表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

目覚めの日

 初めまして。赫牛(あかうし)と申す者です。この度異世界転生を題材にした物語を投稿させていただきました。大層なタイトルですが、なんてことはない殴り書きですので、リラックスして読んでいただければと思います。

 生きるということの意味は後からついてくるものらしい。

 例え一度きりの人生でどれほど悩み、考えたとしても答えは出ず、終わり際に気付く、あるいは終わった後に誰かがその意味を見出す。

 つまりは結果論だ。だから終わりが見えない時にそんなことを考えても仕方がないなんてことはわかっている。

 わかってはいるのだ。でも。

 それでも僕は知りたい。




 僕は一体、何のために、生きているのだろう。




 起きて、食べて、学んで、働いて、恋して、遊んで、寝て、また起きるの繰り返し。

 それだけで良かったはずなのに、それさえも奪われてしまった。

 楽しいなんて感情が薄れていくのが自分でもわかった。

 なんだか全部どうでもよくなった。

 あらゆることが自分を通り過ぎていくような気がした。

 一体僕の人生には何の意味があるんだろう。

 喉が詰まる。息が苦しい。気持ちが悪い。吐き気がする。

 無気力になる。何もする気が起きなくなってくる。ベッドの軟らかさが僕を包み込む。何かしなくちゃいけないのにできない。気持ちよくて、辛くて、苦しい。




 辛いよ。

 ああいっそ、消えてしまえたなら……。






 走る。

 走る。走る。

 真っ暗な森の中をひたすらに走る。

 逃げろ。逃げろ。

 追ってくる足音から逃げろ。

 乱れた呼吸を整える余裕なんてない。

 ただ真っ直ぐに、かすかに見える光に向かって走る。

 人のそれとは違うリズムの足音が、さっきよりも大きく聞こえる気がする。気がするだけかもしれない。怖くて後ろは振り向けない。

 あんな化け物が、日本の森林の中に生息しているなんて話は聞いたことがない。

 人を見つけたら、まるで親の仇のように追ってくるなんてのも初めて知った。

 というかそれより。

 なんで僕はこんなところにいるんだ?






 最初に見えたのは星空だった。

 言葉に尽くせないほど満天の星々が輝いている。遥かに遠く、でも手を伸ばせば今にも零れ落ちて来そうな気がした。

 それらを縁取るように木が環状に連なっている。

 僕は黒い森の中にいた。

 木々が風に揺れ、濃い草木の匂いが嗅覚を刺激する。

 時折ガサガサという音が遠くの方から聞こえてくる。

 吐く息は白い。かなり着込んでいるのに肌寒さを感じる。

 僕が倒れていたのは木々の間の小さな空間だった。

 まるで誰かがあつらえたような、人一人は余裕で寝そべられるほどの空間があった。


 何故僕はこんなところで寝ていたのか。

 最初は理解できなかった。こんな場所は見覚えがないし、僕はこういう自然が好きではないから近寄ろうとはしないはず。そもそもいつ来たかも覚えていない。

 取り合えず位置を確認しようとコートの右ポケットを確認して、スマホがないことに気付いた。どこかで落としてしまったのだろうか。

 これは困った。根っから現代人の僕はスマホがないと何もできないに等しい。文明の利器はこういったデメリットをもたらす。今まで落としたことなんてなかったのに、肝心なところでないなんて。

 さて、どうするか。

 まずは森を抜けるべきか。いや夜の森で動くのはいろいろ危険ではないのか。

 なら朝までここで待つか。しかし今はかなり冷え込んでいる。凍死はないと思うが重度の風邪でもひいたものならここからの移動が困難になる。

 果たしてどっちをとるべきか。こういう時こそ慎重に行動すべきである。


 しかし自然というものは厳しい。僕に考える時間を与えてくれなかった。

 正しく獣の唸り声だというものが背後から聞こえてきた。

 恐る恐る振り返るとそこには、暗闇でも爛々と光る赤い目を持った、狼のような何かがいた。『なにか』というのは、それが優に人の背丈を超えていた、僕の知らない生き物だったからである。

 分厚い毛皮の上からでもはっきりわかる発達した四肢。冗談みたいな数の歯がずらりと並んだ口元からは、ねばついた涎が滴っている。強烈な獣臭に吐き気がしてきた。

 我ながら実に悠長だと思うがそうやって化け物を観察していると、そいつは首を上げてうおおおおおおんと一鳴きした。

 これ知ってる。遠吠えってやつだ。仲間を呼ぶときにするあれ。

 やばい、やばい、やばい。

 僕は後ろに向かって走り出した。

 





 そして今に至るという訳だ。

 茂みの間を駆け抜ける音が、明らかに一匹のものではない。二匹か、三匹か。それは分からないがどのみち生命の危機に瀕していることは間違いない。

 厚着しているせいで体が熱い。汗で服が体に張り付いて気持ちが悪い。でも上着を脱いでる時間はない。どく、どく、と心臓が暴れている。

 どのくらい走っていただろうか。先ほどから見えていた光は、もう目の前まで近づいている。

 とにかく走る。不思議なことに筋肉はまだ悲鳴をあげていない。緊急時にはアドレナリンが大量に分泌されて疲労を感じにくくなるとか言うあれなのか。

 そして森を抜け、とうとう辿り着いたそこには、今時見ないような大きな塀と、外国の観光地でしか見ないような大きな門があった。松明の炎が揺らめく門の前には、槍を持った男が微動だにせず立っている。

 なんで槍なんて持ってるんだ?

 一瞬そのことに気を取られたが、今はそんなことより人に会えたことの方が大切だ。走り切ったその勢いのまま男に駆け寄った。


「あっ、あのっ、助けてください!」


 男はあっけにとられた顔で僕を見ている。そりゃ当然か。突然すごい剣幕をしたやつが森から走ってきて助けを求めているんだから。


「君は……その格好……ああそうか、君も『ギフト』ですね」

「は……はぁ?」


 男は納得したという表情を見せる。そんな顔されても困る。なんだ『ギフト』って。贈り物?僕は人間だぞ?いきなりそんなこと言われても意味がわからない。この人の格好も制服にしては古ぼけたものだし、所々金属でできた鎧みたいなの着けてるし。なにかのイベント?もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。


「それより君、そんなに息を荒げて一体どうしたんですか?」

「え……いや、ば、化け物が、いきなり、襲ってきて、もうそこまで……」

「化け物って?何もいないじゃないですか」

「そ、そんな訳……」


 そう言って振り返ったが、うっそうとした森の他には何も見えなかった。


「あれ……?」

「夢でも見たんじゃないです?」

「いや、そんなはずは……」


 そう言えばさっきまであんなにはっきり聞こえていた足音が今は聞こえない。虫の鳴き声や木が風に揺れる音だけがそこにある。


「ほら、何もいないでしょう?」

「……ちょっと待って」


 いや、聞こえる。かすかにだが先ほども聞いた足音が近づいているのを感じる。何よりも全身の毛が逆立つ様な嫌な感覚がある。


「いえ、君の方が正しかったようです」


 男が槍を森の方へと向けて警戒する。

 そして僕が森の中で遭遇した化け物たちが、その姿を現した。

 その数三匹。先ほども見た赤い瞳が僕を睨みつけ、ぐるると唸っている。狙いは変わらず僕みたいだ。


「一人の時に来るとはなんとタイミングが……君はどこかに隠れていてください!」

「え?でも……」

「大丈夫。君は私が守ります」


 男はそう言った。けど。


「守るって……あんな化け物一体どうやって——」


 言い終わる前に化け物は飛び掛かってくる。

しかし既に男は動いていた。


「やあっ!」


 宙に浮いた化け物の顎から脳天までを槍が貫く。

 血を浴びる男は、しかし怯む事無く次の標的に狙いを定める。

 槍を引き抜き、飛び掛かってきた化け物の爪をいなす。

 何なんだこれは。

 目の前で人間が、化け物3匹を相手に大立ち回りをしてみせている。

 僕は幻覚を見ているのだろうか。

 そう思ってもそれを肯定できない、余りにもリアルで生々しい光景。振るわれる槍の風切り音も、飛び散った血の匂いも、全てが確かにそこにあった。

 槍が薙いで肉が裂け、再び薙いで首が飛ぶ。先程まで恐怖の対象だった怪物たちは、1分も経たずに物言わぬ肉塊と化した。

 その上に立つのはあの男。深く息を吐いて呼吸を整え、顔を上げて僕を見た。その眼差しは背筋が凍るくらい鋭く、あの化け物たちと同じ様な輝きを放っていた。

 後ろで重い何かがゆっくりと動く音がする。振り返るとあの大きな門が徐々に開き、そこから今度は剣や盾を持った人が何人か飛び出してきた。その何人かは最初油断無く構えていたが、地面に転がった化け物たちを見て剣を下した。その内の一人、金髪の男が呆れた様な笑いを浮かべる。


「何だよ、随分派手にやったなぁ、ラン」


 声をかけられた男は殺気を消し、背筋を伸ばして足を揃える。


「いえ、私一人ではなかったので」

「一人じゃなかった……ってこいつか」


 金髪の男は品定めするかの様な視線を向けてくる。


「ふぅん……お前、新入りか」

「あの、何の事で……」

「気付いたら森の中にいたのか?」

「え?」

「答えろ」


 何が何だか分からないが、この男の言う事に従っていた方が良い事だけは分かる。何しろさっきと違って顔が怖い。


「あ……はい」

「その服は自分の物か?」

「はい」

「自分がどうやって死んだか覚えているか?」

「……はい?」


 どうやって死んだか、とは?いや生きてますけど?生きて大地を踏みしめてますけど?


「聞こえなかったか?自分の死因を覚えているかと聞い——」

「聞こえてますけど、死んだって意味が分からないんですけど……」


 僕の言葉を聞いた男が明らかにめんどくさそうな顔をした。


「そこからのタイプか……良いか、落ち着いて聞けよ」


 男はため息一つを吐いて、そして僕の目を真っ直ぐに見た。


「お前さ、一回死んでるんだよ」


 ほう、一回死んでると。へー。

 ……。


「は?」


 良ければ感想等お寄せいただければ励みになります。

 それでは次回、また会う時まで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ