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そして悪女の被害者令嬢はいなくなった ~歌劇「悪女」ができるまで~  作者: 粟飯原勘一
第2章 帝国編 ~テイト・シャンティ・ランデブー~
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8. ライス辺境伯① ~王国辺境伯~

第1章にも出てきたライス辺境伯はいかにして情報を入手したのか。

それがわかります。

 

 初恋の人は美しい娘だった。

 しかし、自分本位のひどい男に嫁いでしまった。

 

「よぉ、レゼドの爺さん!

 よく来たなぁ!」

「…ライス、壮健なようだな」

 久しぶりに、幼いころ、当主教育の一環で自分が庭師をしていたレゼド侯爵の顔を見た。

 老けたな、とは思ったがそれ以外はあまり変わっていない。

「で、そっちが例の」

「カト…いえ、ルイーザ・レゼドと申します。

 辺境伯様、ごきげんよう」

「タフィリアです、辺境伯様。

 生まれは帝国の貴族のようなもので、カト…いやルイーザ嬢とレゼド侯爵様のもとで将来に備え領地経営を学んでおりました」

「ルイ―ザ…だって?」

 彼女の自己紹介を聞いて私は愕然とし、隣のレゼド侯爵の顔を見た。

 彼は一つうなづく。

「…彼女はルイーザの娘だ。

 君にはすまなかったことだが…やはり(・・・)ベネディクト伯爵家に嫁にやったのは間違いだった…。

 あの愚か者はこの子まで冷遇していた…」

 グッ…手に力がこもる…。

「ルイーザは流行病で亡くなった…あ、そこは疑ってくれるな。

 しかしその後、この子はずっと伯爵家で…ぐっ…」

「お祖父様!」

 俺は思わず侯爵の胸ぐらをつかんでいた…それをルイーザと名乗った少女が心配そうに見ている。

「…俺の言ったとおりだったろう。

 確かにここは戦争になれば最前衛だ…アンタの娘が巻き込まれる危険もあった。

 しかし…俺は戦争を起こさないように領地経営を行う自信があった…国王陛下夫妻も王太子殿下も帝国との不和は望んでいないし、現在の帝国の皇帝陛下も平和主義だ。

 だから…」

 俺の手から力が抜け、へたり込む。

「…すまなかった、ライス…ベネディクトなどに娘をやってしまって…」

「!! お祖父様!」

 解放された侯爵は俺に頭を下げた…さすがに元の主人である侯爵に頭を下げさせたのはやりすぎだった。

「…すまない、レゼド侯爵。

 …あなたに非がないことはわかっている…。

 俺が許せないのは…ベネディクトだけだ」

「…辺境伯様、あの…」

 おずおず、といった具合でルイーザ嬢が声をかけた。

「すまないなルイーザ嬢。

 実はな…俺は君の母の婚約者の候補だったんだ。

 そして君の父に負けて…君をひどい目に合わせた…それが情けない、しかも八つ当たりまでしてしまう小さな男だ…」

 俺は彼女の母のルイーザを愛していたし、彼女もあまり自分を顧みないベネディクト伯爵よりもこちらを見てくれていたようだが、先代ベネディクト伯爵の強力な押しでベネディクト伯爵夫人になってしまった。

 それが悔やみきれない。

「…辺境伯様…ではあなたは私を恨んでいるのでは…」

 不安そうにルイーザ嬢がこちらを見る。

「…あぁ、そういう意味ではない、俺が憎いのは君を冷遇したベネディクトだけだ。

 むしろ君は…俺の娘だったかもしれない人だ。

 …タフィ殿といったかな」

「はい!」

 そして隣にいた青年に声をかけた。

「…ルイーザ嬢を大切にしてやってくれ。

 ルイーザ嬢も…レゼド侯爵家同様ここも実家だと思ってくれて構わないからな。

 帝国へ行くのだろう?」

「ハイ! 僕には過ぎた女性ですが、絶対に大切にします!」

「…タフィ殿…」

 俺への返答に、レゼド侯爵が涙ぐむ。

「よし…それで、侯爵。

 俺は彼らを国境まで連れて行けばいいのか?

 その先の帝国内はどうなんだ?」

「あぁそれなら、国境まで僕の実家に馬車を迎えによこしてほしいと連絡を入れてあります。

 4日後の日時を指定してあります」

 その問いにはタフィ殿が答えた。

「そうか…では明日出れば十分だな。

 後は馬車がつくまで国境の街の辺境伯家別荘で待機しよう」

「…至れり尽くせりですね、ありがとうございます」

 タフィ殿はきれいな礼をする。

 その礼の作法は帝国のものだった。

「…よし、では今日は体を休めてくれ。

 レゼド侯爵も明日迄ゆっくりしてくれ」

「「はい!」」

「ありがとう、ライス」

 侯爵が答えると、辺境伯家の侍女がタフィ殿、ルイーザ嬢とマチルダさんを部屋に案内した。

 

「さて、…それで、話ってのは何だ、爺さん」

「…はは、そんな態度も久しぶりだなライスよ」

 残されたレゼド侯爵に茶を差し出し、会話に入る。

「…実はな、あの子のことだ」

「ルイーザ嬢か?」

「そうだ…どうやら、今回逃げてきたのは…婚約者が後妻の娘にとられた、と…」

「…はぁ…本当にルイーザ嬢はついていないんだな…。

 母は流行り病で早死に、父からは顧みられず、婚約者と義妹が懇意…。

 そりゃ逃げ出したくもなる」

「…ただ、それだけじゃない…どうやら後妻はあの子に手を出しているらしい」

「…何?」

 緊張が走る、というのはこういうことなのだろうか。

 侯爵のとんでもない発言に俺も眉をひそめた。

「…その証拠はない。

 ただあの子は義母のことは話そうとしないし、義妹とも義母の命令で会話すらできないらしい。

 義母からただ無視されているだけというには…あの子の怯え方が尋常ではないのだ」

「…なるほどな。

 ベネディクトめ、あいつ俺に殺されたいらしいな」

「…そして先ほど私に電報が来ていたろう?」

「ああ…」

 来ていたのは、モンテグロ侯爵からレゼド侯爵にあてた電報で、侯爵はここに転送するように連絡していたようだ。

「モンテグロ侯爵様からの電報だが…中身はベネディクト伯爵家の執事からか?」

 俺は思わず眉をひそめた。

 今更ベネディクト家が何か言ってきたのか?

「…レイモンドは、カトリーヌ…いやルイーザを、唯一あの家側からかばっていた人物だ。

 ルイーザには領地の経営の才がある…それを見抜いて大切に扱ってきたのだ。

 …ベネディクト伯爵(バカ者)と違って、彼は見る目がある」

「…そりゃ、あの家…いやベネディクト伯爵(バカ者)の執事にしておくのはもったいないな」

 まじめな侯爵の目に、俺は苦笑する。

「そして、彼から言われたのだ、もし機会があれば、ルイーザの身体検査をしてくれとな」

「身体検査?」

「ああ、レイモンドが言うには…」

 そこで侯爵は言葉を切り、紅茶をすすると、目を閉じてつぶやいた。

 

「虐待の疑いがある」

 

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