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英雄候補の冒険譚23

「…それで、ダーレイを倒した冒険者の情報は入ったのか?」


暗がりの円卓にて、黒外套の声が響く。

それに返答したのは、対面に座した黒外套であった。

たった二人の円卓に、声が響き渡る。


「それらしい冒険者一行の情報は入りましたよ。冒険者四名、ダーレイを倒して一等級に昇格したようです」

「名前は?」

「ウィル…ローズマリー…ヴィンセントにアリス、と」


対面に座した黒外套は、資料らしい紙束を捲りながら返答する。

そこには、ウィルたちの概要と似顔絵を纏めたものが記載されていた。


「魔法使いが三人もいる上に、使えない一人も元帝国騎士、と。かなり優秀かと思われます」

「ダーレイを倒したのなら、魔法もそれなり以上のレベルだろうな…。二等級と油断したなら、不覚もとる、か」


腕組みをしつつ、椅子に背を預ける黒外套。


「…その中に、使途がいる可能性は?」

「不明ですね。二人ほど、出生が不確かなようですが…確証はありません。気になりますか?」

「そうだな…」


暫く、物思いにふける様子を見せる。


「…適当な奴を送りこめ。情報を収集、可能であれば始末しろ。優先事項だ、他は後回しで良い」

「了解しました。適当に派遣しておきます」


不吉な会談は、ただ冷淡に進められていった。




「…?」

「どうしたの、アリス」


歩いている最中、突然アリスが立ち止まって僕に振り返ったので、声をかけてみる。


「…何か、近いうちに起こりそうな気がします」

「…参ったな」


アリスがこういう思わせぶりなことを言い出すのは、予知関連の時だ。

すなわち、僕の身に危険が迫っているという事である。

頬を掻きつつ、問い返す。


「ダーレイの時と比べてどうなの?」

「…まだ、遠い。そういった感覚です」

「てことは、数日中にって訳じゃないか…。わかった、帰ったら皆にも注意を促そう」

「はい、それが良いかと」


そう言って、再び一緒に歩き出す。

アリスは少しして、再び口を開いた。


「万が一の場合は、この身に代えても私がお守りするので安心してください」

「…安心できないなぁ…」


アリスが自分の代わりに犠牲になる、と考えるととても安心することはできない。

そんな意図で零した言葉だったが、アリスにはそういう風には聞こえなかったようで、視線を落としながら返す。


「私では力不足でしょうか」

「そういう意味じゃないよ。ただ、簡単に捨て鉢になるのはやめてね。君も大事な仲間なんだから」

「…」


視線を落としたまま、無言で考え込むアリス。

わかってくれたのかわからないまま、僕らは帰路へと就いた。




そしてその日の夜。

僕はマリアさんと一緒に魔力の操作訓練を行いながら雑談をしていた。


「うん、大分調子が良くなっているよ」

「この前、魔力切れで倒れてしまったんですが、あれは何が原因だったんでしょう」

「余程強力な魔法を発動して、体内の魔力が一気に減少しちゃったんだろうねぇ。それで体に負担がかかっちゃったんだろう」


僕の質問に対して、マリアさんは普段通りの態度ですらすらと答えてくれる。

話すのに意識を割いて乱れかけた流れを、即座に立て直しながら僕はマリアさんとの話を続ける。


「でも、ローランドさんは倒れる様子がなかったんですが…」

「可能性はいくつかあるね。魔力の急激な減少に身体が慣れているか、君よりも無駄なく発動しているから消費が少ないか、魔力量が君よりも多いか。いずれにせよ、それに合わせて訓練しなきゃね」

「なるほど…わかりました」


訓練を終えると、僕はマリアさんにお礼の言葉を言って部屋を出た。


「「あ」」


するとそこで、アリスに鉢合わせることになった。

マリアさんとの訓練は秘密でやっていることなので、何と説明したものか迷ってしまう。

気まずい沈黙の中、先にアリスが口を開く。


「その…お楽しみ中でしたか…?」

「いや、多分君の想像とは違うから」

「男性が深夜に女性の部屋を訪ねるとなると、夜這いなのでは?」

「いや、少なくとも僕は違うから」

「では、マリアの部屋で一体何を?」


ここでしっかり否定しておかないと大分面倒なことになりそうだったので、はっきりと否と言う。

否と言うが、魔法の訓練は秘密なので何をしていたかは口に出せない。


「ちょっと…秘密の特訓を…」

「…そうですか」


なので、ぼかした返答をすることになってしまったが、アリスはわかった、という風に頷きを返してくれた。

僕は、話題を逸らそうと逆にこちらから質問を返した。


「ところで、アリスはこんな時間に何をやっているの?」

「少々、ウィルに用件があったもので探していました。自室にはいなかったので」

「はい、昼の話の続きです」


昼と言うと、予知関連の話だろうか。

また何か変化があったのかと思って、話の続きを視線で促す。


「私は英雄となるウィルの補佐をするために遣わされました。何かあり、私とウィルの二者択一となった場合には遠慮なく私を見捨てて下さい」

「…そっちか。それは無理な相談なんだけど」


眉間に皴を微かに寄せながら返す。


「英雄として世に平穏をもたらせる可能性があるのはウィルです。重要度は比べるまでもないかと」

「僕は、そういうので人の命を天秤にかける事は出来ないかな…」


いざとなったら、考えるよりも身体で動いてしまうだろう。

僕は、出来そうにもない約束をすることはできなかった。

しかしアリスは納得いかないようで、表情は変えないままに食い下がってくる。


「あらかじめ、悪い状況とその対処の想定はしておくべきです」

「皆が生き残るために最善を尽くす、じゃあ駄目なのかな」

「それとこれとは話が別です」


困ったような表情を浮かべて、頬を指で掻く。

どうすれば納得してくれるのか、と思い悩んでいると、アリスはさらに言葉をつづけた。


「…以前のウィルはもっと悲観的でした。自分の命を失わないために、全力を尽くしていたと思います」

「今は…色々と、大切なものが増えたからね。欲張りになってしまったのかもしれない」

「私は、ウィルに生き延びてほしいだけなのです」


そう言われると、僕の返す言葉は一つだ。


「僕も、皆に対して生き延びてほしいと思っているよ」

「…話が平行線です」

「だけど、これが僕の本心だ」

「…」


アリスは俯き気味に視線を切った。

僕はそんなアリスの表情を、案じながら見守り続けた。


「…今日は休みます。ですがどうか、私の言葉を覚えておいてください」

「…わかったよ」


それはつまり、何かあった時に自分は犠牲になると言っているようなもので――。

煮え切らないものを抱え込んだまま、深夜の邂逅は終わった。

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