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青天の霹靂

 ──しかし、そんな彼の将来設計に不満を持つ者もいる。というより、遠い未来ばかり見て今から目を背けていることが気に食わない。

「あんにゃろう、せっかく良い天気なのに何でノイチゴを誘って遊びに行かないんだ」

「だからあ、どのみち無理だってユウガオじゃ」

 和気あいあいと農作業に励む面々。その姿を木陰から観察するのはアサガオとヒルガオ。そしてフリージアの三人である。

「人間ってめんどくさい。つがいにならなきゃ子供も作れないなんて」

「別に子作りのために交際するわけじゃねえよ」

 いや、そういうカップルもいるのだろうが、少なくとも弟の目的は違う。単為生殖可能なウンディーネにはわかるまい。

 見た目だけなら彼女と同世代のフリージアは、退屈そうに欠伸しながら移動用の水流を上へ伸ばした。

「もう飽きちゃった。フリージア、師匠のとこにいってくる。あっちの方が楽しそう」

「だめだって」

 慌ててホウキで追いかけ、引き止めるヒルガオ。弟の恋路は彼女にとってどうでもいいことなのだが、尊敬するお師匠のそれとなれば話は別。

「スズねえは今日デートなの」

「おつかいに行ってるだけでしょ? しかも、すぐそこのトナリまで」

「そう、モモにいと一緒にね。ここ大事よ?」

 スズランの意思ではなく、周りがそうなるよう気を遣った。だからこそ余計に邪魔できない。

「お子さまはわたしたちといなさい」

「フリージア子供じゃない! もう八歳よ!」

「この中じゃ最年少。スズねえも言ってたでしょ、目上の人は敬いなさいって。わたしの方が年上なんだから、目上よ目上」

「むう……」

 このワガママウンディーネに言うことを聞かせるには、母親かスズランの名を出すのが一番手っ取り早い。それでも必ず従ってくれるとは限らないが、少なくとも他の名前より効果がある。

 アサガオも、今頃冷たい物でも買って飲んでるだろう友人達の顔を思い浮かべる。

「スズちゃん達は放っておいてもいいんだよ」

 マリアの生まれ変わりたるスズランに手を出そうなんて気概のある男はモモハル以外にいまい。しかしノイチゴはそうでもない。

「ユウガオにゃライバルが多いんだから、さっさと動かないとまずい」

「ふん、告白したって相手にされないと思うけどね、あんなやつ」

 ヒルガオはあくまで反対の立場。弟に親友を取られないか心配しているのかもしれない。コイツも十三にもなって幼稚なやつだ。肩を竦めるアサガオ。

「なあ、ユウガオがノイチゴを落とせば、アタシらとは姉妹だぞ?」

「それはちょっと魅力的だけど……」

「なら手伝ってやれよ、たまには姉らしいことしないと本気で嫌われるぞ」

「姉ちゃんが言うか……」

 ユウガオが今より小さい頃、いつもいじめていたのは自分のくせに。ヒルガオは視線でそう訴えかける。

「うるさいな、だから反省して良い姉やろうとしてんじゃないか」

「無理しちゃって。そんな柄じゃないのに」

「るっさい! いいからお前も考えろ! 親友だろ、どうやったらノイチゴがユウガオに惚れるか考えな!」

「いててて、そんなのわかんないよ! モモにいみたいになるしかないんじゃないの!?」

「そのくらい誰でも思いつくっての」

 妹の頭を両手で鷲掴みつつ舌打ちするアサガオ。彼女もそれは考えた。スズランいわくノイチゴの理想の男性は兄モモハル。ならたしかに彼のようになれれば、弟にも勝ち目はあるのだろう。

 だが、しかし──


「……中身はともかく、見た目がなあ」

「ノイチゴちゃん面食いだよね」


 モモハルは美少年なのだ。とてもあの平凡な弟では敵わない。

 唸る姉妹を上から眺め、ここでフリージアが指摘する。

「中身ならけっこう似てるんじゃない?」

「えー、そう?」

「いや、それは実際そうだろ」

 アサガオも同意見。物怖じしないモモハルと引っ込み思案のユウガオとでは一見すると正反対に見えるが、しかし温厚なところや惚れた相手に一途な面など共通点も多い。そのあたりをとっかかりにしてどうにかしてやれないものか。

「あ、やば、こっち来る!」

「か、隠れろ!」

 別にやましいことをしていたわけではないのに、ユウガオ達が農作業を終えて近付いて来たため反射的に茂みに飛び込み身を隠す三人。目の前を五人が通り過ぎて行く。

「おにーちゃん、おひるごはんのあと、またあそんで」

「うん、いいよ」


 ショウブにせがまれ快諾するユウガオ。面倒見も良い。


「アイツ……ショウブはライバルだろうが……仲良く遊んでんじゃないよ……!」

「やだよ、四歳児に対抗心を燃やす弟なんて」

「アサガオってひょっとして、ユウガオのこと大好きなの?」

「他人の色恋に首突っ込みたいだけ。この村、そういう話題が少ないもん。弟より十六になってまだ彼氏のいない自分をどうにかしろってんだよね」

「うるさい」

 ゴンッ。ヒルガオの脳天にゲンコツが落ちた。

「ゆ、油断……」

「まだまだねヒルガオ。魔力障壁は反射的に張れるようにならないと」

 魔法においては自分に一日の長がある。やっぱり、年上だからってヒルガオにまでへりくだる必要は無い。そう確信するフリージア。

 しかし、

「いいからほら! スズちゃんがいない今のうちに作戦会議するよ! この問題に限れば、あのスズちゃんが敵に回るかもしんないんだからね!」

「はいはい」

「は~い」

 ヒルガオも自分もアサガオにはなんだか逆らいにくい。この中で一番魔法が下手なのに、人間には不思議なカリスマ性の持ち主がいるものだと首を傾げた。

 流石は、あのお師匠様の親友ということかもしれない。




 さて、そんなアサガオ達を、いやココノ村全体を震撼させる出来事がそれからしばし後、季節が秋にさしかかった頃に発生した。まったく事件に事欠かない村である。

「ハ、ハナズ様のお孫さんと……」

「ノイチゴが、お見合い!?」

「そうなの」

「どうしようか?」

 シブヤから帰って来た兄とスズラン。その二人から衝撃の伝言を受け取ったノイチゴは、驚く両親の間で冷静に呟く。

「とうとう来たか」

 彼女はまだ十二歳。けれども、いつかはこの時が来ることを予測していた。なにせ前々から言われていたことだし。

 シブヤにいた二年間、随分と可愛がってくれた老人の顔を思い浮かべる。見合いに興味は無いけれど、あの人を悲しませるのは心苦しい。

「しかたないなあ、受けるよ」

「全然動じてないわ」

「ほんと、僕よりよっぽど大物だ」

 スズランと兄は苦笑い。続けて日時と会場の説明もしてくれた。

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