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3.ライリー④ ~ベネディクト伯爵家 当主~

 

 十数分だろうか、不意に馬車が止まった。

「…ここは…」

「来い」

 目の前に広がるそれ(・・)に驚愕していると、侯爵は歩き出した。

 とあるそれ(・・)の前に着くと、侯爵は立ち止った。

 そして目の前のものを指さし、「ここだ」と伝える。

「ご、ご冗談でございますよね?

 なぜこんな…」

 私はそういうのがやっとだったが、侯爵は私を見ようともせず手を合わせた。

 そこにあったのは、墓標。

「…ルイーザと同じ場所に、カトリーヌも埋葬した。

 カトリーヌは死んだ、死んだんだよ…」

「…な、なんで…」

「なんでだと?

 なんでであろうな…そうだな、どこぞの売女が自分の下らん買い物で伯爵家の馬車を使うために、領地視察に行くカトリーヌの馬車を取り上げることがなければ、事故を起こした乗合馬車に乗ることもなかっただろうな…」

「…事故…乗合馬車…」

 そこまで来て私はようやく理解した。

「…それじゃぁ…イメルダの行いで、カトリーヌは」

「そうなるな…そうそう、この話はあの売女やその娘には話すな。

 墓参りなど来られても迷惑だ」

「…」

 確かに、カトリーヌの死の原因を作っておきながら、万が一私へのアピールの目的で墓地に来たいなどと言い出せば、レゼド侯爵は更に立腹し、刺客を放ちかねないだろう。

「…それにだ。

 カトリーヌの死体には…無数のあざや切り傷があった」

「…え? それは事故の…」

「事故の怪我は頭だけだった。

 後頭部に何かが当たったのだろうが、当たり所が悪く即死だった。

 あざや傷があったのは、体の普段は外に見えない部分ばかり…世間的に言えば虐待されていた子供によくみられる部分だ」

 すでにカトリーヌが居ないということもあるのか、レゼド侯爵はかわいがっていた孫娘に虐待の跡があったことを淡々とその親に話すものだ。

 いや、侯爵としては、私はカトリーヌの親と認識されていないのだろう。

「…わ、私は…何も…」

「貴様ではないのか…ではやはりあの売女だな。

 男の力でないとつかないようなひどい傷もあったが…あの売女が使用人に銘じてやらせたのだろう。

 いや、これは証拠も挙がっているがな」

「…証拠?」

「ああ…貴様の家であの売女に首にされた使用人で何人か私を頼りに来たものがおってな、証言を取ったよ。

 カトリーヌを殴打しなければ首にするといわれ、断ったら本当に翌日暇を出されたそうだ」

「…そんな」

 確かにイメルダは気に入らない使用人をすぐに入れ替えていた…ルイーザが死んだ当初は反イメルダともいうべき使用人が多々いたのだが、そういう使用人をやめさせたために入れ替えが出ているのだと思っていた。

 しかし、カトリーヌを虐待するために使用人を変えていたとは…。

「…言っておくが、これは事実だ。

 もし貴様がカトリーヌ虐待に関わっていなかったとしても、貴様は裁判で自分は関係ないという証言をすることしかできんぞ。

 それを裁判官が信じるかもわからんがな」

「…」

「…貴様は、ルイーザを苦しめ…、カトリーヌ迄苦しめて…今すぐにでも殺してやりたい。

 しかし、そこまではできぬ…私にも家族がいるからな」

 悔しそうなレゼド侯爵は、「さ、帰るぞ…そしてここには二度と来るな」とつぶやき、馬車に向かって歩き出す。

「…カトリーヌ、ルイーザ…すまなかった…!」

 私は心からそう言って、墓に手を合わせ、レゼド侯爵の後を追った。

 

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