ユニバーサル・シリアル・ブレインサーキット《U・S・B》端末を近づける。


 その瞬間、シュヴァルツの足元で、うつ伏せに横たわっていた男子生徒は、サッと身を翻して、過激派集団のリーダーの足を両腕で掴んだ。


「ゲルブ、いまだ!!」


 彼の合図を待っていたボクは、自動拳銃の発射弾を麻酔モードに切り替えて、引き金を引いた。

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