英雄候補の冒険譚34
翌日。
僕らは帝都の城壁の外で他の冒険者や騎士団の面々と共に魔物の軍勢と対峙していた。
「ファイアボール!!」
「サンダーランス!!」
「「ファイアランスレイン!!」」
冒険者の魔法使いたちに交じって、僕とローザが二人掛かりで炎の槍の雨を降らせる。
その攻撃の直撃を受けてオークやゴブリン、オーガといった魔物達が灰塵と化していく。
「進め!魔物どもを街へ一歩も侵入させるな!」
騎士の号令と共に、前衛職の冒険者と騎士団が前へ出て魔物達と近接戦闘を繰り広げていく。
戦況は僕ら人間側が大いに優勢だ。
尤も、ここを抜かれれば後がないので抜かれてしまっては困るのだが。
冒険者も騎士団も実力は確かなようで、安心してみていられる。
僕はローザと共に、魔法による援護をつづけた。
そうこうしている内に、魔物側の指揮官が何体か討たれたようで、魔物の軍勢は退却を始めていった。
人間側は深追いにならない程度にこれに追撃を加え、今回の戦闘はこれにて幕を下ろすことになった。
「ふぅ…終わったね。みんな無事で良かったよ」
街へと戻り、ギルドの一角のテーブルを囲んで皆と共に一息ついた。
「やる事自体はあたしたちのいたところとあまり変わらないわね…規模は大きいけれど」
「ま、妙なことが起こるよりは余程マシだろ」
「今のところ不穏な空気はありません。現在の状況は小競り合いと言っていいでしょう」
仲間たちと共に会議をしながら、周りの様子を窺う。
先程の先頭の勝利の影響か、祝杯を挙げている面々が結構な数見受けられた。
実際、自分たちもその中の一つではあるだろう。
飲み物を口に含んで喉を潤すと、話を続ける。
「今回の戦いでは魔将の姿は見られなかった…。敵も本腰を入れているという訳ではないだろうね」
「出てきたら出てきたで、これまでのように返り討ちにするだけよ」
「…頼もしい言葉だね」
臆する様子のないローザに苦笑を浮かべながら、頷く。
この自信にあふれた姿は味方ながら頼もしい。
そのおかげで、和やかな雰囲気のまま酒宴の時間は過ぎていった。
それからも僕らは帝都での時間を過ごしていった。
時々魔王軍の襲撃があった際には防衛に参加し、これを迎え撃った。
ギルドでは討伐依頼が多々出されているため、それらを遂行することもあった。
いずれにせよ戦いだらけの日々が続いており、しかし、これといって大きな事件が起こることも無く良くも悪くも安定した日々を送ることになっていた。
そんな生活を続けていたある日の事。
「はぁ…まだ少し疲れが取れないな…」
帝都の街並みを散策しながら、僕は溜息を吐いていた。
魔物との戦いにももうだいぶ慣れたつもりではあったが、毎日のように戦いの日々を送ることになると流石に精神的にも堪えてきた。
「大体ファイアランスを撃ってればどうにかなるけど…これじゃ、逆に鈍っちゃいそうだな…」
帝都に来てからこれまでの戦いで、魔将に匹敵するような強者の魔物は現れていない。
殆ど作業染みた魔法の発動だけで片が付いてしまっている。
楽なのは良いことだが、油断してはならないと自分を戒める必要があるだろう。
そうこう考えながら歩いていると、街の片隅にある一軒の店が目に留まった。
看板には、シャルロット魔道具店と書かれている。
なんとなく気になって、僕はその店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー!」
店内では、おそらく20代ほどであろう金髪碧眼の女性が出迎えてくれた。
ぐるりと視線を店内に陳列されたものへと巡らせる。
怪しげな薬品の入った瓶、古びた魔導書や杖、剣や斧といったものまで並んでおり、雑多な印象を受けた。
適当に足を進めて、瓶のうち一つを手に取って聞いてみた。
「ええと…これは何ですか」
「はい!そちらマナポーションとなっております。服用することで消耗した魔力を回復する効果がありますよ!」
「へえ…便利じゃないですか。お幾らなんです?」
「はい、500万になります!」
「ごひゃ…」
にこやかにはっきりと言い放つ女性だが、その額に僕はちょっと引いた。
割らないように気を付けて瓶を棚に戻すと、気を取り直して他の物を漁ってみる。
赤い宝石の嵌められた指輪を見つけたので、手に取ってみた。
「これは?」
「魔石の指輪でして、身に着けることで魔力を増幅し、魔法の威力を高める効果があります!」
「お値段は…」
「はい、2000万になります!」
ポーションの値段からある程度察しはついていたが、相当な額だった。
質は良いのかもしれないが、簡単に手が出せる金額ではない。
店主らしい女性はにこやかな笑顔で接客してくれているが、僕としては対応に困ってしまった。
その後も、幾つかの商品を尋ねてみたが…。
「こちら魔力を込めることで魔力の刃を形成する魔法の剣、3000万になります!」
「こちら魔力を込めて投擲することで大爆発を引き起こす爆炎の魔石、500万になります!」
「こちら消費魔力を代替えする魔石のついた魔法の杖、5000万になります!」
などなど、最低でも数百万の額の商品ばかりが陳列されていた。
この場で手を出せるような商品は一つも見つからず、どうしたものかと思案してしまう事となった。
その悩みが顔に出ていたのか、女性は少し顔を曇らせながらこちらへと問いかけてきた。
「あのお…お気に召す商品がありませんか?」
「ああいえ、ちょっと手持ちが無くて…」
「あ、そうですか…皆さん、良くそう言われます。お気になさらず…」
少し肩を落としながら、女性は苦笑を浮かべてみせた。
「この店に並べてあるのは、私がこれはと見込んだ貴重品ばかりなんですけど…高額すぎて手が出せないという方が多くて。残念です…」
「他所では見たことも無いような品質の商品なのはわかるんですけどね…」
頷きを一つ返して、僕は商品を見渡す視線を動かした。
心惹かれるものもいくつかあったのだが、僕の一存で動かせるような額の商品は存在しない。
「また今度準備を整えてくることにします…」
「そうですか、ご来店ありがとうございました…」
申し訳ないが、僕はこの場での購入を諦めて、帰路へつくのであった。
不定期更新予定です。
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