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英雄候補の冒険譚2

幸運にもと言っていいか、救助活動は迅速に成功した。

不幸にもと言っていいか、少女は意識がなかった。

いや、それ故に暴れられたりすることもなくスムーズに人生初の人命救助に成功したのだが。


「くそっ…!あの短時間で溺れちゃったなんてことはないよな…!?」


焦りはあるが、とにかく自分の知識にある限りの方法で命の無事を確認しよう。

口元に顔を近づけて呼吸を確認する。問題なし。

片手の手首を手に取って脈を確認する。問題なし。

ついでに体温を確認する。問題なし。


「とりあえずは…生きている、よな…」


何も問題ないならなぜ目を覚まさないのか、という疑問は残るがひとまず安堵する。

だが、それもつかの間の事だった。

後方から何かが近づいてくる草音を聞き取って、振り向いた。

そこには、スライムがいた。


スライムは突進で獲物を倒し、のしかかって捕食する魔物である。

成体のスライムならば、人間も捕食対象となる。

今回のスライムは、ざっと見た限りギリギリ自分位なら飲み込めるタイプに見える。


「ついてない…」


スライムの弱点は体内に存在する色濃い部分、コアで、ここに大きなダメージを与えれば倒すことは可能だ。

武器さえあれば油断せず戦えば問題なく討伐可能な魔物であるが、自分に討伐経験はない。

万が一を考えると恐ろしくて戦うという選択肢は取れなかった。


「まぁ、動きはそんなに速くないからこのまま……っ!」


今回も同様に、逃げるという選択肢を取ろうとして、硬直した。

今、自分の背後には倒れた少女一人がいる。

自分がさっさと逃げ出してしまった場合、彼女はどうなるか。

それは、考えるまでもなく明白だろう。

こうなった以上、自分が取れる選択肢は一つだけだった。


「やるしかない、よな…」


短剣と小盾を素早く拾い上げ、スライムと対峙する。

乱れる呼吸を落ち着けようと深呼吸を繰り返しながら、スライムから目を離さない。

こちらから仕掛けるようなつもりはなかった。

運が良ければ、スライムがこちらを無視してこの場を離れてくれる可能性もあったからだ。

しかし。


「やっぱりついてないな…」


スライムは徐々に這いずってこちらへと近づいてくる。

どうやら獲物として認定されてしまったらしい。

仕方なくこちらもじりじりと間合いを詰めていき、戦いに巻き込まないよう少女から距離を離す。

スライムの攻撃方法は突進のみ、それを避けながら短剣でコアを切り裂くのが理想だ。

スライムがぐっと身を縮める、おそらくは突進の予備動作だ。

タイミングは今!


「そこっ…!」


読み通り、スライムの突進に合わせて身をかわす事に成功。

そして、相手のコアめがけて短剣を振るうが。


「あっ…さい…!」


逃げ腰で放った短剣は、スライムの表皮を切り裂くにとどまった。

ダメージはないも同然、従ってスライムは怯むこともなく次の突進を放ってくる。


「くっそ、もう一度…!」


突進に合わせて身をかわそうとするが、今度は一瞬遅れた。

仕方なく小盾で突進を受ける。

だが、スライムの質量は意外と馬鹿にできなかった。

その重さに、軽く盾を持つ腕が痺れる。

しかし、こちらもそんなことで怯んでいる場合ではない。

今度は踏み込みを大きく、勢いをつけてスライムめがけて突きを放つ。

成功だ。

放った一撃はスライムの表皮を貫通し、コアにしっかりと刃が食い込んだ。


「よし、これで…!?」


しかし、まだ浅かった。

スライムは痛みに耐えかねたのかその場で身をよじり跳ね回って大暴れする。

咄嗟に後ろへと飛び退いてそれに巻き込まれることはなかった、が。


「嘘だろう…」


短剣が、抜くことが出来ずスライムに突き刺さったままだった。

採取用にも使っている短剣じゃ刃が短すぎた、やはりけちらずに直剣を買っておくべきだった。

そうすれば、今の一撃で勝負は決まっていただろうに。

後悔先に立たずというが、こうなってしまった以上取れる選択肢は二つだ。

何とかして短剣を回収するか。

切り札を使うか。

剣を失った右手をスライムにかざし、精神を集中する。

体内の力の流れを意識し、それを制御、右手の前に圧縮するイメージを固める。


「ファイアボールッ…!」


そして、炎の玉として具現化し解き放つ。

頭ほどの大きさを持った炎は、そのまますさまじい勢いでスライムへと一直線に着弾。

同時に、大炎上を起こした。

炎がスライムの全身を包み込む。

スライムは先程と同様に身をよじって大暴れするが、やがて動かなくなった。


「はあああぁぁ……」


盛大に溜息を吐き出す。

実戦で成功させられるかどうか不安だったが、成功したようだ。

そう、これが温存しておきたかった最後の切り札、魔法だった。

特殊な道具なしには、体内の力の感覚、魔力の流れというものを感じ取り制御する先天的な才能が必要だが、幸運なことに自分にはあったらしい。

身近に師匠の存在にも恵まれ、昔から訓練だけは欠かさずに行ってきた。

その甲斐はあったらしい。

これで駄目だったなら、いよいよ凄まじいリスクを背負って短剣の回収を試みる必要があった。

そうならずに済んだ安堵と、闘いが終わった安堵感から力が抜けて両膝をついた。

今になって、痺れどころか痛みを感じるようになった左手に手をかざす。


「ヒール…」


暖かな白い光とともに、左手の痛みが治まっていく。

大したことはなかったかもしれないが、また何かしらに襲われる可能性を考えると、不安要素は消しておきたかった。

焼け焦げたスライムの死体から短剣を回収すると、鞘に納めて少女の方へと振り向き、そこでようやく思いついた。


「あ、そうだ。まだヒールを試してなかったな」


もしかすると、効果がある可能性はある。

使用回数に上限はあるし、心配症だったから戦闘でも温存していたが、ここまで来たら使ってしまおう。

そう決めると、倒れている少女の方へと近づいて、少女に手をかざしヒールを唱える。


「あ…れ…?」


その瞬間、突如として僕は意識を失った。

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