英雄候補の冒険譚8
ローズマリーとの決闘を終え、本日は休暇にしようという事になった。
魔力消費が激しく、討伐依頼を受けるには不安があったからだ。
帰り際の道で、喫茶店へと入って小休止を取る。
「それで、何を頼む?」
「ウィルと同じものでお願いします。」
「じゃあ紅茶とパンケーキで良いか…」
注文を済ませると、疲労した身体を椅子に下ろした。
向かいに座ったアリスが話しかけてくる。
「お疲れ様です。ウィル。改めて、勝利おめでとうございます」
「流石に疲れたけどね…運が良かったよ」
正直、あと一手何かを誤っていれば負けていたのはこちらの方だったろう。
最終的な勝因も、初見の手札を賭けに使っての結果だ。
仮に次回があった場合、同様に勝てるとは限らない。
それに加えて、少し気が重くなる理由もあった。
「泣かせちゃったんだよなぁ…ローズマリーさん…」
先ほど見たあの表情が胸に刺さる。
気の強い捨て台詞を吐いて立ち去って行ったが、あれはどう考えても強がりだろう。
それだけ勝負に対する思い入れが強かったと見える。
「勝負は勝負。ウィルが気にすることではありません」
「それはそうなんだけど…知り合いの、あんな顔始めてみたからさ」
逆に、自分が負けていたとしてもなくほど悔しがるようなことはなかったと思う。
それは、単純に勝敗への執着が薄かっただけかもしれないが。
ローズマリーのチームに入ったところで、極端に命の危険が上がるようなことは無かったろう。
そんな性格なら生き延びることは出来ていないだろうし。
「勝敗は戦いの常です。塞ぎ込む方が失礼かと」
「そうだね…」
終わった後にグダグダと考えていても仕方ない。
気持ちを切り替えることにしよう。
届いた紅茶を口にする。
香ばしい香りが精神を落ち着かせてくれるような気がした。
「なにより、ウィルの未来には未だ暗雲が漂っています。この戦いは良い経験だったかと」
「あぁ…それか。………ってことは、今回の戦いはそれとは関係なかったの!?」
「はい、間違いありません」
「結構しんどかったし、将来にもかかわってたと思うんだけどな?」
「ですが、感覚からして近い将来に何かが起きるのは確実です」
そうか、と納得せざるを得なかった。
アリスが嘘をついているという可能性は考えられないし、メリットもない。
そうなると、備えがますます重要になってくる。
しかし、短期間で自分の実力を爆発的に高めるようなそんな都合のいい方法は知らない。
どうしたものかと考えていると、一つの案が浮かんだ。
「あ…そうだ、そうしよう」
「何か思いついたのですか」
「まぁ、ちょっと…」
恥知らずと言われるかもしれないが、やるだけのことはやってみよう。
すでにパンケーキを食べ終わったアリスを見て、僕も慌てて手を付け始めた。
「……………」
ローズマリーは宿屋で糸の切れた人形のように自身のベッドに突っ伏していた。
無言である。
思うことはと言えば敗北に終わった先程の決闘の事ばかりであった。
完全に勝利するつもりであり、だというのに敗れた精神的ダメージは思いのほか大きかった。
「……………」
思い返す、先程の決闘を。
全霊を尽くし、それを尚上回ってきたウィルの雄姿を。
そして敗れた結果の代償を。
悲喜こもごもの感情を処理しきれず、今もこうして突っ伏している。
よくもまぁ、アタシの心にここまで触れてくるものだと思いながら。
「……………」
「…お嬢?入っても良いか?」
扉の外からヴィンセントの声がする。
全く、気が利かない従者だと思いながら無言を貫く。
それでこっちの意思は伝わるだろう。
「……………」
「…よし、入るぞ」
一々言わなくても良いものを。
突っ伏したまま相手が要件を言い出すのを待つ。
扉を開く音が聞こえた。
「……………」
「……………」
おかしい、何も言ってこない。
用があるのならさっさと言えばいいものを。
何か妙な風に気でも使っているのだろうか。
「…ヴィンセント。用があるなら手短に言いなさい」
「…あー、お嬢。言い方が悪かった。用があるのは俺じゃない」
はぁ?と思いながら顔だけ動かしてヴィンセントの方を見る。
兜で顔は見えないが、困惑している様子が見て取れた。
さらに視線を後ろへと動かすと、ウィルの姿が目に入った。
「…?????」
ぼやけた頭で現状を理解しようと努める。
なるほど、用があってきたのはウィルの方だと。
何故ウィルがここに?
ああ、そう言えば昔出会ったばかりの頃にアタシのチームに入りたくなったらここに来なさいと宿の場所を襲えたような気がする。
一瞬チームに入りに来たのかと凄まじい高揚感が身体を駆け巡ったが、直後に決闘での約束を思い出してあるわけがないと気分はどん底に陥った。
では何だろう、約束の念押しにでも来たのだろうか。
とりあえず、色々と顔から垂れ流したままだったので魂の抜けたような体を奮い立たせて一言を口にする。
「…とりあえず、ちょっと外で待っててくれる?」
「あ、はい」
一分後。
「入って良いわよ!」
お許しの言葉が出たので、僕、アリス、ヴィンセントの順に入室する。
そこには身綺麗に整えたローズマリーがいつもの様子で堂々と立っていた。
「また会えてうれしいわ。何かご用かしら、ウィル君」
「単刀直入に言うと、僕のチームに入っていただけないかと…」
「…んんん?」
ローズマリーが疑問符を表情に浮かべている。
しかし、別に約束違反ではない。
あちらからの勧誘は断る、と言ったが、こちらから勧誘しないとは一言も言っていなかった。
「…どうして?」
「チームリーダーは、僕です。僕の指示に従って行動してほしいんです」
「ああ、成程…あくまで立場はあなたが上、という事ね」
納得した表情で、頷きを返してくれる。
これはあくまで、言い分を理解してくれただけで承諾してくれるかは別問題だ。
プライドの高そうなローズマリーが承諾してくれるかはわからなかった。
思い悩んでいる様子のローズマリーに対し、熱意で訴えてみる。
「ローズマリーさんがどうしても欲しいんです。どうかお願いします」
「ふ、ふーん…まぁ?アタシは優秀な魔術師ですし?」
「でしょう?それに勧誘もしてもらっていました、きっと僕たちは相性も良いと思うんです!」
「そ、そうね。アタシだって元から組むことは考えていたわけだし?」
ローズマリーの視線が泳いでいる。
ここだ、と判断した僕はさらに一押しすることにした。
「お願いします、あなた以上の相手は考えられないんです!」
「そ、そこまで言ってくれるなら…」
視線を合わせてくれないが、承諾してくれるような雰囲気の言葉を口にした。
表情を明るくして思わず両手を取りつつ、確認を念のために取る。
「良いんですか!?」
「………はい」
頬を赤らめつつも、頷いてくれた。
思わず万歳したくなる結果だった。
何だか横で見ているヴィンセントとアリスの反応が微妙だが、些細なことだろう。
「いや、お嬢が良いなら良いんだけどよぉ…」
「ウィル、お見事です…」
こうして僕は、未来に備えて心強い仲間を手に入れたのだった。




