断崖絶壁東京逃避行記
身体が動かない。
昨日の夜、
思い出したくもない
過去の記憶が頭をよぎって
向精神薬を数十錠飲んだ。
ウイスキーで錠剤を
一気に飲んだ記憶まではあるが
その後の記憶は飛んでいる。
やっちまった。
たくさん飲み過ぎた。
立てなくなっちまった。
向精神薬というものを飲み過ぎると
手足に力が入らなくなり、
膝を立てて布団から出ようにも
膝に力が全く入らないのだ。
いったいなぜ何シートも
向精神薬を飲んだのだろう。
なぜ俺はこんなゴチャゴチャした
コンクリートの街にきたか。
どうしてこうなったのか。
頭がぐわんぐわんと鈍く回転し
俺の意識は過去に向かった。
俺は西日本の田舎が嫌で
田舎から出て行ったタイプである。
不器用で喧嘩っ早く
地域の有力者のボンボンの
ドラ息子を殴ったりしたし、
生徒いじめをする
田舎の公立高校の
出来の悪い教師とも
喧嘩が多かった。
庇ってくれる人もいたが
地元では悪い噂を流され
もうこの田舎町に
いられる状態ではなかったのだ。
家族仲も悪く
家庭は崩壊していた。
もう逃げるつもりで
奨学金を借りて
少ない資金で
東京の大学に進学した。
家賃の安い学生街の
ボロアパートを借り
貧乏学生の生活を送り始めた。
それにしても東京は住みにくい。
野菜も高いし
魚も高い。
家賃も高い上に
狭い古いアパートしか借りられない。
田舎の大きな日本家屋と比べてれば、
東京のアパートは
鶏小屋のようなものである。
それでも東京の地方出身者達は
陰湿で濃厚な人間関係がある
田舎に帰るのが嫌で
この汚いコンクリートの街に
住み続けるのだ。
東京ははみ出し者に寛容だし
人間関係が薄くサラッとしている。
だから陰湿な田舎が嫌で
出てきた田舎者は東京に定住する。
なぜ東京の人が
こんなにサラッとしているかは
よくわからないが、
東京は人が多いので一人一人に
かまってられる時間なぞ
ないのだろう。
東京の地方出身者は
田舎に帰るつもりなど
さらさらないという人が多い。
敢えてみんな口にすることはないが
東京の地方出身者達は
濃密で陰湿な人間関係の田舎から
逃げたかったのだ。