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英雄候補の冒険譚16

屋敷にある広い庭にて、模擬戦用の武器と枷を付けて父と娘が対峙する。

両者ともに、柔らかなものと、獰猛なものの違いはあれど等しく笑みを浮かべている。


「こうして手合わせするのも何年ぶりか…。勝算はついているのかね?我が娘よ」

「父様こそ、私を昔と同じ小娘と思っていては怪我ではすまないわよ?」


各々、槍と杖を構え合って間を取る。

審判役は僕の時と同じでヴィンセントが担当することになった。


「それでは……始めちまって良いんですね?」

「いいわよ!」

「…無論だとも」

「…では……始めっ!」


ヴィンセントの号令と共に、二人はほぼ同時に動いた。


「ファイアボールッ!」

「マナリフレクション」


ローズマリーの放った火球が、ローランドさんの翳した手先に出現した光の壁に反射される。

ローズマリーは咄嗟に身を躱すも、火球は服をかすめて飛んで行った。


「相変わらず面倒な戦法を取るわね父様…!」

「反射神経は成長しているではないか、ローザ。昔はこれでダウンしていたものだったが」

「そう何度もかかるわけないでしょう!」


杖を構え、再び魔力を編み込んでいくローズマリー。

それに対して、泰然と一歩一歩間合いを詰めていくローランドさん。

そんな中、僕はヴィンセントに確認する。


「ヴィンセント、ローズマリーは勝てるの?」

「正直難しいな…。旦那は魔法も強いが接近戦も強い。真っ向勝負は無理だ」

「そんな…」


視線をローズマリーとローランドさんに戻す。

場面は、再びローズマリーが魔法を発動するところだった。


「アクセラレイション!」

「ほぉ、良い魔法を覚えたな。それで次はどうする」

「こうするわよ!」


涼やかな顔と声で、称賛してみせるローランドさん。

加速した身体で強引に接近戦を行うローズマリー。

杖による滅多打ちを行うが、ローランドさんはそれすらも一つ一つ最低限の動作で斬り払い、受け流し、或いは打ち返す。

その一撃が、ギィン、と鈍い音を立ててローズマリーの攻撃を打ち上げた。

あまりの衝撃に、ローズマリーの身体が一瞬硬直する。

そこに、ローランドさんの中段突きが放たれた。


「…ッ!」

「素の技量に差があればこうして受けることもできる…まぁ、魔法使いの戦い方ではないがね」


ギリギリのところで強引に後ろに飛び退いて攻撃の射程内から離れるローズマリー。

しかし、体力を消耗しているのか息切れが起こり、肩で息を始めていた。


「加速して多く動いた分、体力を消耗したな。今のは失策だったよ」

「うるさいわね…!ライトニングレイ!」

「マナリフレクション」

「ぐぅっ!」


ローズマリーの放った電撃を、先程と同様に反射で返す。

火球よりもはるかに速い電撃でこれでは、先を取って魔法を入れるというのは困難だろう。

反射された雷撃がローズマリー―の片腕に命中し、杖を片手で持たざるを得なくなる。


「愛娘をこれ以上痛めつけるのも心苦しいのだがね。まだやるか?」

「当ッ然ッ!ファイアエレメント!」


まったく衰えない闘志で杖を向け続けるローズマリー。

使えない左腕の代わりにか、炎の人型――精霊を召喚する。


「ふむ、二人掛かりかね?アイスランス」

「さらにこうよ!アクセラレイション!」


炎の精霊のファイアボールに合わせて、ローズマリーがファイアボールにアクセラレイションを発動する。

成程、ダーレイを倒す起点となった僕の技を疑似的に再現している。

しかも、タイミングは精霊を潰そうとするローランドさんの攻撃に合わせてある。

これならば、マナリフレクションを貼る隙は存在しない。

精霊はローランドさんのアイスランスで消滅するが、超高速の火球はローランドさんのマナリフレクションの発動より早く飛来する。

火球が直撃し、爆炎に飲み込まれるローランドさん。


「やった…!?」

「――見事だ。ローザ」


爆炎が引いた後に姿を見せたのは、未だ両足でその場に立ち続けるローランドさんの姿だった。

流石に服や肌は爆炎の影響で傷つき汚れていたが、その表情にかげりは見えない。

ダメージがあるのは確かだったが、まだまだ余裕で継戦可能だ。


「一本取られたな。尤も、一撃で倒れるほど私は軟な男ではないがね」

「~~~ッ!!」


悠々と言葉を継ぐローランドさんに歯噛みするローズマリーだったが、事実は覆しようがない。

そして、槍を構えるローランドさん。


「娘の成長を総身で味わわせてもらったよ。では、こちらの番だ」


その瞬間、魔力の奔流がローランドさんの身体から溢れ出す。

その奔流は槍の先端へと流れ、圧縮されていく。

輝く巨大な紅蓮の炎となって、槍の穂先の形を成した。


「セイクリッドファイアランス」

「ッ!ファイアランスレイン!」


槍の一振りで、その目を焼かんとするほどに輝く紅蓮の槍は放たれた。

ローズマリーも無数の炎の槍で迎え撃つが、まるで輝きに飲まれるように触れた炎は次々と消し去られていく。

そして紅蓮の炎は一向に勢いを落とす様子無くローズマリーへと向かっていって――。




「――そこまでっ!」


審判であるヴィンセントの声と共に、ローズマリーを庇いに入った僕に当たる直前で弧を描いて、ローズマリーを通り過ぎると庭の地面へと着弾して消え去った。

炎の槍が触れた地面だけが、綺麗に抉られている。


「ヴィンセント!私はまだ…!」

「いや、無理だ。ありゃ終わってたよ。なんか手があったか?お嬢」

「…」

「ローズマリー…」


気まずそうな声で、あえて淡々と語るヴィンセントに対し、無言で俯く姿が、静かな肯定だった。

そうしていると、ローランドさんがゆっくりとローズマリーの方へと歩み寄った。


「良いものを見せてもらったよ、ローザ。しかし結果は結果だ。わかっているな?」

「………」


微動だにしないローズマリー。

あれ、そう言えばこの決闘で掛けていたものって――。

そう考えている最中に、ローランドさんは宣言した。


「そちらのウィル君と子供を作りたまえ」

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