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そして悪女の被害者令嬢はいなくなった ~歌劇「悪女」ができるまで~  作者: 粟飯原勘一
第2章 帝国編 ~テイト・シャンティ・ランデブー~
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10.タフィリア・アルメスト③ ~アルメスト帝国第三皇子、次期ダイド大公家当主~

 

 兄上夫妻から解放されたのはそれから30分後。

 しかしこの後、もう二人、僕の家族がいる。

 しかも兄上夫妻が皇太子なら、父上・母上は皇帝と皇妃だ。

「…ルイーザ、緊張しなくていいからね」

 緊張した面持ちのルイーザに勉めて優しく声をかけるが、あまり効果はなかったようだ。

「失礼します、ただいま戻りました、父上、母上!」

「タフィリア…よくぞ戻った」

「おかえりなさい、タフィリア」

 父上は普段に比べると少し表情が柔らかいが…母上の顔はルイーザを威嚇しているようにも見えてしまうような、とても厳しい顔をしている。

 …多分、笑いをこらえようとしているか…もしくは涙をこらえようとしているかだと思うけど、ルイーザに勘違いされないかなぁ。

「そして彼女が…」

「ええ、ご紹介します、父上、そして母上。

 婚約者に選びました、王国のレゼド侯爵家の令嬢、ルイーザ嬢です」

「ルイーザ・レゼドでございます、この度は皇帝、皇妃両陛下に置かれましてはご機嫌麗しゅう…」

「堅苦しい挨拶はなしだ…タフィリアの婚約者と言えば我々には家族だ。

 そうだろう、アメリア」

「…ええ、そうでございますね」

 ちなみに、アメリア、というのは母上の名前である。

「そうだよルイーザ…皇帝なんて偉そうな名前だけど、気さくな方々だから気にしないで」

「…しかし」

「ルイーザさん」

 ルイーザが固辞しようと口を開きかけたとき、別のところから声が聞こえた。

「…よく、いらしたわね…タフィリアの婚約者様」

「…皇妃、陛下?」

 母上だった。

 なぜか滂沱のように涙を流しながら、玉座から降り、ルイーザを抱きしめた。

「タフィリアが婚約者なんて…夢のまた夢だと思っていたのに…王国でまさか本当に…。

 ありがとう、タフィリアを選んでくれて…」

「…皇妃陛下」

「…アメリアはタフィリアを本当に心配していたからなぁ。

 婚約者を連れてくると聞いて今までずっと我慢していたのだ。

 まったく…先ほどの公務など上の空で…危なく変な前例を作るところだったぞ」

 父上は豪快に笑った。

「…皇妃陛下、大丈夫で…」

 そしてルイーザに抱き着いた母上が顔を上げた瞬間、涙でぐちゃぐちゃになりながら非常に柔和な顔で微笑んでいた。

 キツイ顔と言われている母上のこんなにやさしげな顔を見たのは僕も久しぶりだ…まぁ、両親に会ったのも久しぶりだけれど。

「ルイーザ嬢…ぜひお茶をご一緒に…タフィリアとのなれそめも聞きたいし…それに」

「母上、ルイーザは今日、ずっと馬車で移動してきたのです。

 明日、姉上や叔母上を含めて、皆さんでお茶にされては?」

 さすがの僕も疲れているルイーザを放っておけないので、口をはさんだ。

「そ、そうね…ごめんなさい、ルイーザさん。

 明日、ミリエラとマリーも呼んでお話を聞きましょう。

 タフィリア…あなたはもう少しここで話を聞かせて頂戴」

 母上はそういって、涙を拭きながらも凛とした声を出した。

「…了解です。

 ルイーザ、マチルダさん、部屋に戻ってくつろぐといいよ。

 マチルダさんは侍女長と話して、この帝城の使用人について少し教わってからゆっくりしてほしいかな」

「わかりました」

「かしこまりました」

 そういってルイーザとマチルダさんが部屋を後にした。

「さて…タフィリア、なんで急に帰ってくるなどと言い出したのか、教えてもらおうか」

 ルイーザが部屋から出ると、父上が皇帝の顔でそう聞いてきた。

 兄上二人も後ろに控えているのでちょうどいいとばかりに、ルイーザの状況をすべて包み隠さず説明し、公には王国の侯爵令嬢を婚約者にしたということだけを発表することで、ルイーザの実の父親・義母との確執や元婚約者の話などは王家の秘密という形で話を収めた。

 

 それから3年ほどが経つ…。

 ポーレア兄上の補助として文官のような仕事を続けてきた僕だったが、叔父上がそろそろ引退を考えていると言い出したので、ルイーザと結婚式を挙げ、それが収まった頃のこと。

 王国から不意に手紙が届いた。

 差出人はレゼド侯爵、ルイーザの祖父で義父でもある侯爵様だ。

「…ふーん」

 手紙の内容を見たがレゼド侯爵やライス辺境伯の近況は興味あったが、一番伝えたいであろう部分については、あまり興味をひかれなかった。

 しかし、ルイーザもかかわることだから、一応伝えておこうと、ルイーザの部屋に向かった。

 ノックをして部屋に入る、3年間で美しさに磨きがかかり、ミリエラ姉上をして、「彼女が皇太子妃の候補だったら勝てる気がしない」とまで言わしめた美貌の皇子妃となったルイーザはバルコニーでお茶をしていた。

 …というか、もともと美しかったのを、興味のない両親のせいで地味見せかけていただけだけれども。

「ルイーザ、少し時間いいかな?」

「ええ…どうかしたのタフィ」

 すっかり帝国の皇子妃としての風格の出てきたルイーザは優雅に紅茶をすする。

「…さっき君の義父上から手紙が来ててね…君の父上が亡くなったそうだよ」

「えっ!? お父様が?」

 先ほどの優雅さはどこへやら。

 さすがに青い顔をして立ち上がった。

「ああ…家が火事になったようでね。

 焼け跡から君の父上と義妹君が見つかったそうだ」

「…え、義妹?

 …あぁ、もしかして伯爵様(・・・)のほうですか?」

 拍子抜けしたような顔で元座っていた椅子にルイーザは安心したように座り込んだ。

「え、あ、ああ…ベネディクト伯爵家が火事になったようだ。

 残念、なのかわからないけど、伯爵と義妹君が犠牲になったそうだ」

 そういって詳細を伝えると、ルイーザは少し自嘲気味に微笑む。

 そんな彼女に、残酷かもしれないが伯爵家が全焼し、焼け跡から彼女の()父であるベネディクト伯爵と()義妹が発見されたことを伝えた。

 

 火事の詳細は、伯爵家のエントランスから火の手が上がり、吹き抜けになっているため煙突の代わりになって二人が寝ていた2階にも燃え広がる。

 屋敷の東側には、エントランスと別の使用人用階段があり、その下には別棟に向かう勝手口があるキッチンがあり避難経路になっているが、二人のいた西側のお国も使用人用階段こそあるものの、1階の端はカトリーヌが使っていた物置部屋のみしかなく、火災時の避難はエントランスに向かわざるを得ないという構造だった。

 

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