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英雄候補の冒険譚6

「はーい。スライムコアのバターガーリックソースがけだよ」

「いただきます」

「いただきます…」


宿へ帰宅後、仕留めたスライムの素材をもとにマリアさんに夕食を作ってもらった。

二等級冒険者の駆け出しが良く食べるというから食べてみたのだが…意外と食べられる。

見た目はゲテモノっぽいが、食感は柔らかい肉と言った感じだ。

味はほとんどない、かけられたソースの味がほとんどすべてだ。

噛みしめるとスライムの肉汁(殆ど無味)が溢れ出してくる。

腹を満たすだけならこれで十分かもしれない。

隣を見ると、アリスはもりもりと食べ進めていた。

意外と健啖家なのかもしれない。


「いやー、二等級に上がったんだって?今日はお祝いだねぇ、はいこれサービス」

「なし崩し的に、ですけどね。ありがとうございます」


食後の林檎を受け取り、齧り始める。

アリスはすでに頬張れるだけ頬張って咀嚼していた。


「きっかけは何でもいいよ。君はやれるってことがわかっただろう?ちょっとは自信もついたんじゃない?」

「まぁ、それは…」


無い、と言えば嘘になるだろう。

未だに戦いへの躊躇いは残っているが、以前ほどの恐怖心はなくなっている。

一度、アリスを助けるために戦ったことで、何かしら吹っ切れてしまったのかもしれない。

思い悩んでいると、マリアさんはにこやかに僕の頭を一撫でした。


「君も日々成長しているんだから、もっと自信を持ちなさい。その報酬が、君の働きが認められた証なんだから」


マリアさんが稼ぎの入った袋を指差す。

袋に触れると、確かな重みが手のひらに返ってきた。


「…ありがとうございます、マリアさん」

「うん、素直でよろしい。アリスちゃんは食事足りたかな?」

「問題ありません」


全員が食べ終わると、マリアさんは食器を片付け始めた。

その少し時間が出来た間に、アリスが質問をしてきた。


「ウィルとマリアは家族なのですか?」

「あー…うーん…そんなところかな?」

「歯切れの悪い返答ですね」

「僕とマリアさんは宿屋の主と客であって、血が繋がってるわけでもないからね。昔からお世話になってるし、僕にとっては育ての親なんだけど」


アリスは大人しく話を聞く姿勢を見せてきたので、差し支えない範囲で昔話を語ることにした。


「僕は捨て子だったらしくってね。身元がはっきりしてないんだよ。で、そんな僕を拾ってくれたのがマリアさんってわけ。それから、この宿屋でマリアさんに色々お世話してもらいながら育てられて…今は、一人で稼げるようになったから宿にお金を入れながら暮らしてるんだ」

「そうだったのですか。道理で親密そうな関係だと」

「そう見えるかな?」


少し楽し気に笑う。

家族と仲がよさそうだと言われるのはうれしかった。


「二人で何を話しているのかなっと」


マリアさんが再びテーブルに戻ってきた。

残りの皿などを片付けるつもりだろう。


「ウィルとマリアは仲が良い、という話です」

「そう言われると何だか照れるんだけど」

「あはは、長い付き合いだからねぇ。ま、色々と気心の知れている関係だとは思うよ」


くすくすと笑うマリアさんに対して、少し気恥ずかしさがあって視線を泳がせる。


「二等級に上がって収入も増えるだろうし、いつまでもこんなボロ小屋に泊まらなくてもいいんだよ?もっといい環境も手に入るさ」

「いや、僕は…帰ってくる場所はここだ、と思っているんで」

「おやおや、ありがたい言葉だね。ボロ小屋ってのは否定しないんだ」

「あ、いやそれは……すみません」

「いいさ、事実なんだからね。責めやしないよ」


その日は、談笑しながら和やかに時間が過ぎていった。


さらにその翌日。


「ウィルくぅーん、こんにちはー」

「どうも、ローズマリーさん…」


何時にもまして覇気のあるにこやかな笑顔のローズマリーとギルドで出くわした。


「さぁさぁ、ちょっとお話ししましょうねー。はいこっち」

「ちょ、ちょ…」


後ろから背中を押されて強引にテーブルへと連れていかれた。

テーブルにつくと、にこやかな表情のまま椅子を引かれる。

ん、と顎で示す…座れという事だろうか。


「失礼します…」

「はい、どうぞ」


どうやら正解だったようで、満足げに頷いてローズマリーは対面に腰を下ろして足を組んだ。

後ろにはチームメンバーの全身鎧さんが控えていた。

後からアリスが追いかけてきたが、そちらには一瞥をくれただけですぐにこちらへと視線を戻す。


「二等級昇格おめでとう。アタシに何か言うべきことはない?」

「推薦ありがとうございました…ですかね」

「いえいえ、そんなことは良いのよ。アタシはあなたなら昇格すべきと思って口を挟ませてもらっただけだし?感謝は要らないわ」


そうなると何だろう。

他に何かあっただろうかと考え込むしぐさを見せると、ローズマリーは身を乗り出して口を開いた。


「アタシのチームに入らないの?折角アタシが。直々に。誘っているのに」

「そこですか…」

「そう、そこよ」


ローズマリーが足を組みなおす。

…少し不機嫌でいらいらしているのだろうか。


「聞いた話、昨日あなたはそこの」


ほんとうに一瞬だけアリスを一瞥した。


「どこの馬の骨とも知れない相手を連れて、間引きの依頼を受けたそうじゃない。なーんで、アタシに声を掛けなかったのかしら?」

「いや、他の方にご迷惑をかける必要もないかなって…」

「一人で行ったってことは、やれる自信はあったのでしょうね。それなら、迷惑を掛けない自信もあったのではなくて」

「うっ…」


そう言われると、そうでもあるような気がして反論しづらい。

それを肯定と受け取ったのか、ふん、と得意げに鼻を鳴らした。


「あなたはアタシが認めた優秀な魔法使い…チームに入れば、一等級も夢ではないわ。悪いことは言いません、今日こそは私のチームに加入しなさい」

「考えさせてくださ」

「もう十二分に時間は与えたわ。等級を上げた以上、戦う覚悟はあるのでしょう。…心配することはないわ、じっくりと大切に育て上げてあげるから」


舌なめずりするのは何だか怖いのでやめてほしい。

自分が押しの弱いのもあるが、ここまで言われると非常に断り辛い気持ちになってくる。

どうしたものかと悩んでいると、後ろから助け舟が入った。


「ローズマリー、ウィルを強引に勧誘しようとするのはやめて下さい」

「アタシ、あなたに何か聞いた覚えはないんだけど?」

「ウィルは乗り気ではありません。それに、ウィルは十分に一人でもやっていけます」


淡々と反対意見を返すアリスに対し、ローズマリーは不快そうに視線を移す。


「そんなウィル君にくっついてるだけの寄生が言うこと?」

「…私は回復魔法で貢献できます。ウィルのお役に立てます」

「ふーん。けど、それはウィル君一人でもできることでしょう?」


睨み合う二人の状況は視線で火花を散らしかねないほど険悪だ。

そんな中で、これまで黙っていたローズマリーのチームメイトが口を開いた。


「お嬢、もういいだろう。話し合いじゃ埒が明かねぇよ。こうなったらやる事は一つだろう」

「…ヴィンセント」

「やる事…?」


嫌な予感がして聞き返すと、ヴィンセントは頷いて口を開いた。


「タイマンやろうや。お嬢と、ウィルで」

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