英雄候補の冒険譚14
「…ダーレイが死んだ?」
世界の某所、円卓の設置された間にて、内密に会談を行う存在達があった。
いずれも同様の黒外套を身に纏い、その容貌は伺い知ることはできない。
「あいつは確か…どこか、辺境で勢力増強を担当していたはずだろう。何があった?」
「それがどうも、冒険者と出くわして交戦…そのままおっ死んだようだ」
呆れたように肩を竦める存在が一人。
それに続いて、次々と発言が飛び交う。
「いくらあいつでも下級の冒険者に負けるか?」
「功を焦っただけではないか?不満は普段から口にしていただろう」
「しかし、一等級以上の冒険者、或いは帝国軍が動いたという情報もないが…」
「それ以上の情報は?ダーレイを倒した冒険者の情報は入っていないのか」
各々が好き勝手に発言する。
会談の場はざわついていたが、そんな中、一人の発言が響いた。
「――…静まれ、諸君」
円卓の一席から発せられた声で、波が引くように静寂を取り戻す。
「ダーレイの件に関しては調査を進める。各自、通常通りに各々の役割を進めるように。以上だ」
それ以上の意見は無いようで、解散となった。一人、また一人と円卓の席を後にしていく。
一人を除き全員が出て行った円卓で、その残った存在は呟いた。
「…魔将が一つ欠けるとは。そんなはずはなかったというのに。運命が変わったか…?」
「…本当にこれで良いの?」
「はい、これが一番いいと思います」
場所は武具屋。
僕はアリスと共に、装備の新調のために得物を見繕っていた。
その中でアリスが選んだのが、店で一番重量のある金棒だ。
「いや…嬢ちゃん、持てるのか?」
「今の私ならば問題ありません。この通りです」
「おお…すげぇや」
店主の大男ジカさんは大いに驚いていた。
というか、僕も結構驚いていた。
僕よりも細っこく、小さい体だというのに、悠然と金棒を持ち上げて見せたのだから。
「人は見かけによらねぇな…。あ、坊。代金はお前さんの装備と合わせて…」
「あ、はい。じゃあこれで…」
会計を済ませて、武具屋を出た。
結局僕とアリスの防具は、似たような軽鎧になった。
余り動きを阻害せず、軽快に動けることを重視した結果だ。
ローズマリーは魔法使いとしての機能性を重視して、身軽で済む赤いマントで済ませており、ヴィンセントは愛用の鎧があるのでこのままでいいとのことだった。
そういう訳で今現在二人で出かけている。
「何というか、アリスは凄いよね。近接も回復も一人でやろうとしているし」
「ウィルの方が凄いかと。万能性で言えば、チームで一番だと思います」
「器用貧乏、とは言わない?」
「器用万能だと思います」
近接戦闘ではヴィンセントに劣るし、魔法もローズマリーは自分以上、単純なパワーではアリスに劣ると考えると、皆の凄さの方が目立つ気がするのだが。
誉め言葉は素直に受け取っておこう。
「帰りはどうする?何か欲しいものがあれば、買って帰ろうと思うけど」
「肉です。肉を買いましょう。ウィルももっと身体を作るために肉を食べるべきです」
「う、うん、そうだね」
食事に対する熱意に若干気圧されながら、宿屋への帰路に就くのであった。
「あ、ウィル。お帰りなさい」
「ただいま、ローズマリー」
宿屋へ着くと、先に帰っていたらしいローズマリーが出迎えてくれた。
ヴィンセントは自室で休んでいるようだ。
「アリスと装備を新調したのね。…うん、良い感じじゃない?」
「前に出る機会が思ったよりも多そうだからね。万一に備えて良い装備に変えてきたよ」
実際に装備してみると、軽さと防御力を両立しているようで、以前の装備と変わらずに動ける。
やはり値段に応じた分だけ質というものは上がるものなのだと実感した。
ローズマリーは髪をかき上げながら返事を続ける。
「そこらの雑魚ならあなたたちが傷つく前に終わらせてあげるわよ」
「うん、そこは信頼しているよ。…けど、また何かあるかもしれないからね」
「魔将みたいなやつの事ね」
突き飛ばされた記憶が蘇ったのか、少しばかり苦い顔をローズマリーが浮かべる。
しかし、すぐに普段の得意げな顔に戻った。
「大丈夫よ、アタシも魔法にさらに磨きをかけたし。また消し炭にしてやるわ」
「頼もしい限りだよ」
こうした反応を見ていると、とても心強い。
いざという時は、僕もしっかり支えてあげなければと改めて感じる。
「さぁさぁ、夕飯の時間だよ。早く準備をしてきなさい」
「わかりました、マリアさん」
マリアさんの声がかかって、僕たちは買ってきた武器や防具を片付けに部屋へと戻っていった。
そして夕飯が終わった後の夜、ぼくはこっそりとマリアさんの部屋へお邪魔していた。
「マリアさん、今日もよろしくお願いします」
「はいはーい、任せておきなさい」
マリアさんがベッドに足を組んで腰掛ける。
その前で、僕は自然体で立ちながら瞳を閉じて、体内の魔力を循環させる訓練を行っていた。
昔からやっている訓練法で、物心ついてからは欠かしたことは殆どない。
体内の心臓あたりを中心に、右腕、左腕、右足、左足、頭といった順番で、力の流れを制御する。
少しずつ、それを可能な限り正確かつ高速化していき、魔法の発動までの時間を短くするのだ。
近年では努力の甲斐もあって、無詠唱や同時詠唱と言った技術も身につけられた。
「うーん…ほれぼれするね。いい出来だ」
うっとりとした様子で、マリアさんが採点を行ってくれる。
たまにマリアさんが指先でつつくなど妨害をするのだが、それでも流れを維持し続ける。
多少の妨害があっても維持できなければ、実践では役に立たないからだ。
「はい、もういいよ」
しばらくすると、そう訓練の終了を告げられた。
魔力の循環を止めて、お礼の言葉を言う。
「ありがとうございました」
「基礎はしっかり身についたようだね。後は知識さ。色々な魔法を覚えて、手札を増やすといい」
「わかりました、探してみます」
頷いて、マリアさんの部屋を後にしようとする。
その前にマリアさんから一つ質問があった。
「ウィル君。君は魔法についてどう思う?」
「どうって…便利な道具として、重宝してますけど」
柔らかな笑みを浮かべて、マリアさんは頷いた。
「そうだね、それくらいで良いと思うよ。特別じゃない、技術の一種さ。…呼び止めて悪かったね、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
頭を下げて、僕はマリアさんの部屋を出て自室へと戻っていった。




