英雄候補の冒険譚27
「よし、行きましょう」
「ローザ…話は通ったの?」
「ええ、ギルドの通信用の魔水晶を借りたわ。街の事は任せておけって言っていたわよ」
ギルドの奥の通信室から戻ってきたローザに問うと、少し疲れた様子で溜息を吐いていた。
それだけローランドさんとのやり取りに疲れたのだろうか。
「まぁ、とにかく、これで憂いは無いわ…行きましょう」
「うん、そうだね」
僕たちは、改めてギルドを出て依頼の場所へと向かっていった。
そして僕らは、平原の中央に堂々と佇む黒外套の存在に出くわした。
「ようやく来たか…待ちわびたぜ」
殺気を隠そうともせずに、肩を揺らして笑う銀髪に黄色い瞳の男。
僕らは皆、こいつが予知に引っかかった存在だと直感した。
「その格好…魔将か!?」
「その通り。魔将エド。手前らの命、もらい受ける」
ガントレットをはめた拳の指の骨を鳴らしながら、無造作にこちらへと歩み寄ってくる。
だが、それを黙って許すようなローザではなかった。
「ならダーレイのように消し炭にするだけよ!ファイアランス!」
「ふん」
ローザがいきなり放った魔法を、エドと名乗った男は裏拳で弾き逸らした。
炎の槍が、見当違いの方向へと着弾する。
ローザは一目見て驚いた。
「はぁ!?一体どうやって…!?マナリフレクションは使っていないわよ!?」
「教えるわけねーだろうが、馬鹿女」
「ばっ…!?」
ヴィンセントとアリスが各々武器を構えて前へ出る。
僕は相手の動向を睨みながら、ローザに言葉を送る。
「単純だよ。魔力を拳に込めて、接触する瞬間に横から放出して弾いたんだ。魔力には魔力で干渉できるからね」
「ほお、そっちの小僧は見抜いてたか」
口笛を吹きつつ、小馬鹿にしたようにローザを見る。
歯ぎしりするローザだったが、怒りで沸騰するほどではないらしく、理屈は理解してくれたようだ。
しかし、言うは簡単だが行うは難しい。
タイミングが遅れれば直撃を受けてしまうし、常時魔力を放出していては魔力切れはすぐに起こってしまう。
タイミングを見極めるだけの眼力があるか、莫大な魔力があるか。
どちらにせよ難敵であるのは確かだった。
「殺す前に聞いといてやる。手前らの中に、使途はいるか?」
使徒、という言葉を受けてヴィンセントとローザは恐らく内心に疑問符を浮かべただろう。
僕は一瞬硬直してしまったし、アリスは硬直の後、明らかに身体が力んだ。
「なるほど…嘘がつけないな」
獰猛な笑みを、口の端に浮かべつつ呟くエド。
その視線はアリスに注がれている。
まず間違いなく、誰が使徒なのかは察せられてしまっただろう。
だが、それでこちらのやる事が何か変わるわけではない。
瞬時に切り替えて、僕は魔力を練り始める。
「捻り潰してやんよ!」
「やらせる訳ねぇだろうが!」
その巨体に見合わぬほどのスピードで、一直線にこちらへと駆け抜けてくるエド。
それに対して剣を構えて前へ出るヴィンセント。
エドの拳と、ヴィンセントの剣がかち合い、火花を散らす。
「アクセラレイション!」
僕は後方から、ヴィンセントにアクセラレイションをかけた。
高速化したヴィンセントの剣技が、エドの身体を切り刻む――が。
「痒いんだよ、この馬鹿が!」
「何っ!?」
なんと、エドの身体に対してヴィンセントの刃が通らなかった。
そのままエドの巨拳がヴィンセント目掛けて繰り出される。
ヴィンセントは加速された身体で回避しつつ、剣を繰り出すが、まるで鋼鉄そのものの身体には傷がつけられなかった。
「ここは私が…!」
ヴィンセントへ攻撃している隙をついて、アリスが金棒による全力攻撃を横から叩きこむ。
「おおっ!?」
「ナイスだアリス!」
傷はなくとも、エドはその威力に大きく仰け反った。
そこに更にヴィンセントが全力で突く。
だが、胸筋に阻まれ、外套が裂けるに留まった。
「鬱陶しいんだよ、馬鹿どもが!」
エドが大きく片足を天へ上げ、一気に地を踏み砕く勢いで叩き込む。
その衝撃で一瞬、大地が揺れ僕らの足が止まった。
そうして隙が出来た瞬間に、右手でヴィンセントに、左手でアリスに、同時に掌底を叩き込んだ。
「ぐあっ…!」
「っ…!」
ヴィンセントとアリスが、衝撃のあまり弾き飛ばされる。
エドがそこに追撃を放とうとした瞬間、ローザが魔法を発動する。
「ファイアランスレイン!」
「うざいんだよ!」
雨のように放たれる炎の槍を、エドは両腕で弾き、逸らし、受け流す。
しかし炎が射出されている間は防御に専念せざるを得ない様子で、その間にヴィンセントとアリスは打撃の威力に震える身体で立ち上がった。
「くそ!何なんだ、アイツの身体の硬さは!?」
「何か…絡繰りがあるはずです…」
今のところ攻撃が通じていないが、魔法攻撃に対しては防御行動をとっている。
ならば、攻め手は自分とローザが担当するべきだろう。
「アリスとヴィンセントは防御行動に集中して!ローザと僕で攻める!」
その言葉を聞いて、ヴィンセントがローザに、アリスが僕の護衛についた。
僕は魔力を練り上げ、セイクリッドファイアソードの準備を始める。
その途端にエドに脅威度を察知されたのだろうか、舌打ちと共にこちらへと視線を流した。
「ちっ…悠長に撃たせる訳無いだろうが!」
「ウィル!そっちに行くわ!」
ローザの魔法攻撃の切れ目を縫って、こちら側へと飛び込んでくる。
「させません…!」
「邪魔だ!」
アリスが迎撃に出るが、全力の攻撃を持ってしても押し返しきれない。
お互いの攻撃同士がかち合い、大きく弾かれる。
それを一合、二合と何度も繰り返し、斬り結ぶ。
相手へのダメージはない、しかし、魔法を放つまでの時間稼ぎとしてはそれで十分だ。
「セイクリッドファイアソード!」
僕は紅蓮の炎を放出する剣を、エドに向かって思い切り振り下ろした。
「ぬおおおおおぉぉぉっ!?」
「あああぁぁっ!!」
両腕で身体を庇い防御態勢を取ったエドを、紅蓮の炎の奔流が呑み込む。
エドの防御能力がどれほどであるかわからない以上、この一撃で勝負を決するつもりでさらに魔力を注いでいく。
奔流はさらに激しく勢いを増し、飲み込まれたエドの姿は完全に見えなくなった。




