英雄候補の冒険譚30
「アリス!しっかり!」
地面に大の字に倒れ、傷だらけの身体でゆっくりと荒い呼吸をしているアリスに声をかける。
負傷したローザとヴィンセントも立ち上がり、こちらへと向かってきている。
「ヒー…ル…」
アリスは自らの身体にヒールをかけて傷の治療を行っている。
ゆっくりではあるが、徐々に外傷が回復していった。
しかし、ずいぶんと体力を消耗してしまったようで、荒い息で胸が上下するのを抑えきれず、また、立ち上がるのも億劫そうだった。
「良かった、時間さえかければヒールで治療できそうね…ウィル、運んであげなさいよ」
「よ…っと。おい、背中貸してくれ」
アリスには及ばないがぼろぼろなローザとヴィンセントに介助されて、アリスは僕の背中へと負ぶさった。
人一人分としては、ずいぶん軽い。
この軽い身体でエドの攻撃を受け止めさせてしまったと考えると、自責の念に襲われるようだった。
「すみま、せん…ご迷惑を…」
「気にしないで。迷惑だなんて誰も思っていないから」
耳元で、呟くような声で謝罪の言葉を吐き出すアリスに気をかけつつ、僕らはゆっくりと歩き出す。
その間も、アリスは申し訳なさそうな言葉を吐き出していた。
「私の役目は、ウィルをお守りすることなのに、助けられてばかりで…」
「そんなことはない。今日だって君がいなければ皆助かっていなかったよ」
アリスが僕の魔法発動までの時間を稼いでくれなければ、有効打がなく、全員が死んでしまっていたかもしれない。
そう考えれば、今回の戦いはアリスのお陰で勝てたと言っても過言ではなかった。
「そうよ、そんなこと言っていたらヴィンセントの立つ瀬がないわ」
「本来敵の攻撃は俺が何とかしなきゃならんかったからな…すまん」
ローザが冗談めかして言い、ヴィンセントが謝罪の言葉を投げる。
「そんなことは…ヴィンセントたちがいなければ私は…」
助からなかった、としゃべりかけたところで、僕の言葉通りだとわかったのだろう。
アリスは口を噤んだ。
僕は苦笑しながら、アリスに声を添える。
「チームなんだから、皆助け合うものだよ。だから、自分一人で何もかもなんとかしようなんて考えなくていい」
「そう…そうですね。…ありがとうございます、ウィル」
僕の背中で、アリスが力を抜いて落ち着いたのを背中越しに感じ取る。
これで少しは他人に対して何かを頼るという事を覚えてくれればいいのだが。
僕らは、皆、揃って帰路へと就いたのだった。
――そして、僕らは大穴が開いた宿にたどり着いて皆一様に口を開けて呆然としたのだった。
「やぁ。おかえり、諸君」
「父様…これは…」
にこやかで涼やかな表情を浮かべつつ、出迎えてくれたローランドさんの姿を見て、僕らは大体の事を察した。
恐らくは魔将アイリーンとの戦闘でこうなってしまったのだろう。
ローランドさんの部下らしき人達が事後処理を行っているようだった。
そうであればアイリーンと戦ったローランドさんに全責任は無い。
無いのだが…もう少し、申し訳なさそうな顔をしてくれても良いとは思った。
「魔将に先制攻撃をかけたのだが、逃げ切られてしまってね。申し訳ない限りだよ」
「父様…もう少し顔にも言い訳をさせたらどう?」
涼しげな表情で肩を竦めるローランドさんに対し、じっとりとした目つきでローザがものを言う。
「いやぁ…またずいぶんと派手に穴を開けてくれたよね。助かったけど」
「マリアさん!」
ローランドさんの後ろから出てきたマリアさんが、困ったような笑みを浮かべながら僕らに手を振って無事を示してくれた。
見たところ怪我の類はなく、健康そのものと言った姿で、僕はようやく一安心した。
もしマリアさんを失うことになっていたらと考えると、胸が張り裂けそうな思いだった。
「無事で良かった…本当に…」
「心配かけさせちゃったねぇ。ごめんよ、ウィル君。アリスちゃんは大丈夫?」
「はい。マリアも無事で良かったです」
アリスが背中から降りて、無事を伝えあう。
抱き合ってお互いの無事を確かめ合う僕とマリアさん。
そうしている最中にも、ローザとローランドさんのやり取りが続けられる。
「父様、これって修理とかどうなるのよ」
「私が補填するとも。破壊してしまった責任ぐらいは取るから安心したまえ。その間、どこか他所に泊まってもらうことになるが…」
「家の部屋、どうせ空いているでしょう?貸して頂戴よ」
「致し方ないな」
ローザとローランドさんの交渉は、あっさりと纏められた。
纏まるなりローザは両手を腰に当ててこちらを見据えながら、口を開いた。
「…ウィル!いつまでも抱き合ってないで、荷物を纏めなさいよね!」
「あ、うん。わかったよ。直ぐに支度する」
「私のおんぼろ宿とも暫しのお別れか…悲しいなぁ…」
泣き真似をするマリアさんを含め、僕らはほとんど廃墟と化した宿から荷物を回収する。
そして、僕らはローランドさんの家に間借りさせてもらうことになったのだった。




