英雄候補の冒険譚18
そして、館内のローズマリーの部屋の前。
いつの間にか日は暮れて、館内を照明の灯りが照らしていた。
事の経緯を仲間たちに説明する。
「決闘は明日の正午。それまで存分に身体を休めたまえ――…だってさ」
「お前何やってんの?」
開口一番に呆れた声で返してくるヴィンセント。
そうは言われても、穏便に説得したいとは思っていたのだが、話の流れでそうなってしまったのだ。
アリスはヴィンセントとは逆に感嘆の声をあげる。
「成程。確かに、ウィルが勝てばすべて解決です」
「いや、それはそうなんだが…キツイぜ、実際」
「…ローズマリーとの戦いは見せてもらったけど、同感だよ。けど、やるしかない」
決意を込めて、言葉を継ぐ。
ローランドさんは強力な魔法使いであり、槍の腕前も非常に高いように見受けられた。
遠近両方ともに死角はない。
使える魔法も、あれがすべてではないだろう。
真っ向勝負では勝ちの目は少々薄すぎる。
「…よっぽど作戦を練る必要があるが…どうしたもんかな。俺の知っている限りは話すが」
「この一戦にさえ勝てばいいから、何か手は無いかな…」
ヴィンセントと共に暫し考え込む。
そんな中、アリスが声を発した。
「とりあえずは、ローズマリーに話を通すべきかと。渦中の人ですから」
「…それはそうだよね」
納得しかない意見だったので、道を通してくれる二人の間を通って、一呼吸入れてからローズマリーの部屋の扉をノックする。
「入って良いわよ」
今回はあっさりと返事が返ってきたので、遠慮なく入室させてもらった。
ローズマリーは寝台の上に白い寝間着姿で腰掛けていた。
流し目で僕の姿を認めると、淡く微笑んで見せてくれた。
「あら、ウィルじゃない。どうしたの、こんな夜中に。夜這い?」
「冗談を言う元気はあるようで安心したよ」
「残念」
首を左右に振ると、ローズマリーは茶目っ気たっぷりに肩を竦めた。
僕は、適当に空いている椅子へと腰を下ろす。
ローズマリーは表情を変えないまま、ぼくの事をじっと見つめてきている。
どう話したものかと少々躊躇ったが、単刀直入に話すことにした。
「…君のお父さんと戦うことになった」
「…悪かったわね」
ローズマリーは察した様子で、視線を伏せて謝罪した。
僕は聞き返した。
「何が?」
「父様の決闘、受けちゃったことよ。…そのせいでこんな結果になって、迷惑をかけてしまっているわ」
普段より少し力のない声で、ローズマリーは声を返す。
現在の状況に対する責任を感じてしまっているようだった。
「気にしなくていいよ。もののように扱われれば、怒って当然だ」
ローズマリーは渋面で視線を逸らし、次いで、窓の外の夜空を見上げた。
「父様は、昔からああなのよ。さも、当たり前だろうというようなそぶりで、自分の意思を通す人。それだけ、強い人でもあるのだけれど」
「…」
ローズマリーの語りを僕は黙って神妙に聞いていた。
尊敬と諦観の混じったローズマリーの感情が伝わってくるかのようだった。
ローズマリーは夜空を見上げたまま語り続ける。
「冒険者になったのは、見逃してくれたみたいだけど…潮時ってことなのかしらね。アタシを家に戻そうとしてる。アタシは、あなた達と一緒にいたいと思っているのに」
「一緒だよ。僕だってローズマリーと別れたくない。他の皆だって同じさ」
僕は、僕自身の胸の内をはっきりと明かしながら語る。
ローズマリーが流し目でこちらを見た。
「今の…こんなやり方で、君が心から幸せになれるとは思えない。僕は、戦う。勝って、君に自由を取り戻してみせる」
「ウィル…」
普段とは違う、喜色と憂色が半々といった、儚げな笑みでローズマリーはこちらを見ていた。
「だから、あまり不安そうな顔をしないでほしい。君がそうだと、僕も悲しいから」
「…ウィル、ちょっとこっちに来てくれる」
「?」
言われたままに近づいていくと、ローズマリーがぼくの事をしっかりと抱きしめてきた。
全身が密着してしまい、気恥ずかしさに戸惑っているとローズマリーが再び口を開く。
「あなたに出会えて良かったわ。…勝って頂戴ね」
「…うん」
僕と同じくらいの背の高さだというのに、ローズマリーの身体は何時になく小さく思えた。
僕は、彼女を落ち着かせるように、優しく抱きしめ返した。
「ふふ、本当はね?ちょっとだけ、あなたが父様の言葉通りに子作りに来たのかなって思ったのよ」
「いや、それは、その、…僕には早いかなって」
「照れているあなたも中々可愛いわね」
「揶揄わないでほしいなぁ…」
少しばかり雰囲気が和らいだようで、僕を揶揄うような余裕を見せてくる。
僕は頬を染めながら視線をそらした。
「ま、明日には父様とやり合わなきゃいけないんだし、そんなことしてる場合じゃないわね」
ローズマリーが、名残惜しそうに抱擁を解く。
「さ、作戦会議よ。アリスとヴィンセントにも入ってもらいましょう」
「うん、皆で何とかならないか作戦を考えてみよう」
そして僕らは、アリスとヴィンセントを招き入れてローズマリーの部屋で密談に耽った。




