英雄候補の冒険譚5
「ファイアボールッ!」
右手で放った火球がスライムを焼き払う。
僕は今、街の外の街道沿いの平原でスライム退治に勤しんでいた。
「お見事です、ウィル様」
「良いから、下がってて!」
そう声をかけると、杖を持ったアリスが小走りに僕の後方へと戻っていく。
追ってきたもう一匹のスライムに対して、カウンターで直剣の突きを入れ込む。
昨日の短剣の時とは違い、一撃でコアを刺し貫くと、スライムは動かなくなった。
「お見事です、ウィル様」
「倒すたびに言わなくていいから!とにかく君は下がって、怪我したら回復をお願いね!」
何故、戦いを避けようとしてきた僕がスライム退治に精を出すことになったのか。
話は、少しばかり遡る。
「街道沿いの魔物退治ですか…」
「はい、人手が足りないもので。あなたにメンバーの一人として参加していただきたいのです」
ギルドの別室で、受付の人と一対一で話し合う。
アリスには、テーブルで待っていてもらうことになった。
こういった話が自分に持ち込まれるのは初めての事だった。
戸惑いつつも、なぜ自分がという疑問を解消しようと会話を試みる。
「あの、まず…僕三等級ですよね?個人じゃ討伐依頼を受けれない…」
「この依頼を受けて下さる場合、二等級に昇格させて頂きます」
「えぇ!?」
「以前から昇格については検討されていましたので。ウィルさんは一向に申請する様子がありませんでしたが」
「いやでも、昇格の条件とか試験とか…!」
「素行や信頼に関しては過去の依頼達成実績から十分と判断されています。装備に関しても、本日直剣を購入したという情報が入っています。ちなみに推薦についてはローズマリーさんから入っています」
「ええぇ……」
あの人、チーム勧誘をしてきているだけじゃなく、僕が知らない間にそんなことをしていたのか。
「さらに言うと、昨日の採取依頼でスライムを討伐したとか。魔物の討伐は試験で行われますし、実際に戦闘能力があるという証明になっております」
「いや、それは、その」
「能力を持った人材を三等級で…言い方は悪いですが、遊ばせておくという訳にもいかないのです。ご理解のほどを」
実力を評価してくれるのはありがたい。
しかし、戦いへの不安はなかなか拭い切れるものではなかったが。
「現在は魔王軍との戦いのために一人でも多くの人材が必要なのです。どうか、無辜の人々を守るためにも、あなたも冒険者の一人としてお力添えください。無理はお願いしません」
真剣な表情で、人々を守るために、そう言われてしまうと言い返せなかった。
そして今、僕は二等級の初仕事としてスライム退治を行っている。
アリスは三等級だが、二等級の僕が引率という事で同行を許可された。
アリスの装備品は短剣を売り払って工面した。
貯金はだいぶ減ってしまったが、仕方のないことだろう。
街道沿いの魔物の討伐は重要な仕事であり、出没する魔物の傾向も把握されているため、難易度はそう高くはない。
街道に魔物の群れが陣取ってしまうとそれだけで流通が滞り大問題になってしまうので、常に間引きの必要があるのだ。
そのため、常にギルドなどでは魔物の動向の把握をしており、適切に冒険者を派遣している。
その適切な戦力として選ばれたのが僕らだったという訳だ。
周辺に敵影がないのを確認して、アリスとの確認を取る。
「とりあえず、一息つくけれど…作戦、ちゃんと覚えている?」
「問題ありません」
「うん、一応言ってみてくれる」
「敵がスライム一体の場合、ウィル様が直剣で処理」
「うん」
「敵がスライム二体の場合、ウィル様が一体をファイアボールで処理、残りを直剣で処理」
「うん」
「敵がスライム三体以上の場合、またはその他の魔物の場合、距離を取り交戦を避ける」
「君の役割は?」
「いずれの場合でもウィル様の後ろについていき、怪我を負った場合にヒールで回復です」
「よし、オーケー」
にっこりと笑って見せる。
伝えた指示をしっかりと記憶している、満点と言っていい。
「少々慎重すぎませんか?ウィル様ならスライム三体でも問題ないかと」
「敵を倒す。自分の身と、君の身を守る。全部やるならこれくらいで良いんだよ」
しっかりと攻撃を命中させられれば一撃でスライムくらいなら葬れることはわかったが、万が一があってはいけない。
常に一対一の状況を作り、それが難しいならそもそも交戦しないというのが、僕の考えた安全策だった。
アリスは回復魔法しか使えないとのことなので、完全に支援に回ってもらっている。
少しずつはぐれスライムを狩っていくならこれで大丈夫だろう。
「今のところは順調だね…僕も君も、傷一つなく依頼をこなせている。指定された範囲を回ったら街へ帰ろう」
「私、ウィル様について回っているだけなのですが…」
「良いんだよ、君は安全のための奥の手なんだから。使わずに済むならそれでいい。…それと、様付けはやめてくれない?呼び捨てで良いよ」
「…お望みとあらばそうします、ウィル」
無表情ながらに少々不服そうな顔つきではあったが、頷いてくれた。
とりあえず、これで街中で無駄に目立つようなことは避けられるだろう。
周辺に未だにスライムの姿がないのを確認しつつ、僕はアリスに気になっていたことを問いただすことにした。
「ところで…ギルドで、僕が戦いに巻き込まれていくようなことを言っていたけど…あれはどういうこと?」
「私にはある程度の運命が見えるのです。ウィルには現在暗雲が立ち込めています。近い将来、何か強大な相手との戦いが起きる可能性は非常に高いと思います」
「運命…?」
半信半疑ではあったが、アリスの澄んだ青い瞳とごくまじめな表情を見ると、嘘をついている風には見えなかった。
「君の、使途としての力ってやつ?」
「はい、その通りです。災いを予知し、警告するための異能です」
「それは、今やっているスライム退治…とかじゃなくて?」
「私が予想する限りでは違うかと」
「参ったな…外で何か起きるというのが考え方としては妥当かと思うけど…」
とは言え、現在の状況では何が起こるか想像もつかない。
ひょっとして、噂に聞く魔王軍が何かこの町の近くで事件を引き起こすのだろうか。
近隣でモンスターの動向が大きく変化したというような情報はまだ聞いていないが、警戒するに越したことはない。
手早く依頼を済ませてしまおうと、二人で見つけたスライムを狩り続ける。
そうして得られた稼ぎは、三等級の頃の十倍には達していたのだった。




