英雄候補の冒険譚13
「魔将討伐という今回の一件を踏まえて、ウィルさん達は一等級に認定されました。おめでとうございます」
ダーレイ討伐後、ギルドに報告に戻った僕たちは詳細の調査の後、受付さんからそう告げられた。
証拠になりそうなものはダーレイの持っていた槍しかなかったのだが、それが希少なアイテムだったらしく、本物だろうと認められたらしい。
また、ダーレイが討伐されたことによって抑えが効かなくなったのか、各地で魔物の確認が相次いでいるようだが、そちらは各地の冒険者が対応しているという。
「一等級か…なんだか、とんとん拍子に上がっちゃったなぁ…」
「まぁ、アタシたちの実力なら当然と言えば当然よ」
「お嬢らしい発言だな」
「ウィルならば順当な結果です」
「こっちもか…」
とりあえず、めでたいことは確かだったので、マリアさんの宿でまた祝賀会を開いていた。
マリアさん曰く、早すぎない?とのことだったが、正直僕もそう思う。
「ウィル君たちも一流の冒険者になっちゃったねぇ。いやほんと、成長は早いものだね」
マリアさんが飲み物や食べ物を給仕しながら、楽しげに笑う。
「でも何より、無事に帰ってきてくれて良かったよ。魔将に会うなんて、とんだ災難だったね」
「本当ですよ…ちょっと見通しが甘かったかな…」
「あんなのを予測しろってのも無茶な話だと思うわよ?けど、そんな相手でも勝っちゃったのがアタシたちなんだけど!」
ローズマリーは早速飲んで景気良くなってしまっている。
その辺りはそれぞれ変わらないようで、激戦を潜り抜けた達成感からか解放的になっているようだった。
アリスはむしゃむしゃと料理を平らげていっているし、ヴィンセントも少し普段より健啖さが増している。
「ウィルぅー、アタシをもっと褒め称えなさぁーい。魔将に止めくれてやったのはアタシなんだからー」
「ああうん、助かったよローズマリー。ありがとうね」
「あはははは!そう、それでいいのよ!…ぅ…ん…」
機嫌よく飲んで、ローズマリーは力無く机に突っ伏した。
寝息を立てて心地良さそうに微睡んでいる。
「…ちょっと外の空気にあたってきますね」
「はいはーい。いってらっしゃい」
マリアさんに見送られながら、僕は静かに宿の外へ出た。
「はぁ…今回もみんな無事に帰れてよかったな…」
夜の涼しげな風に吹かれながら、僕は一人溜息を吐き出す。
アリスの話では戦いに巻き込まれる運命だという話だったが、まさかあんな強敵が現れるとは思わなかった。
最終的には、こちらの反撃から一気呵成に畳みかけて勝利をもぎ取る事が出来たが、何かが足りなければこちらの命はなかっただろう。
身震いするような思いと、それでも生き残れたことに対する安堵感から僕は大きく息を吐き出して呼吸を整えた。
「ウィル、こちらでしたか」
「アリスか。どうしたの、君も涼みに?」
「はい、そんなところです」
暫くすると、アリスも表へと出てきた。
街の夜は人通りもまばらで、僕たちは落ち着いて話をすることができた。
「…今回は、無事戦いを越えることが出来て何よりでした。流石は英雄となりえる運命を背負ったお方です」
「英雄か…未だにそんな実感はないんだけどね。それはともかく、誰も欠けることがなく乗り切れてよかったよ」
「はい、きっとこれからも災いを乗り越えていくことができるでしょう」
「………これからも?」
「はい、直近の未来は安定しましたがこの先また何かしらの大きな戦いに巻き込まれることは確実かと」
「………そっかあ。そうなんだ…」
あれで終わりではないという事実に少々気落ちするものの、そこまで落ち込むこともなかった。
今は、未来の戦いに備えなければならないという気持ちの方が勝っている。
魔将ダーレイは想定もしていない強敵だった。
これから先、僕の人生でまた似たような強敵を相手取る必要があるというのならまだまだ強くならなくてはならない。
それは、僕が以前想定していたような平穏な人生ではないかもしれないが。
「やるしかない、か。…アリス、君が来てくれて良かったよ」
「そうでしょうか。私は…未だ、あまりお役に立てていませんが」
「そんなことはないよ」
アリスの予知がなければ、こうやって戦いに備えることもなく、ローズマリーたちとも仲間になる事のなく、命を失っていた可能性は大いに高い。
こうして、皆という仲間を作って戦いを共に乗り越えることができたのは、きっかけはアリスのお陰だ。
「魔将との戦いだって、君が一撃入れてくれたおかげで勝てたようなものじゃないか。謙遜しなくていいよ」
「私も日々鍛えておりますので…今ならどのような武器だって振り回して見せます」
「ああ、うん…凄いよね、来たばかりの頃はそんなでもなかったと思うんだけど」
「大分身体の扱いにも慣れてきました。今なら以前持てなかった武器も持てるようになっているでしょう。必ずやお役に立って見せます」
「割と戦士方面の成長が大きいんだね…」
アリスの事には謎が多いままだ。
マリアさんの話なら、使途と呼ばれるような存在であることは確かだが、それ以上の事は分かっていない。
色々と気になることはあるのだが、それはこれからの生活の中でおいおい聞いていこう。
とにかく今は、無事勝ち取ることのできた平穏を大いに満喫しようと思う。
僕はアリスに笑いかけた。
「さて、それじゃあ皆のところに戻ろうか」
「はい、そうしましょうウィル」
そして扉を開いて宿に戻ると、目を覚ましたローズマリーが再び大いに騒いでいた。
「あ!ウィル、どこに行っていたのかしら。さぁ、アタシの隣に座って!アタシを甘やかしなさーい!」
「お嬢…その辺にしといたほうが…いや、もう遅いか」
「さぁウィル、どんどんお食べ下さい。身体は資本です、どんどん育てましょう」
大騒ぎするローズマリーに、それを宥めるヴィンセント、そして自分ももりもりと食べながら食事を勧めてくるアリスに囲まれながら僕はこれまでにない充足感を感じながら思った。
ああ、幸せだなぁ、と。
心から、そう思うことができたのだ。
一章完です。
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