英雄候補の冒険譚12
「魔王軍幹部…」
その異様な出で立ちに、チームの一同に緊張が走る。
見る限り、黒外套の姿は人間一人と言った風貌だった。
しかし、明らかに他の魔物たちとは違う雰囲気を放っていた。
「さて…無能な部下共を処分してくれた礼はしなければならんな」
そう言うと、ダーレイは天に左手を翳す。
瞬間、魔法陣が形成され魔力が溢れ出した。
「甦れ。死者の軍勢よ!レイズアンデッド!」
魔力が周囲一帯に球状に広がり、倒れ伏したオークたちを包んでいく。
その直後、死んだはずのオークたちがのろのろと立ち上がり始めた。
その目に生気はなく、虚ろではあったが確かに活動している。
「アンデッドの生成か…!面倒なことを!」
「こちらの方が幾分素直に扱えるな…。かかれ」
舌打ちし、向かってくるオークの屍たちに立ち向かうヴィンセント。
「ファイアボール!」
それを、さらにローズマリーが援護する。
蘇生したとはいえ、オークだけならば敵としての扱いに差はない、十分に倒しきれる。
そう、オークだけならば。
「ほう、それなりの手練れではあるようだ。私が知らんという事は、一等級よりは下のはずだが…まぁ良い、相手をしてやろう」
「来る!気を付けて!」
槍を構えたダーレイが、その体に魔力を漲らせる。
何かされる前にと、こちらも魔法攻撃を放った。
「ファイアランス!」
「アクセラレイション」
射出された炎の槍を、ダーレイが余裕をもって紙一重で躱す。
次の瞬間、ダーレイは一瞬で間合いを詰め、ヴィンセントの前に到達していた。
「おおおぉぉっ!?」
「鈍い」
打ち合いは圧倒的にダーレイが速かった。
ヴィンセントが一の攻撃を行う間に、十近い数の攻撃を放ってくる。
ヴィンセントが大楯での防御に集中していなければ、全身鎧を身に着けていなければすぐさま勝敗は決していただろう。
「なるほど、良い装備を身に着けている…。頑丈だな、面倒だ」
「そりゃどう…お嬢、避けろ!」
ヴィンセントの攻撃が空を斬る。
ダーレイはすでにローズマリーの傍へと移動していた。
即座に突きを放つダーレイ、咄嗟に杖で受けるローズマリーだったが、その身をそのまま吹き飛ばされた。
「痛っ…!」
「くそがっ!」
「ファイアランス!」
「ヒール!」
追撃を僕の放った攻撃魔法で防ぎ、アリスは回復魔法を、ヴィンセントは即座にローズマリーのカバーに入る。
「連携も悪くない…オーク共程度では勝てんわけだ」
一団となった僕らのチームと、魔将ダーレイ率いる魔物の集団が再び対峙する。
数は同等だが、戦況は劣勢だ。
なによりも魔将が強すぎる、彼一人で恐らくこちらの四人を上回る実力者だろう。
アクセラレイションの効果が持続している間は加速による攻防の強化が凄まじく、手に負えない。
「ローズマリー、まだいける?」
「問題、ない、わ!」
アリスによるヒールを受けながら、気丈な返事を返してくれる。
「ローズマリーはまずオークを頼む。魔将は…僕とヴィンセントで足止めする。アリスは援護お願い!」
「任せて!」
「あいよ」
「了解です」
手短に作戦を伝えると、今度はこちらから仕掛ける。
「さて…どう出る?」
ダーレイは未だに余裕をもって、こちらの出方を伺ってくる。
僕たちは体中の魔力を回転させ、一斉に仕掛けた。
「ファイアランスレイン!」
「アクセラレイション」
「アクセラレイション!」
ローズマリーの放った大量の炎の槍の雨が、敵勢にまとめて降り注ぐ。
加速したダーレイはその大半を躱し、さらに一部を切り払って打ち消しながら突進してくる。
それに合わせて、僕はアクセラレイションをヴィンセントにかけて対抗する。
「ほう!使えるではないか!」
「これならそうそう遅れは取らねぇよ!」
そこからはダーレイとヴィンセントによる高速の斬り合いが始まった。
もはや僕らでは目で追うのも難しいほどであったが、ほぼ同等の速度を相手にしてはダーレイも他にまでは手が回らない。
この隙にさらなる魔法の準備を行う。
魔力を両腕に循環させ、異なる二つの魔法を同時に構築していく。
無詠唱かつ同時詠唱は実戦では初めてだったが、失敗は許されない。
タイミングは一瞬、アクセラレイションの効果が切れる瞬間――。
「ちっ…しぶといな」
ヴィンセントの粘りに業を煮やして、ダーレイは一手、距離を取った。
それは、アクセラレイションを再度発動するための明確な隙だった。
「―――!」
刹那、僕の無詠唱同時詠唱魔法が発動する。
ファイアランスに対し、アクセラレイションを重ねがけした超高速の炎の槍だ。
発動から着弾までは刹那すらないだろう。
事実、ダーレイが反応したのは炎の槍が胴体に直撃した直後であった。
「は…?」
呆気にとられたダーレイ、直後魔法効果によって全身が炎上する。
「ぬ、お、おおお、ぉぉっ!?」
炎に苦しみもがくダーレイだったが、まだ仕留めきれていない。
槍を振り回し、ヴィンセントの追撃を弾き返すと、高い魔法耐性があるのか徐々に延焼が治まっていく。
「ふざけるなよ…!こんなところで、こんなもので、この私が…!!」
「っ…!!」
ダーレイは怒りと共に突進し、僕に向かって槍を突き出した。
それをギリギリのところで回避に、片腕を傷つけられたが、命には支障はない。
しかし、先程と同じ手はもう使えないだろう。
そこでフォローに入ったのがアリスだった。
「させません…!」
槍を突き出しきったダーレイに合わせて、渾身のフルスイングをダーレイに叩き込む。
「は…!?」
ヒーラーの一撃などたかが知れていると思っていたのか、ダーレイは再び驚愕に包まれながらその身を弾き飛ばされた。
地面を二、三回バウンドしながら転がされ、しかしそれでも身を起こそうとする。
「こ…の…!何だ、何なのだ貴様らはッ…!!!」
そう吐き出すダーレイが見上げたのは、爛々と輝く赤い魔法陣だった。
「先程の借りを返させてもらうとするわ…ファイアランスレイン!!」
オークたちを仕留めきったローズマリーが、すでにダーレイに対して魔法を発動していた。
降り注ぐ炎の槍の雨、それがダーレイ一体に集中砲火を浴びせる。
「馬鹿な!この私が、一等級ですらない下級冒険者共などにいいぃ……!!!」
断末魔の叫びと共に、ダーレイの姿は燃え盛る炎に包まれて消えていった。




