英雄候補の冒険譚4
翌日。
「という訳で、今日はこの街を案内するよ」
「ウィル様、私にお気遣い頂かなくとも…宿も、私は同室で構いませんでしたのに」
「いや、それは駄目でしょ…」
「?一室なら代金の負担はなかったのでは?」
「普通、男女で一つのベッドを一緒に使ったりはしないんだよ…」
「私は構いませんが」
「僕は構うんだ」
一体何をどこからどこまで教えればいいのかと頭を悩ませながら、宿の外で二人で話す。
アリスの格好は、薄汚れた白い布切れから、僕の服を一回り小さくしたような格好になっていた。
流石にあのままの格好で街を出歩くと悪目立ちするだろうと、僕の古着から見繕って着替えてもらった。
どうせ着ることもなくなっていたし、この方が有効活用だろう。
宿でのマリアさんとのやり取りを思い出す。
「ああ、ウィル君。使徒の事は周りには隠しておきなさい」
「何故ですか?マリアさん」
「確証の無い話だというのが一つ。もう一つは、使途は狙われてしまいがちだからさ」
こほんと一つ咳払いして、マリアさんは続ける。
「使途は天の使いと言うだけあって、本物なら何かしらの超常的な能力を持っているものなのさ。それを目当てで奪い取ろうとしたり、或いは殺そうとする相手がいたって話もある。闇雲に触れ回っても良いことはないからね」
「そうなんですか…。彼女から、まだそういった話は聞いていないんですが」
「まぁ、何かあるのなら聞いてみれば答えてくれるかもしれないよ」
「ウィル様、どうかなさいましたか」
「いや、ちょっとね。後で話すよ」
声を掛けられて、思考を打ち切る。
とりあえずは当初の目的を果たすとしよう。
「じゃあ、案内していくから。はぐれないようについてきてくれる」
「かしこまりました」
そうして、僕はアリスを連れて順々に街を巡っていった。
日常品の店から冒険者用の店まで、一通り生活に必要な施設を見てまわる。
途中、幾つかアリスから質問があったりもしたが、僕の知識でこたえられる範疇の質問ばかりだったので、特に問題も起きなかった。
「ここは武具屋だよ。ちょっと買い物してくるから、好きなように見ていて」
「では、そのようにさせていただきます」
昨日のスライムとの戦いで良い武器の必要性を感じたため、刃渡りのある直剣を仕入れようと店内の品を見て回っていた。
魔法用の杖を仕入れることも考えたが、現在の資金ではどちらか一つしか買えないだろう。
となると、魔力が尽きても十分に性能を発揮できる直剣を買うことにした方が良いだろうと判断した。
剣のうち自分の手になじむ一振りを手に取ると、会計に向かう。
「すみません、店長。これお願いします」
「ん…坊、とうとう買う気になったか。魔物でも狩る気になったのか」
返事をしたのは、この店の店長でもある大男のジカさんだった。
「いや、積極的に狩ろうとは思ってないんですけど…昨日、戦いが避けられなかったので」
「だから、採取にも使えるような短剣は器用貧乏だって言ったろうに。金があるなら良い装備は買っとけ。…で、その剣でいいんだな。杖の方にはしねぇのか」
「魔法一本でやっていけるかどうか不安なもので…手札は多い方が良いと思って」
「そうかい、まぁ好きにしな」
軽くやり取りを済ませると、会計を済ませて剣を受け取った。
うん、剣一本位ならあまり荷物がかさばるという事もないだろう。
買い物は終わったが、ジカさんはもう少し話しかけてきた。
「で、坊。あっちの嬢ちゃんはお前の連れだろう?どうしたんだ」
「あぁ、ちょっと森の中で助けることになって…色々、教えている最中なんです」
「ほぉう。出会ったばかりってわけか…家族や恋人ってわけじゃねぇのか?」
「いえいえ、違いますよ」
全然似てないだろうに、と僕は苦笑を浮かべる。
恋人と言うのも論外だ。
僕と彼女の関係は…そう、保護者と子供に近いだろう。
そう考えると少し昔が懐かしくなってきた。
昔、自分もマリアさんに連れられてこの街を色々と見て回ったものだった。
まぁ、当時は大分小さかったから、手をひいてもらいながらゆっくりと歩かせてもらっていたのだけれど。
成長して、自分もそういったことができるようになったと考えると少し感慨深いものがある。
「そうかい。まぁ、それなら問題ねえか。気を付けろよ、坊」
「はい、あまり目を離せる相手でもないので」
アリスが置かれている大剣を持とうとして持ち上げられない様子を見て、少し苦笑した。
街巡りを進め、最後に連れてきたのが、ギルド支部だった。
どうやら今の時間帯の人の入りはそれなりのようで、机で談笑しているチームや、掲示板で以来の物色をしている面々などを見かけた。
僕が誰かと一緒に個々に来るのは珍しいためか、何人かはこちらに視線を向けてきたが、直ぐに雑談へと戻っていく。
そんな中、適当に空いている机を探してアリスと一緒に腰を下ろした。
「…で、ここが僕の仕事を受けているところだよ」
「なるほど…こちらでウィル様は日々英雄となるための経験を積んでいるわけですね」
「いや、日銭稼ぎに来ているだけで戦うようなことはしていないんだけど」
「…そうなのですか?」
嘘を吐く理由もないので正直に答えるが、彼女にとっては意外だったようで瞬きを返されてしまった。
「あなたはいずれ英雄となりえるお方。実戦の経験を積んで損はないかと」
「僕、戦いはそんな好きなわけじゃないし…これまで受けた依頼も戦闘系のはないよ」
「なんと勿体ない…」
何だか嘆かれているようだ。
そうは言われても、これが僕の性分だ。
冒険と言う言葉からは遠いかもしれないが、自分に出来ることを日々確実にこなしていく。
そういった生き方が僕には合っていると思う。
「あなたの運命は否応なく戦いへと巻き込まれるはず…。このままで良いのでしょうか」
「――何て?」
ちょっと聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。
どういう意味かと問い返そうとしたところで――。
「ウィルさん、少しよろしいですか?」
ギルドの受付のお姉さんに話しかけられたのだった。




