(4)
居そうな場所を大体探し終わって溜息を吐く。この神社は狭いように見えて広かった。全体を探し終わるまでに三十分かかる。
居ないのか?神社から出ちゃったとか…家にもし帰っていれば母さんから連絡が来るだろうし…どこだろう?あれ…待てよ?
昔、僕がまだ子供だった頃。神社に犬を連れて入っちゃいけない事を知らずに犬を連れて入ったことがあった。その時…確か狛犬のところにお座りをしていた事があったような…。
この神社は鳥居をくぐってすぐに狛犬があるわけじゃなくて、何故か本殿の手前にあった。あそこに居るだろうか…でも、ひまわりは覚えているのかな?
半信半疑で向かってみる。本殿に進むにつれて人込みは解消していく。どんどん人が少なくなっていく中で、本殿にたどり着いた。
「ひまわり?いる?」
「寄人?いる!」
ひまわりが狛犬の傍からひょっこり顔を出す。力が入っていた体から急に力が抜けて崩れ落ちそうになった。本当に良かった、無事で。僕はひまわりを抱きしめた。
「本当に良かった、ごめんね」
「ううん?さっきのが…イヤだった?」
「さっきの?」
「置いて行ったから…」
ああ、あれか。なんて説明すればいいやら…でも、ごまかす必要もない…よな。嫌だったわけじゃない。寧ろ嬉しかったし恥ずかしかった事。
「恥ずかしかったんだよ」
「そうなの?」
「そう、だからその場を離れたくて…」
「良かった!」
「あ、ごめん!」
くっついていた体をひまわりから離す。ひまわりは少しだけ寂しそうな顔をしていた。心臓が早鐘を打つ。驚いたから?心配だったから?きっと違うんだろうな…。
「寄人?」
「でも、ここを良く覚えていたね?」
「うん?ここはね、初めて来たから!」
「初めて来た場所?」
「うん!」
どういう事だろ…?散歩…初めて…?初めての散歩?ああ、思い出した。そういう事だったのか。
「僕が初めて散歩した時だからか」
「そう!」
「そ、そっか」
「うん!」
覚えていたんだな。僕ですら忘れていたけど。きっと人間より短い寿命だからこそ、鮮明に記憶してくれているんだ。それなのに僕は…本当にごめんね。でも、楽しんでくれていたのなら僕は良かったと思える。だって、一番気になっていた部分だったから。
「ははは…」
「どうしたの?」
「僕と一緒に居て楽しかった?」
「うん!どれも全部!」
涙を袖で拭う。もう、これ以上ない言葉だよ。僕はひまわりに何かしてあげたいと、ずっと思っていた。それでも、人間より先に居なくなってしまう。してあげられることはすべてしたい、そう思っていた。それが、ひまわりからすれば楽しくないかもしれない。はは、楽しんでくれていたんだ。
「良かったよ、ひまわり。」
「うん?」
「すごく嬉しいかな」
愛犬を本当に愛せていて良かった。ずっと好きだった、家族を楽しませてあげられて良かった。
「行こう」
僕は手を差し出した。ひまわりはその手の上に手を乗せる。それは、お手…だよ?お手じゃなくてさ…。
その手を握り、隣に歩いてもらう。この後はずっと離さないようにしよう。この手を。




