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英雄候補の冒険譚15

そして翌日。


「アリス、予知の調子はどう?」

「今のところ大きな変化はありません…。直ぐに何かが起こるという事はないかと」

「そっか、何かあったら知らせてね」


ある晴れたとても天気の良い日に、僕らはチームメンバーでマリアさんの宿の一階に集まって雑談をしていた。


「ところで、最近何か事件は起こっている?」

「特にこれといってはないわね…。この辺りは平和なものよ」

「帝国軍と魔王軍がぶつかっている地域もあるみたいだがな。今のところ戦況は膠着しているようだ」

「魔王軍か…」


ヴィンセントから新聞を渡される。

それによると、帝国軍と魔王軍の小競り合いが現在も続いており、前線は一進一退の攻防を繰り返しているとのことだった。

渋面で思い返すのは、先日討ち取った魔将ダーレイの事だ。

魔王軍の幹部は総勢何名いるかも知られていない、謎の多い集団だ。

仮に出会ったとしたら、並みの冒険者では歯が立たない相手だろう。

それとどこで出くわすかもわからないというのは、大きな不安材料であった。


「…もっと強くならないとね」


決意、情感のこもった声で零す。

周りの皆も、静かな首肯で返してくれた。

と、少し真剣な雰囲気になってしまったので話を逸らす。


「あー…そうだ、とりあえず今日はどうしようか」

「ウィル、時間があるのならちょっといいかしら」

「どうしたの、ローズマリー」

「えぇ、ちょっと婚約してほしいのだけど」

「婚約か………婚約!?」

「おや」

「ほお」

「へぇ」


アリスもヴィンセントもマリアさんも、色々と意外そうな表情を浮かべていた。

だから、僕も思わず瞠目してしまったことは、誰にも責められないと思う。




「婚約ってどういうことなのさ」

「実家から、お見合いの催促が来るのよ。いい加減鬱陶しいから黙らせたいわけ」


ローズマリーが、実家からのものらしい手紙をテーブルの上へと放る。


「ああ、それで僕に相手役を…」

「アタシは別に真実にしてしまっても構わないわよ」

「僕は構うんだ」


残念、などと言いながらローズマリーが頬を染めつつ肩を竦めて視線を逸らす。

冗談を自分で言っていて恥ずかしくなってどうするのだろう。

手紙をテーブルの上から手に取り、目を通してみる。

そこには、要約すると以下の事が書かれていた。


一に、そろそろ冒険者をやめて戻ってくること。

二に、お見合い相手をいくつか見繕ったから、希望を返信すること。


「お嬢の相手となりゃあ、それなりのを旦那が選んでいると思うが」

「見ず知らずの相手といきなりなんて御免被るわ。相手はアタシが自分で選ぶ」

「お嬢らしいや」


ヴィンセントが軽く一笑して流した。

扱いが軽い当たり、普段からそう言った話をしてきているのだろうか。


「それに、このチームをやめるつもりも毛頭無いわ。お断り一択よ」

「確かに、ローズマリーと別れたくありません」

「あらアリス、ありがとう」


アリスはローズマリーに頭を撫でられている。

悪い気はしていないようだ。

僕もローズマリーは折角の信頼できるチームメンバーだし、離れたいとも思っていない。

あまり自信はないが、意を決して協力をすることにした。


「わかった、君の相手役を務めるよ。で、何をしたらいい?」

「呼ばれているから実家に一度帰るわ。それについてきて欲しいの」

「俺とアリスもか?」

「勿論。チームだしね。ヴィンセントは昔からの付き合いだけど。アリスも紹介するわ」


そういう訳で、皆でローズマリーの実家に向かうことになった。




ローズマリーの実家は意外と大きかった。

そう、ギルド支部と比べても見劣りしない程度には敷地がある。

全然知らなかったが、ヴィンセントがお嬢呼ばわりしているあたり、相当良い所の出身らしい。


「マリアの宿屋の数倍はありますね」

「こらアリス、そういうこと口にしない。…けど確かに大きいね」

「家は代々魔法使いで貴族なの。だからちょっとばかりお金を持ってるだけよ」

「ちょっとかなぁ…?って、貴族だったの!?」

「ああ、お嬢は一応な」

「一応って何よ、一応って」


屋敷の門が開かれるとそのまま奥へと進んでいき、玄関へと辿り着いた。


「ウィル、上手くやって頂戴ね。期待しているわよ」

「…やれるだけのことはやってみるよ」


そして重厚な音と共に、玄関の扉が開かれた。




「お帰り、ローザ」

「ただいま、父様」

「手紙は読んでくれたのだろう?屋敷に戻る気と、お気に召す相手はいたかね?」

「ええ、冒険者をやめる気はないし、気に入っている相手も連れてきてあげたわよ」

「ほぅ…」


場所は館主の部屋。すなわち、ローズマリーの父の部屋で僕らは面会した。

ローズマリーの父は、名前をローランドというらしい。

ローランドさんは悠然と自らの席に腰かけ、集まった面々を見て、最後に改めて僕の方へと視線を注いだ。

ローズマリーと同じ赤い髪と赤い瞳で、悪意はないが、品定めするのを隠そうともしない目だった。


「そちらの少年かね。年下が好みだったか」

「その辺りは関係ないわ。アタシは、ウィルだから選んだのよ」

「ウィル……ああ、お前が大分昔、手紙に書いて送ってきた大層お気に…」

「それ以上は語る必要はないわ」


喋りかけたローランドさんの言葉を制して、急にローズマリーが一旦話を打ち切る。

一体どんな内容を書かれていたのかは気になるが、今の問題はそこではない。

ヴィンセントは慣れた様子だし、アリスは自然体だったので、僕一人だけが緊張で固まった姿勢で様子を見守る。


「とにかく、私は今の生活に満足しているし問題はないの。口出ししないでもらえる?」

「家としては、大いに問題だ。お前は我が家の一人娘。跡継ぎの一人も用意してもらわねば困る」

「またその話…」

「ウィル…と言ったな。聞く限りでは優秀な人間だ。ローザの相手としても悪くない。身元が不確かな点を除けばな…」


うんざりした顔で視線を逸らすローズマリー。

品定め、或いはもっと内面まで見透かそうとするかのようなローランドさんの瞳が、僕を見据えてくる。


「少々覇気が足りないようにも見えるが、そこはローザに似るかもしれんしな。妥協しても良い」

「妥協ですってぇ…」


涼しい風で語る父に対し、ローズマリーのこめかみには青筋がたち、身体が震えている。

誰がどう見ても爆発寸前だ。


「ああ、子を作れローザ。そうすれば、後は自由にしても構わんよ。その間の面倒は全てこちらでみる」

「さっきから好き勝手ばかり言ってくれるわね、父様…!」

「それはそちらも同じことだろう。好いた相手と結ばれるのを認める、度量のある父と思ってほしいものだがね」


ひきつった笑顔のローズマリーに対し、ローランドさんは柔らかな笑みを浮かべたまま語る。

おかしいな、連れてこられたのに何だか完全に置いてきぼりで話が進んでいるぞ――?

そう思っている間に、さらに場は動き始めた。


「要は!子供を人身御供にしろって言っているようなものじゃない!アタシが従うとでも!?」

「逆らうかね、ローザ?ならば決闘で決めても構わんよ」

「上等じゃないの…!」


売り言葉に買い言葉。即断即決で物事は進んでいった。

僕は完全に置いて行かれたままに。

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