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英雄候補の冒険譚7

現在、ギルド支部内に存在する訓練場。

ローズマリーのチームメンバー、ヴィンセントの提案で僕とローズマリーは決闘を行うことになった。

ローズマリーが勝利した際には僕がチームへの加入を行い、僕が勝利した際には今後ローズマリーはチームへの勧誘を行わないという条件が提案された。

訓練用の模造品および、魔法を非殺傷とするための魔封じの腕輪を装備して、距離を取って向かい合う。

ローズマリーの方から口を開いた。


「今日は良い日ね…。ついにあなたがアタシのものになる時が来るなんて」

「やっぱりやめません…?僕、人を傷つけたくないんですけど」

「あら、自信満々でお優しいこと。アタシはあなたを手に入れるためなら、多少の痛みは躊躇わないわ」

「それ、どっちが痛みを感じる前提なんですか…?」


どうやら何を言っても無駄らしい。

ローズマリー…というか、人間を相手に戦った経験はないが、出来る限り傷つけずに済ませたいとは思う。

負ければ相手は無傷で済むが、そういう訳にはいかない。

自分の欲のために他人を傷つけるというのは気が進まないが、やるしかない。

とは言え、勝ち方を選べるほど余裕のある相手かと言われれば、全くわからないのだが。

少なくとも相手は二等級の魔法使い、これまでの戦いの中では間違いなく最強の相手だ。(スライムと比べるのも失礼だが)

審判役のヴィンセントとアリスが僕たち二人に確認を取る。


「試合終了後の怪我は私が手当てさせていただきます。安心して競い合ってください」

「一方が敗北を宣言、または気を失うか、審判が判断したら勝負ありだ。異論無いな?」

「当然」

「わかりました」


お互いに武器を構え、お互いを見据え合う。


「では……始めっ!」


ヴィンセントの声とともに、戦いは始まった。




「「ファイアボールッ!」」


開幕とともに、お互いの放ったファイアボールが相殺される。

そして、それが膠着状態の始まりでもあった。


「「ファイアボールッ!」」


再びお互いに魔法を放ち、相殺される。


「これは…」

「ああ、やっぱこうなったか」


それを観戦するアリスとヴィンセントが、それぞれ驚いた顔と予想通り、といった表情を浮かべる。


「まぁ、距離がある状態で始まったらこうなる。お互いに魔法攻撃して、進まねぇ」

「ですが、ウィル様は接近戦に持ち込めれば…」

「お嬢は雨のように魔法攻撃を放ってくるのにか?接近のために魔法の手を止めたらそのまま飲み込まれるぞ」


実際問題、ヴィンセントの解説する通りだった。

ウィルが接近しようと足を動かそうとするところに、ローズマリーは魔法攻撃を放ってくる。

そうなると、魔法で相殺するしかウィルに取れる手段はない。


「模造品の盾や木剣じゃあ魔法は防げて一、二回…接近するまでは使えねぇ」

「…お互いの魔力量はどうなのですか。魔力には限りがあります」

「本職のお嬢と、剣もやってるウィルでどっちが上かは…まぁ、お嬢だろ。相殺している間に打開策を思いつかなきゃ詰みだな」




ファイアボールを唱えながら、必死に思案する。

このままではジリ貧だ。

恐らく、一発も耐えられないという事はないと思うが食らって足を止めればそのまま終わりだろう。

勝利するためには、一か八かの作戦に出るしかない。


「「ファイアボールッ!」」


詠唱による火球の発生と同時に、盾を火球の死角に隠すように放り投げる。

同時に、一気にローズマリーめがけて走り出す。


「ファイアボールッ…!?」


ローズマリーが驚いたような顔を見せる。

相殺後に次弾を放とうとした瞬間、目の前には飛来する盾が迫っていた。

咄嗟に魔法で撃ち落とすが、その隙に僕は剣の間合いまで一気に詰め寄せる。


「こう近ければ、詠唱の隙はない…!」


ローズマリーに対して剣を振るう――が。

その剣が、ローズマリーの身体をとらえることはなかった。


「っ…!」

「詰めが甘いわね…っと!」


ローズマリーは、僕の振るった剣を杖で受け止めた。

お互いに両手で握った剣と杖に込めた力が拮抗する。

状況は再び膠着状態に陥った。

僕も一応は男なのに、力で押し切れない。

やはり上背の大きさと年齢による成長差が大きいのだろうか。

鍔迫り合いをしながらローズマリーが話しかけてくる。


「中々やるじゃない…!流石は私が見込んだあなたよ!」

「何で魔法使いがっ!フィジカルも強いんですか…!」

「接近されたらはいおしまい、じゃ魔法使いはやっていけないのよねぇ…!」


競り合ったまま、ローズマリーが蹴りを放つ。

反射的に飛び退いて躱すが、それは悪手だった。


「ファイアボールッ!」


距離を取ったせいで放たれてしまったローズマリーの魔法を、何とか剣で叩き落す。

だが、頼りない。

次に木剣で受ければ破壊されてしまうだろう。

即座に再び間合いを詰めようとするが、杖での打ち払いを打ち返すに留まった。


「このっ…!」

「甘い甘い!」


そこからは接近しての打ち払いと、後退しながらの打ち払いの応酬となった。

どちらも決定打が出せない。

いや、不利なのはこちらだった。

まずいことに、一回魔法を受けた木剣が軋み始めたのだ。

このままでは、先に武器破壊されてしまう。

相手もそれを狙っているのか、無理にこちらの身体をとらえようとするのではなく、武器を打ち返すことに集中しているようだった。


ならば、逆転のチャンスはここにしかない。


僕は打ち合いをしながら、注意深く木剣が限界を迎えるタイミングを見計らった。

そして、もはや次の一合が限界と言うときに――。


「ファイア…」

「遅いわ!」


詠唱の隙に割り込んで、ローズマリーの杖による叩きつけが身体に入る。

しかし、想定内だ。

知っていれば一度なら耐えられる、気合と根性で無理にでも耐えきり、詠唱を完成させる。


「ランスッ!」

「なっ!?」


至近距離での一段階威力を上げた魔法は、相殺しようとした杖を破壊しきり、そのままローズマリーの腹部に炸裂した。

ローズマリーの上体がくの時に折れ曲がり、膝をつく。

それでも気絶まではしなかったが、顔を上げるときにはすでに僕は木剣をローズマリーに突き付けていた。

呆けたような顔をするローズマリーに対し、僕は宣言した。


「勝負…あり…ですよね」

「ぐううぅぅっ…!」


僕の言葉を聞いて悔しげに歯ぎしりするローズマリーだったが、ここからの逆転の手は無いようだった。


「まぁ、ここまでだな。ウィル、お前さんの勝ちだ」

「ウィル、おめでとうございます」


ヴィンセントが代わって僕の勝利を宣言し、アリスが駆け寄ってきた。

今になって、叩きつけを受けた腹の痛みを大きく感じてその場に座り込んだ。

ヒールによる治療を受けつつ、ローズマリーの方を見ると俯いていた。

何と声を掛けたものかと考えていると、床に涙が滴り落ちていた。


「このアタシが…。このアタシがああぁぁ…」


歯を食いしばって慟哭している。

暫しそうしていたが、急にばっと立ち上がり、こちらを指差した。


「流石はウィル君!とだけ言っておくわ!また会いましょうねっ!」


顔を真っ赤にして涙と鼻水をたらしながらそれだけ宣言すると、一瞬で踵を返してその場を立ち去って行った。

アリスのヒールも受けずに。

それに遅れてヴィンセントが振り返り、軽く一礼だけすると後に続いていく。

最終的に呆気にとられたのはこちらだったが、何とか無事に決闘は終わったのであった。

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