幕間その2~Not Ready to Make Nice(イイ娘でなんていられない)~後編(中)
「浅倉もやってみないか? スッキリするぞ」
その言葉のとおり、さっぱりした表情でワタシにも絶叫を薦めてきたセンパイに背中を押され、
「それじゃあ……」
と、つぶやくいてから、下腹部にチカラを込める。
そうして、思いの丈を海のむこうの見える太陽に向かって大声で叫んだ。
「一年のオトコども! こっちの都合も考えずに、勝手に告ってくるんじゃねぇ! 断る方の面倒くささとか、想像したことあんのか!? せめて、相手に気をつかえるようになってから、出直して来い!」
これでも、自分の中のモヤモヤや言いたいことは、半分にも満たない。
ワタシは、さらに絶叫を続ける。
「あと、ワタシに嫌がらせした女子! 部長に、あんなこと言われてなかったら、三人まとめて殴ってやってたわ! 可愛く生まれて悪かったな! でも、こっちは、外見だけ見て近寄って来るアホな男子には、興味ないんだよ! バカ? ブス? 調子に乗るな? ぜんぶ、そのまま、あんたらに返してやるわ! 自分の顔、鏡で見たことあんのか? だから、男子に相手されないんだよ! ふざけんな!」
そこまで言い終わると、肩で息をしながら、心のつかえが少しだけ取れたことを感じながら、つぶやく。
「ハァ……ハァ……ちょっとだけ……すっきりしました」
ワタシの豹変ぶりに驚いたのか、それとも率直すぎる本音の吐露する姿に戸惑ったのか、センパイは苦笑しながら、
「やっぱ、面白いヤツだな、浅倉は……」
と言った。
「別に……思ったことを口にしただけです」
他人に、聞かせるべきではない本音を叫んだにも関わらず、なぜか、「面白いヤツ」という評価を下してきた上級生を不思議に感じる。
さらに、ワタシの返答に、彼は続けて語った。
「でも、いまみたいな内容をそのまま放送で語るのは、マズいかもな……ただ、浅倉のその毒舌……というか、トーク・スキルは、活かしたい……どうだ、放送中のトークでは、その口の悪さの矛先を、オレにだけ向けてみないか?」
その提案に、ワタシは、より一層の疑問を感じ、センパイに聞いてみた。
「センパイたちは……とくに、玄野センパイは、どうして、そんなにワタシのことを気に掛けるんですか? ワタシ個人のことなんて、放っておいてくれれば……」
そこまで、口にすると、「おいおい、そんな寂しいこと言うなよ……」と、目の前の上級生は、また苦笑する。
そして、彼は、こう言葉を続けた。
「う〜ん、桜花先輩や壮馬が、なにを考えてるかはわからねぇケド……オレ個人としては、放送のリハーサルのときに、浅倉が心の底から楽しそうに話してるから……その機会を無くしてしまうのはもったいない、と思っただけだよ」
『浅倉が心の底から楽しそうに話してるから……』
彼の言ったその言葉が、なぜか、ワタシの心に突き刺さる。
さらに、玄野センパイは、続けて、こう語った。
「それに、オレ自身も、放送のときに浅倉と二人で話すのは、楽しいしな」
照れもせずに、ニコリと笑ったままの顔で語るその言葉に、鼓動が早くなるのを感じる。
(このヒトは、どうして、そんな恥ずかしいことを照れずに言えるんだろう……)
そう考えると、自分の方が恥ずかしくなり、ほおが、紅潮していくのを感じてしまう。
そのほおの火照りを誤魔化すために、ワタシは、なんとか言葉を発しようと努力した。
「ふ、ふ〜ん……そうなんですね! けど、玄野センパイ……ワタシの口の悪さを自覚しながら、その矛先を自分にだけ向けさせようとするとか、性癖が特殊すぎませんか? 後輩女子から罵られたい願望があるなんて……センパイ、ひょっとして、ドMですか?」
「な、なに言ってんだよ浅倉!? ド、ド、ド、ドMとちゃうわ!」
「はいはい……Mのヒトは、みんな、そう言うんですよ……わかりました! そこまで言うなら、センパイのご要望にお応えして、今週の収録からは、キッチリとセンパイをイジってあげますね! 覚悟しておいて、いえ、楽しみにしておいてくださいね! くろセンパイ!」
ちょっとした照れ隠しのつもりだったのだけど――――――。
ひと度、発言してしまった言葉をワタシは、止めることができなかった。
(しまった――――――言いすぎた……)
ワタシを心配して助けに来てくれた上級生に向ける言葉にしては、あまりに辛辣な内容の言葉を吐いてしまった、というバツの悪さを感じながら、おそるおそる、相手の顔色をうかがうと……。
少し、真顔になったあと、
「ハッハッハッハッ!」
と、くろセンパイは、豪快に笑いだした。
「さっきもそうだったけど、自分を心配して駆けつけた先輩に、ふつう、そこまで言うか? やっぱ、浅倉は、おもしれ〜わ!」
「だから、そんなに面白いことなんて、言ってないですって……」
反論しながらも、ワタシは、くろセンパイが、気分を害したわけではなさそうなことを感じ取って、心の底から安心していた。
(よかった……センパイ、気を悪くしたわけではなさそう……)
くろセンパイと視線を合わせるのが、なんとなく気まずくてうつむきながら、そんなことを考えていると、センパイは、ワタシに声をかけてきた。
「まぁ、本音は吐き出せたかも知れないけど、オトコのオレには、言いにくいこともあるだろ? 桜花部長なら、色々と話しを聞いてくれると思うから、女子同士でしかできない話しは、部長に聞いてもらってくれ」
くろセンパイは、そう言ってから、「じゃ、放送室に戻ろうか?」と、付け加えて、また、ニコッと笑う。
その笑顔を見せられると、なぜか、心があたたかくなると同時に、胸が苦しくなる不思議な感覚を覚えた。




