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1. カトリーヌ・ベネディクト ~ベネディクト伯爵家 長女~

 

 1.カトリーヌ ~ベネディクト伯爵家 長女~

 

 父は、家庭を顧みない人だった。

 しかし母は優しかった…しかし、父との折り合いは悪く、その間に生まれた私、カトリーヌ・ベネジェクトにも興味はなかった。

 

 生まれが伯爵家――国内でも名門といわれるベネジェクト家の長女であることもあって、母がいるうちは幸せに過ごしていたが、流行り病で母が亡くなると、父は今までにも増して家には寄り付かなくなり…そして外に愛人をかこっていたらしい。

 それがわかったのは母が死んで一年ほどたったある日、家に再婚するらしい愛人と、その娘がやってきた。

 義母と義妹になるのだろうけれど、当初は仲良くしようと努力し、義妹にはそれが伝わりそうだったが、義母は近づいて来ようとはせず、私を使用人扱いした。

 それでも家から出されるよりは、と何とか使用人の仕事をこなし、また父からは領地経営の仕事の一部の簡単な処理を任された。

 ちょうどその仕事をしていると現在代官を依頼していた男爵様が引退なさるという意向を示したため、まずは男爵様が見つけた領地経営の勉強をしたいという方に事務作業をお手伝いいただく依頼する手はずを整えていただき、領地で面接をしたりもした。

 そんなこと父に相談すれば爵位の低い男爵様を見下している彼のこと、ほかの代官を据えるといわれるかもしれないので、父には男爵様とお会いし、その裁量に任せるという委任状にサインしてもらい、私が面接に行ったのだ。

 きれいな身なりの好青年で、引退なさる男爵様の唯一の仕事として代官をしばらく引き受けていただき、その仕事を彼にこなしてもらうという形式で契約を交わした。

 その間、家には私がいなかったため、使用人からは「あんたがいないせいで仕事が進まない」といわれのない非難を浴びる羽目になったが。

 もはやこの家には、私がお母様の遺産で雇った侍女以外に味方はいないらしい。

 

「お嬢様はお家のお仕事で領地へ向かったのに、何あの言い草は…」

 その侍女、マチルダは私の部屋で憤りをあらわにする。

「…仕方ないわ、仕事が滞ったのは本当のことだもの」

 そういって私は力なく笑った。

「…お嬢様、あなたはお嬢様なんですよ?

 なぜ使用人の仕事など…」

「マチルダ。

 …いいのよいずれは私はこの家からいなくなる…いらない人間だもの」

「…そんな…」

 そんな風に私が思うのは仕方がないことだった。

 

 家が伯爵家なので、私には幼いころからの婚約者がいた。

 侯爵家の嫡男・ルパート・モンテグロ様。

 美男子ではあるのだが、その分プレイボーイとしても有名で私にはあまり構わなかった。

 婚約者のご両親であるモンテグロ侯爵夫妻には気に入られていると思っているが、自分の家のはずの伯爵家からは必要とされず、婚約者からも大事にされている感覚はない。

 そしてどうやら義妹のジェニーとも"仲良く"しているらしい。

 義妹も義妹で、男好きのするグラマーな体形に、男心をくすぐるしぐさを知り尽くしているので、ルパート様にも好かれているようだ。

 名門ではあるものの最近領地の収入が以前に比べて落ちているベネジェクト伯爵家としては、裕福なモンテグロ侯爵家とのつながりを持つため、私とルパート様が婚約した。

 …しかし、プレイボーイとしての浮名を流すルパート様、婚約したからと言ってガールハントはやめなかった。

 私はそれが嫌でたまらなかった…それはそう、将来を誓った相手がとっかえひっかえ別の女性と付き合っているのだから。

 一応気を遣っているのか、相手は下位貴族のマダムたちが多かったけど、いわば「若いツバメ」というやつ。

 ただ唯一それに当てはまらなかった女性がいた…。

 

 私が父の仕事の関係でとある商会と折衝し、家に戻ろうと建物を出たところ。

「…?」

 目の前のカフェに、ルパート様と義妹のジェニーが楽しそうにお茶をしているのが見えた。

「…お嬢様?」

 不意に足が止まった私に後をついてきた侍女・マチルダが不思議そうな顔をする。

「何でもないわ、さ、帰りましょう」

 なるほど、ルパート様もジェニーがいいのね…まぁそうよね。

 婚約後もキスすら許さない堅物と、貞操観念ユルユルの美人を比べれば…簡単なこと、男性であるなら後者を取るわね。

 なんとなくすっきりした顔で私は商会の階段を降り、辻馬車を探す。

 家の馬車は以前領地をし視察するために家の馬車を一週間程度(もちろんお父様に断って)使ったところ、ジェニーとお義母様から「あなたが使っているから買い物に行く馬車がなかった!!」と文句を言われ、お父様も何も言わずこちらを非難する目をしてきた。

 それ以降、家の馬車は使わず、どこに行くにも徒歩と辻馬車で移動することにしていた。

 二人いる家専属の馭者は、一人は事務的に仕事をこなすがお父様が使う馬車を動かすケースが多いため私とはあまりつながりはなく、もう一人は義母が連れてきたので私を嫌っており、私を馬車に乗せようとはしない。

 

 部屋に戻ると、とりあえず母の遺産で購入した一張羅のドレスとネックレス、領地経営に必要な本を数冊、母の形見で何とかジェニーやお父様に見つからなかったブローチを含めて何とか確保した宝石をバッグに入れ、領地視察の時に来ているワンピースを着た。

「…お嬢様?」

 驚いているが、何かを察した目でこちらを見ていた。

「マチルダ。

 私はこれから領地の視察(・・・・・)に行くわ…あなたも、来る?」

 私はマチルダの目を見ないようにトランクを閉める。

「…無論です、ついてまいりますよ…どこままででも(・・・・・・)

 彼女に隠し事はできないようだ。

 とりあえず、私には同情的だがあくまでお父様の部下という立場を崩さなかった執事のレイモンドさんにだけ「領地を視察する必要があるから行ってくるわ」とだけ言ってトランクを抱えてマチルダとともに家を出た。

「…お嬢様、ご無事で」

 レイモンドが私の後ろ姿を見ながらそうつぶやいたのがかろうじて届いた。

 

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