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英雄候補の冒険譚10

そうして、僕ら四人での依頼の日々が始まった。


「ウィル、もっと魔法を使いなさいよ」

「僕、切り札は温存する主義なんだけど…」

「アタシがいるからあなたが魔力切れになったら交代してあげるわ。今の内に実戦練習を積んでおきなさい」

「わかった、そうさせてもらうよ」


時には、ローズマリーの提案で実戦形式での魔法の訓練を行ったり。


「…アリスって意外と怪力だったんだね」

「…アタシも驚いたけど…ウィルは知らなかったの?」

「回復魔法が使えるって聞いて、後衛してもらってたから…」

「こりゃ凄いな。スライムが弾け飛んでる」

「お褒め頂き光栄です」


アリスが近接戦での訓練で意外な才能を発揮したり。


「ヴィンセントさんって帝国の騎士だったんですか…」

「退職して今はお嬢のお守りやってるけどな。あと、呼び捨てタメ口で良いぜ。」

「アタシに接近戦を仕込んだのもヴィンセントよ。最低限だけどね!」

「意外と器用なんだよなぁ、お嬢…」


ヴィンセントの意外な過去を聞くことになったりと、色々あった。

そうこうしているうちに、大分チームの雰囲気や連携も良くなってきたと思う。

とりあえずは、様子見という事でローズマリーとヴィンセントが二人で受けていた依頼をやる事になったのだが。


「こりゃ、俺たちやる事ねぇな…」

「同感です…」

「ファイアボール!ファイアランス!ファイアボール!まだまだ行くわ!」

「ファイアボール!…撃ちすぎじゃない?」

「ちょっとテンション上がってるのは認めるわ。でも、これくらい余裕よ!」


オークの群れは、あっという間に消し炭にされていった。

それなり以上に強力な魔法使いが二人もいると敵がこちらによって来る前に戦いが終わってしまう。

強力な魔法耐性を持った敵はこの辺りには存在しないので、尚の事だ。

そんな感じで依頼をこなしていたら、いつの間にかアリスも二等級に昇格していた。

それを記念して、いつも通りマリアさんの宿で祝賀会を開く。


「いやー、早いものだねぇ。ま、ウィル君が上がるのが遅すぎただけでもあるけれど」

「本当にね!ウィルならアタシと同時期には二等級に上がれてたはずよ」

「まぁ、それはそうなんですけど…」


マリアさんとローズマリーの言葉に苦笑を浮かべながら返す。

実際問題、ここ数日依頼をこなした感じでは仕事を選べば二等級でも十分安全にやって行けただろうと思う。

ちょっと過剰に安全策を取っていたかな、と内心反省しつつ水を飲んだ。


「この度は私のためにこのような席を開いていただき、ありがとうございます」

「気にすんな。祝い事は多い方が良いに決まってるからな」


かしこまってお礼を言うアリスに、遠慮なく酒を飲むヴィンセント。

一応、この国の法律上僕の年齢からは飲酒が許可されているので人数分の酒類は用意されている。

ヴィンセントは酔う様子はないが、アリスとローズマリーはすでにかなり怪しいようだ。


「おお、これがお酒の感覚…身体が浮くようです」

「あはは、一口でそれって弱いのねぇ、アリスは!」

「お嬢も他人のこと言えないがな…」

「ああ!?何か言った、ヴィンセント!?」

「何でもない…」


アリスは何だか様子がぼんやりしているし、ローズマリーは明らかにテンションが高い。

自分はまだ酒に手を出してはいないので素面のままだ。


「ウィル君は飲まないのかい?」

「いやぁ、どうなるかわからないもので…」

「良い機会だ、この際どうなるか試してみたら?なぁに、後始末は私が手伝ってあげるからさ」


マリアさんは優しげに笑う。

確かに、どのくらい耐性があるのかを確かめておくのは悪くないのかもしれない。

それに、仲間たちの楽しそうな雰囲気を見ていると、ほんの少し好奇心が勝ってきた。


「じゃあ、少しだけ…」


そう言って、ほんの少し、酒を口に含んだ。




翌朝。


「ぅ…ん…?」


僕は、ベッドで目を覚ました。

窓から差し込む日光で目を覚ますのはいつもの事だが、今日は何やら頭が重い。

昨日の飲酒の影響だろうか。


「昨日は…えっと、どうしたんだっけ…」


アリスの昇級祝いの席で、酒を飲んだところまでは覚えているが、それ以降の記憶がない。

酒には弱い方だったか、というのがわかったのは収穫だが、何か大変なことはしていなかったかが気になった。

扉を開いて、階段まで歩こうとして――自分の部屋ではなかったことに気付く。

歩いた先には、二階への階段があったからだ。

どういうことかと思っていると、店の掃除をしているマリアさんと目が合った。


「やぁやぁ、ウィル君。よく眠れたかな?」

「おはようございます、マリアさん。えっと…昨日は…?」

「君、完全に酔いつぶれちゃってねぇ。私の部屋で介抱していたんだけど、そのまま寝ちゃったんだよ」

「それは…すみませんでした」

「良いさ。久しぶりに君を寝かしつけて、なんだか懐かしい気分になれたしね」


笑みを浮かべるマリアさんを見る限り、どうやらマリアさんに対して失礼なことはそれほどしなかったようだ。

ほっとしたついでに、昨日の事をマリアさんに聞いてみることにする。


「飲んだ後、僕何か変なことをしませんでしたか?」

「あぁ、それなら…」


そうこう話していると、アリスが下りてきた。


「おはようございます、ウィル」

「おはよう、アリス。…そうだ、昨日飲んだ後の記憶はある?」

「いえ、申し訳ないですがぼんやりとしていてあまり…」

「そっか。僕もアリスもあまり飲まない方が良いかもしれないな…」

「顔を洗ってくるので、失礼します」


そう言うと、アリスはこの場から立ち去って行った。

マリアさんが見送りながら口を開く。


「アリスちゃんは飲んだ後は大分ぼーっとしていたね。周りに迷惑をかけるようなことはしていなかったから、安心していいよ」

「そうですか」


話しているとさらにローズマリーと、続いてヴィンセントが下りてきた。


「あ、ウィルおはよう…。頭痛い…」

「お嬢…飲みすぎだっての。そんな強くないんだから程々にしとけって」

「おはよう、ローズマリー、ヴィンセント。昨日のことは覚えてる?」

「…お嬢の醜態は忘れてやってくれ」

「え、何?アタシ、何かやっちゃってたの!?」


自分も覚えていないので忘れるも何もないのだが、頷いておいた。

二人は二人で、日用品の買い出しに出かけてくるらしい。

さっさと歩いていくヴィンセントに、騒ぎながらローズマリーがついていった。


「一体何があったんだろう…」

「覚えていないのなら気にすることはないさ。その方が彼女も助かるよ、きっと」


くすくすと可笑しそうに笑うマリアさんに、少し気になるものはあるものの素直に頷いておく。

と、そこで結局自分は酔った後どうしていたのかを確認できていないことに気付いて尋ねる。


「あ、それで僕はどういう感じになって…」

「それはね…」


「秘・密・だ・よ」


マリアさんは、唇の前で人差し指を一本立てて悪戯っぽく返した。

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