7.レゼド侯爵① ~レゼド侯爵家 当主~
お義父様の後悔。
孫娘は、父親に恵まれなかった。
そして娘はそれ以上に、結婚相手に恵まれず、不幸だった。
「カトリーヌ…いや、ルイーザ。
役所に君を私の養女にする書類を提出してきた。
君は私の娘になる」
「はい、お祖父様…ではもうありませんね、お義父様」
そういわれて、少し不思議な気持ちになると、カトリーヌ改めルイーザは、私の手を握り、「ありがとうございます」とつぶやいた。
「…まさか、君が僕の妹になるとはね」
「伯父さま…いえ、お義兄様、まったくそうですわね」
そういって笑いながら声をかけてきたのは、私の息子で間もなく侯爵になる予定のローレンスだった。
「けど…ルイーザにそっくりね…本当に」
「…そう、なんですか?」
「ええ…美しくなったわよ、カトリーヌ…いえルイーザ」
ローレンスの妻・マーガレットはルイーザの親友で、伯爵家の娘だったこともあり、ルイーザの兄・ローレンスと結ばれたという縁がある。
「…ありがとうございます」
そういってカトリーヌ改めルイーザは微笑んだ。
そして翌日、ルイーザはタフィ、そして私とともに侯爵家の馬車に乗り込んだ。
「…もう少しゆっくりしていけばいいのに…という場合でもないかな。
落ち着いたら手紙でも書いてくれ。
君はこの家の人間なんだから」
送り出してくれたローレンスが、ルイーザに声をかけてくれる。
「…ありがとうございます、お義兄様。
ええ、きっと書きますわね…ではお義姉様にもよろしくお伝えください」
そういってルイーザが手を振ると、ローレンスも手を振っていた。
「では、参ろうか、カ…ルイーザ、タフィ殿、マチルダ」
「「「はい」」」
私がそう言い、馭者に指示を出すと、馬車が動き出した。
「お祖父…いえ、お義父様。
そういえば、今はどちらに?」
馬車が動き出してしばらくするとルイーザが私にそう聞いてきた。
そういえば、帝国内での移動について相談するためタフィ殿には伝えたが、ルイーザには説明していなかったことを思い出す。
「あ、ああ、言っていなかったか。
辺境伯…ライス辺境伯殿のところだ。
そこで1泊したら、彼に国境まで送ってもらおうと思って居る」
「そこからは僕の家の馬車が国境についているはずだよ。
僕が婚約者を連れて帰るって実家に手紙を出したら、父上や兄上が喜んで馬車を出してくれた」
国境までの道を説明したら、タフィ殿がその先を続けた。
「…何から何まで…これでいいのかしら…」
「いいですよ、お嬢様!
今迄がおかしすぎたんです!!」
「マチルダ…」
力強くマチルダがうなづくと、力なく、だがしっかりとルイーザが微笑む。
「そういえば…タフィは向こうに婚約者は…?」
「いないよ?
というか、婚約者を選ぶって話から逃げるためにこっちに留学してたんだ。
そしたらこっちで婚約者にふさわしい女性がいたってだけだよ」
「…そう…ありがとう…」
ルイーザが嬉しそうにタフィに答える。
この子の母親にも…そういう相手を選んであげればよかった…そんな後悔が頭をよぎる。
「…もしかしたら」
ライス辺境伯がそうだったかもしれんな…などと昔を懐かしむ。
この子の母のルイーザには、当時はそれぞれ令息だった、現・ベネディクト伯爵と現・ライス辺境伯という二人の婚約者候補がいた。
ライス辺境伯のほうはルイーザとも相性が良かったが、辺境伯領は侯爵領からは少し距離があるうえ如何せん一度隣国と戦争が起これば最前線に置かれることもあり、あまり進められた嫁ぎ先ではなかった。
対してベネディクト伯爵は、先代伯爵と私が憎まれ口をたたく程度の悪友でもあり、その息子も昔から知っていた生意気な奴だという認識はあれど、ベネディクト伯爵領は侯爵領の隣であり、国境とは接していないのどかな農村地帯であったことも考えると、ルイーザにはそちらのほうがあっていると思っていた。
しかしベネディクト伯爵は、ルイーザをただ小うるさいだけの嫁だと思っていたようで、世継ぎとして目の前にいる元・カトリーヌのルイーザを授かった後は、あまり顧みることもなかったようだ。
戦争が起きる気配もなく、のどかという点ではベネディクト伯爵領と変わらず、しかもルイーザを大切にしてくれたはずのライス辺境伯にルイーザを嫁がせていたら…カトリーヌ、もとい今のルイーザは逃げ出すなんてしていなかっただろう。
そう思うと、胸が苦しい思いがした。




