英雄候補の冒険譚9
そして僕は、仲間となったローズマリーとヴィンセントとともにマリアさんの宿に集合した。
これでチームメンバーは四人。二等級が三人ともなればそれなりの戦力だ。
アリスも回復役としてなら、二等級に遜色ない活躍ができるだろう。
「これからは選べる依頼もだいぶ幅が増えるんじゃないかな。いやー、ウィル君が成長して鼻が高いね」
上機嫌なマリアさんがそう言いつつ皆に対し紅茶を振舞ってくれる。
そして、そのままチームでの会議が始まった。
「それで、今回集まった理由は何かしら。チームの方針について?」
口火を切ったのはローズマリーだった。
「うん、そんなところかな…ちょっと色々と聞いてくれる?」
「わかったわ」
「あいよ」
ローズマリーとヴィンセントが頷いたので、僕はアリスに使徒の事は伏せて大まかに伝えられた不吉な予兆について話すよう頼んだ。
カバーストーリー的には、アリスは最近やってきた新人冒険者で僕を見て不吉な未来を直感した、という事にしてある。
嘘は言っていない。
「そして…私は見たのです、ウィルに漂う…暗雲のような感覚を。信じていただけますか」
「ま、本物の予知者って前提で話しましょうか。はずれなら、杞憂だったで済むしね」
やはりというか半信半疑の様子だったが、二人とも頭から否定する素振りはない。
「…で、要するにウィル君の身に危険が迫っているという事ね。心配ないわよ、アタシとヴィンセントがついてるのだし」
「いやいや待てお嬢。そりゃ楽観が過ぎるってもんだ」
自信満々に胸を張るローズマリーに対し、ヴィンセントが諫めにかかる。
「何かあったときに手を貸してもらいたいとは思っている…けど、無謀な戦いに付き合ってほしいとも思わない。だから、自己判断で頼むよ。いざとなったら逃げてくれても構わない」
「アタシはそんな薄情な女じゃなくてよ、ウィル君」
「…ありがとう、ローズマリーさん」
「お嬢はその辺思い切りが良すぎるぜ…」
さらに胸を張るローズマリーに対し、ヴィンセントは小さく溜息をついた。
「というか、晴れて同じチームになったわけだし、呼び捨てで良いわよ。ほら、年齢も近いし?」
「ああ、うん。それじゃあそうするよローズマリー。僕も呼び捨てで良いから」
「うん、良いわね…。アタシもそうするわ、ウィル」
実に機嫌良さそうなローズマリーが紅茶を口に含む。
そんなにチームを組めたのがうれしいのだろうか。
僕が知らないだけで、案外寂しがり屋なのかもしれない。
ヴィンセントは紅茶を啜っていた。
「まぁ、とりあえず基本的には今までと行動は変えなくていいよ。都合が合えば一緒に依頼でも受けよう」
「あら、アタシは最初からあなたと一緒に働くつもりよ」
「そうなるとまぁ、とりあえず連携の確認は必要だな…明日あたりから確かめるか」
「私はウィルについていきます。何も変わりません」
各々意見を出し合いながら、暫く過ごす。
そうしているうちに、日が暮れ始めたので解散しようという事になったのだが。
「えっ…ここに泊まるの?二人とも?」
「同じチームならそっちの方が何かと都合がいいでしょう?マリアさんに話は通してあるわ」
「しかし、俺はともかくお嬢は大丈夫か?まじでベッドとテーブルくらいしかねぇぞ、この宿の部屋」
「あっはっは、見た目通りの眠れればOKって感じのぼろ宿だからねぇ」
「私は機能的で良いと思います」
マリアさんが自虐的に明るく笑いながら相槌を打ってきた。
アリスはフォローのつもりだろうか。
どちらにせよ、この宿が繁盛する分には歓迎だから反対する理由はない。
「君たちの部屋は並んでるからね。奥からウィル君、アリスちゃん、ローズマリーちゃん、ヴィンセント君の順番だよ。はいこれ鍵。じゃあ、後はご自由にどうぞ」
「ありがとうございます」
「はいよ」
マリアさんはローズマリーとヴィンセントに鍵を配り、宿の奥へと引っ込んでいった。
「さて…それじゃあ僕は部屋に帰って休むよ。みんな、お休み」
「俺も先に寝るわ。なんか妙に疲れたしな…」
「えぇ、お休みなさい」
「お休みなさいませ」
女性陣の返答を背に、僕らは部屋へと戻ってベッドへ潜り込んで程なくして眠りについた。
「…さて、あなたには謝罪しておくわ」
「何のことでしょう?」
「寄生呼ばわりしたことよ。回復魔法が使える時点で仕事には困らないでしょうに、悪かったわね」
「…いえ、事実今のところあまり役に立てているとはいいがたいので」
「ウィルは慎重だから、そもそも回復魔法が必要な状態にならないように立ち回るでしょうからね…。だろうとは思うわ」
アリスとローズマリーは、お互いに相手に理解を示しつつ会話を進めていた。
「ごめんなさいね。急にウィルの傍に見知らぬ女が現れたものだから、ちょっと警戒しちゃったのよ」
「…お二人は、長い付き合いなのですか?」
「ギルドに所属して以来ね。同期なのよ、彼とアタシ」
椅子に寄りかかりながら、ため息とともに話す。
「ま、アタシが彼の才能に目を付けて…どうにかこうにか、チームに入れようとしていたんだけど。まさかこういう展開になるとは思ってもみなかったわ」
「…なぜウィルはあなたのチームに入らなかったのでしょう」
「それは…」
「臆病だったからだろうねぇ」
二人の話に、店の奥から現れたマリアが割って入る。
紅茶を注ぎ直しつつ、自分も二人の間の席へとついた。
「臆病、とはどういうことでしょう」
「そのままさ。ウィル君は誰かを傷つけるのが怖くてねぇ。自分のせいで仲間に迷惑を掛けたら…と考えると、仲間を作れなかったんだよ。一人ならすべて自分の責任で、自分の迷惑だけで済むからね」
「チームならお互い助け合うものでしょうに」
「そうだね、そう考えるとウィル君は大分成長していると言えるよ。自分が主導権を持つ前提とは言え、君達と仲間になったんだからね」
マリアは穏やかに笑い、紅茶を口に含んだ。
「まぁ、自分の命も大切にはしているけど…仲間を助けようとして無茶をしてしまうかもしれない。君達も、ウィル君を助けてあげてね」
「言われるまでもありません」
「えぇ、ご心配なく」
二人は、快く返事をした。




