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英雄候補の冒険譚11

深夜。真っ暗闇の中に赤く輝く瞳を持った集団がうろついていた。

集団の先頭に立つのは、これまた闇に溶け込むような黒外套を身に纏った存在だった。


「ちっ…この辺りで集められるのはこんな所か」


忌々し気に、舌打ちを零す。

闇の中にひしめいているのは、魔物の軍勢だ。その数は十や二十ではきかない。


「押すことと引くことしか理解できんような低能どもだが、やむを得んな。功績さえ挙げれば、こんな片田舎ともおさらばだ」


黒外套を翻し、先頭を行く存在は狂気の宿った声とともに後ろに続く軍勢に振り返った。


「まだ待機だ…。まだ戦力が足りん、もうしばらく堪えろよ」


唸り声をあげる魔物の軍勢。

だが、その場で逆らうものは一匹として存在しない。

彼は、魔王軍の幹部――魔将と呼ばれる存在である。




「ここ暫く平和ねー。間引きの依頼も減ってるし」

「そうだね…っと!」


木剣でヴィンセントと打ち合いながら、ローズマリーに返事をする。

メンバーが四人になってから、空いた時間で剣術指南をしてもらっていた。


「ウィルー、剣より魔法の訓練したらどうかしら。良かったら、アタシが教えてあげるけど…」

「ごめん、ちょっと後で!」

「お嬢ー。ウィルの気、散らさんでくれ。はい、詰んだ」

「あっ…」


木剣を弾き飛ばされ、そのまま流れるように剣先を突き付けられる。

流石に近接専門の騎士だけあって、魔法なしでは未だに一本取る事すらできていない。


「参ったな…どうにも勝てる気がしない」

「簡単に超えられたら立つ瀬がない。体格も技量も経験も違うんだから当然の結果だ。もうちょい基礎体力つけとけ」


ヴィンセントが剣をしまう、本日の訓練はこれで終了だ。


「よし、それじゃあギルドに行こう」




ギルドの掲示板に張り出された依頼を各自で確認する。

これは、というものがあれば僕に見せてもらうことになっているのだが――。


「ウィル、これはどうかしら」

「アイスドラゴンの撃退依頼…却下、危険が大きすぎる。難易度的に一等級以上推奨でしょ…」

「これとかどうだ」

「村の近くで確認されたオークの集団の討伐依頼…保留で」

「…こちらはいかがでしょう」

「街道沿いの魔物たちの現状調査依頼…うーん…」


ここでも、結構皆の個性が出てくる。

ローズマリーは高難易度依頼を選びやすい。ただ、選ばれなくても機嫌を損ねたりはしない。

ヴィンセントは中難易度依頼をよく選ぶ。リスクも報酬もそれなりだ。

アリスは特にこれという傾向はない。とりあえず、目に付いたものを選んでいるといった感じだ。


「じゃあ…今回はオーク討伐依頼という事で」


集団の大きさが不明だが、そこは現地での情報収集を行いつつ対応を決めることにしよう。

僕らは早速依頼に記載された村へと赴いた。


――そこで、これまでに経験したことのない恐ろしい存在に出会うとも知らずに。




「いないわね…」

「いないね…」


影も形も、オークたちの姿は見当たらなかった。

村に再度聞き込みをしたところ、確かに村の者が見たというのだが、ここ数日は姿が見えなくなったのだという。


「別の場所に移動したか…?」

「どちらにせよ、討伐対象がいないんじゃ依頼は未達成という事になるね…」


仕方がないのでギルドに報告に戻ろうとしたところ、アリスが僕に口を開いた。


「どうにも…嫌な予感がします」

「…予知の類?」

「はい、この村に来た時からです」


頷きを返される。

それはつまり、この村にこのまま留まっていては危険だという事だ。

しかし、何の確証もなしに村の人々全員を動かすことは不可能だろう。

僕はアリスの言葉を信じると、チームでの相談に移った。


「成程…詳細は分からないけど、なにかある、ということね」

「で、どうするんだリーダー」

「…警戒して、この村で一晩備えてみよう。数にもよるけど、オークだけなら何とかなると思う」

「村の人たちを見捨てるわけにもいかないものね。わかったわ」

「………」


アリスは無言だった。

自身の言葉で、チーム全体を危険に巻き込むかもしれないことに責任を感じているのだろうか。

そうだとしても、気にすることはない。

最後に決断するのは、チームの皆と、なにより僕自身の判断なのだから。




その日の深夜。

村の住民が皆寝静まった時間帯、幾つもの影が村内へと侵入した。

そして、そのうちの一つが何かを民家の一つに向かって振り上げようとしたとき――。


「ファイアボールッ!」


飛来した火球が影の一つを焼き払った。

その炎の灯りに照らされて浮かび上がった影の姿は、オークであった。




「よし、一つ!」

「予知って当たるものなのねぇ…そうれ、っと!」


放った魔法が、オークの一匹を焼き尽くす。

続いて、ローズマリーの放つ火球がさらに一匹を仕留めていく。

その時点で残党の数匹が二人に気付いて雄たけびを上げながら突進してくるが、それを大剣と大楯を装備したヴィンセントが切り伏せていく。


「見たところ装備は棍棒程度…大した敵じゃあないな。お嬢、アリス、前には出るなよ!」

「わかってる!」

「承知しました」


手際よく交互に放たれる火球が一つ、また一つと次々に敵の数を減らしていく。

一匹や二匹程度では同時に襲い掛かろうとしてもヴィンセントの敵ではなかった。

瞬く間にオークたちは全滅の手前にまで陥り、最後の一匹が逃げ出そうとしたところ――直後、僕たち以外の手によって最後の一匹の命が絶たれた。

背中から、長大な槍によって心臓を一撃で貫かれて。


「!何だ…!?」


その存在に気付いたヴィンセントが警戒の姿勢を取る。

残りのメンバー全員も、即座にそちらへと緊迫した様子で注意を注いだ。


「まったく……待て、の一つも出来んレベルの無能共だとは思わなかったぞ…」


底冷えするような声とともに槍がオークの胸から抜かれ、鮮血が迸って倒れた。

そこに、黒外套に身を纏った人間のような存在がいた。

フードの下の表情は、夜の闇の中だという事を差し引いても真っ黒で何も見えない。

黒外套は顔を動かすと、僕たち全員を一通り眺めた。


「…数は四。冒険者共か。この村には常駐していなかったはずだが、私も運の悪いことだ」

「何者だ…!?」


先頭に立っているヴィンセントが武器を構えながら、謎の存在に声を放つ。

黒外套は、鼻を鳴らすと悠然と答えを返してきた。


「私は魔将ダーレイ。貴様らが言うところの魔王軍幹部だ」

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