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英雄候補の冒険譚24

朝方。

ヴィンセントとの訓練を終えると、最近行われているアリスの近接戦闘訓練が始まった。

そのアリスの戦いぶりを一言で言わせてもらうと――。


「なんか…雑よね。良く言って素直かしら」

「そうだね…」


何とも言い難い表情をローザと共に浮かべながら、意見が一致する。

アリスの戦闘スタイルは、恵まれた筋力から繰り出す金棒での全力攻撃で、一撃狙いなのだが、ヴィンセントには当たらないし、逸らされる。

そうしている内に、体力を消耗してばててしまうのが常だった。

今日もその例に漏れない。


「チームで動くなら、不意打ちで決まるかもしれねぇが…俺には当たらんな…っと」

「…っ」


ばてて空振り、体勢を崩したところに剣を突き付けられて勝負が決まる。

アリスも大人しく負けを認めた。


「ウィルにも言ったが、基礎体力つけとけ。技量だのなんだのよりそれが先だ」

「…わかりました」


肩で息をしながら、素直に頷きを返している。

僕はアリスに寄っていって、声をかけた。


「お疲れ様。息が切れてるけど、大丈夫?」

「…数分で元に戻ると思います。問題ありません」


呼吸以外はほとんど表情を変えないまま、返事をしてくれた。

いつも通りだが、昨日のやり取りが妙に頭に残って、続けて言葉を継いでいく。


「ねぇ、アリスが接近戦の訓練に力を入れてるのって、僕を守るため?」

「はい、その方がお役に立てるかと」

「アリスったら、献身的よねぇ」


宿屋の壁に背を預けながら、ローザが呟く。

実際その言葉は正しく、アリスは常に僕のためを思って行動している節がある。

それはありがたいのだが。


「出来れば、自分の身を守ることももっと考えてほしいかなぁ…」

「そうよ。前衛はヴィンセント…とウィルに任せておけばいいわ」

「ま、構成的にそれが俺の役割になるわな。そんな訳で、基本は俺の影に隠れてくれてていいんだぜ?」

「…わかりました。考えてみます」


素直に頷きは返してくれたが、僕には無表情なりに不服そうに見えた。

その場は訓練が終わって解散という事になったが、僕はアリスに対して若干の不安を抱いたのだった。




「ああ、くそ。なんで俺が真昼間からこんな辺境の街に来なきゃならねぇんだ…」

「ダーレイを倒したっていう連中の事を調査しろって命令でしょう。仕方ないわよ」


ウィルたちが住まう街の一角。

二人連れの男と女が歩きながら会話をしていた。

二人とも、フードを外した黒外套姿だ。

一人は、行きかう人々の中でも文字通り頭一つ抜けた図体の黄色い瞳でスキンヘッドの巨漢。

一人は、小柄な少女と言った風情の黄色い瞳で銀の長髪の女性。

並ぶと凹凸の凄まじい光景だったが、本人たちは気にしてない風で気さくに話していた。


「ダーレイの阿呆、こんなところでくたばりやがって…俺は、調査は苦手だ。アイリーン、お前に任せる」

「少しは手伝いなさいよね、エド。何もしなかったって陛下に報告するわよ」

「潰すのは俺がやる。それで文句無いだろう」


呆れた様子の女に対し、男の方は不遜な態度を崩さずに接する。

女は、溜息を零しながら言った。


「わかったわよ。じゃあ、私が対象との接触はするから。邪魔しないでよね」

「おう、俺は寝転んでるわ」




道を歩いていると、アリスがまたも何か感じ取ったようで、僕の服の裾を引いてきた。

何か話すことがあるのだろうと思って、こちらから尋ねかける。


「どうしたの」

「…不穏な感覚が強くなっています。遠いような、近いような…」


以前は依頼で外の村に出た時に感じた感覚らしいが、今回はこの街の中で感じるようになったらしい。

アリスの未来視の感覚は、その後の行動次第でどう転ぶかはわからない。

わからないが、悪い可能性が生じているというのは確かなことだ。


「という事は…街中に魔物が…?」


どうやって侵入するのかはわからないが、驚愕だった。

いや、顔形は分からなかったが、ダーレイは人型の姿をしていたし、人間そっくりの魔物がいる可能性はある。

そうなると、門番も人間だと思って素通ししてしまうことはあるだろう。

しかし、そうなった場合どう見分けろというのか。

息を呑みながら、アリスに問いかける。


「アリスは…見れば、魔物かそうでないかはわかる?」

「残念ながら、不可能です。私の異能では判別しかねます」

「そうだよね…」


一縷の望みをかけたが、不可能らしい。

しかし、常に気を張るというのも難しい。

この街にいるすべての人間に対して、魔物かもしれないという気心で臨んでいたら、精神的に持たなくなってしまうだろう。

そうなるともう、相手から正体を明かしてくるくらいしかないかなどと思ったところで、知らない女性から声がかかった。


「あの、すみません。ギルドってどっちですか?」


その女性は、銀髪で、黄色い瞳をしていた。

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