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竹馬の友

 ある日のココノ村。中央部にある一軒の民家に白金色の髪の少女が呼びかけた。

「ヒルガオちゃん、あ~そ~ぼ」

「オッケー! お母さん、ノイチゴちゃんと遊んでくる!」

 すぽーんと家から飛び出す茶髪の少女。カニ獲り名人クロマツの三人の孫の一人、ヒルガオである。迎えに来たのは宿屋の娘ノイチゴだ。

「はい、いってらっしゃい。危ない場所には行っちゃ駄目よ。まだお帰りになっていないそうだけど、スズラン様とモモハル様に会ったら失礼の無いようにね」

「は~い」

「いってきま~す」

 熱心な三柱(みはしら)教徒の母トケイに見送られ、ヒルガオはノイチゴと共に歩き出した。

 十歳と八歳。この年頃で考えるとそれなりに大きな年齢差のある二人だが当人達は全く気にしていない。初めて会った時からそうだった。妙に馬が合う。

 ヒルガオは両親や姉、村の老人達から世渡り上手と評されている。その場その場で最も影響力のある人物へ素早く取り入り積極的に長いものに巻かれに行く。一年前スズラン達がボンの墓参りで一時帰省した時にも即座にスズランの懐へ潜り込んだ。神子相手に殴り合いを挑んだ強情な姉とは正反対の性格。

 一方、ノイチゴは強者にかしずく必要が無い無敵の少女だ。可憐な容姿に見合わず肝が据わっており誰が相手でも萎縮しない。生まれた時からスズランに可愛がられ、ここ二年は大陸七大国の王とも交流を持っていた。学校ではイマリの賢者が担任教師。兄は眼神の神子。そんなこんなで、もはやちょっとやそっとのことでは動じない。どころか年々利発さに磨きがかかっており、鋭い意見を繰り出しては周りの大人達をたじろがせている。


 人目につかない物陰に隠れた二人は、周りに誰もいないことを改めて確認すると密談を始めた。


「どう? お返事きた?」

「ばっちり。手伝ってくれるって」

「お返しは?」

「ここにあるよ。スズねえ鋭いから苦労しちゃった」

「でも、これさえあれば……」

「うん……」

 二人は揃ってくすくす笑う。実は隠れている場所は鍛冶屋の裏手で、中では店主のツゲさんが聞き耳を立てていたのだが、彼は「ま~たチビどもが悪巧みしとる」と呆れただけで特に何もしなかった。ヒルガオとノイチゴはコンビを組んで以来、あれこれ悪さをするようになった。とはいえ、どれも他愛の無いイタズラで、かつてのスズランやリンドウに比べたら可愛らしいもの。

「ま、子供はちょっとヤンチャなくらいがええじゃろ。ガッハッハッハッ!」

 その大声に驚いたのか、二つの気配は慌てて走り去っていった。




「ただいまー」

「アサガオちゃん、店番ありがとう」

「おかえりー、いいっていいって好きでやってんだし」

 モモハル、スズランが雑貨屋の店内へ入ると、カウンターの奥に座り雑誌を読んでいたアサガオがそのままの姿勢で手を振った。

 本来なら弟妹と同じ茶髪。それを魔法使いが作った染料で青く染め、グラスチック製のピンクフレームのメガネを装着し、田舎の農村には似つかわしくない都会っ子さながらの最先端の服や帽子で身を包んでいる。ココノ村のファッションリーダーとは彼女のことだ。

 彼女とスズランも二歳の年齢差があるのだが、やはりノイチゴとヒルガオ同様全くそのことを気にせずつるんでいる。もっとも向こうが出会った瞬間から意気投合していたのに対し、こちらは拳と拳で語り合った末に芽生えた友情なのだが。

 ちなみにモモハルはアサガオにとってスズランのオマケ。もしくは目の保養要員。美形だけど友達以上にはなれない。むしろ付き合いが長くなればなるほど手のかかる弟としか思えなくなる。そんな関係。

「どうだった? シブヤ」

「大変だったわ……あの時以上に人が詰めかけて来て、結局予定より長く滞在することになったし」

「あんなのを、これから毎月二回ずつやるのかあ……」

 いつもは元気いっぱいのモモハルも、流石にメイジ大聖堂で行われた三柱教徒のための一般参賀には疲れたようだ。といっても彼は次回から剣舞を披露するようになり、それが好評だったことに気を良くして、この大変な仕事も楽しみ始めるのだが。


 スズランが歌と踊りを披露するのは、さらに数回後の話。


「神子様は大変だねえ」

「アサガオちゃん、次から代わってよ」

 カウンターの対面に椅子を置き、腰かけてぐでっと天板にもたれかかるスズラン。この精力的な少女がここまで疲れ果てるくらいだから本当に大変だったんだろう。

 同情しつつ、アサガオはキッパリと断る。

「いーやっ。神子に選ばれてみたいって気持ちならちょっとあるけど、女神様なんて責任重すぎー」

「神子だって別に気楽じゃ……あ、いや、うん」

 言いかけた言葉を、脳裏に浮かんで来たぐ~たらものの神子のせいで飲み込むモモハル。たしかに、女神ウィンゲイトの生まれ変わりと判明したスズランに比べれば自分達は多少マシだ。あんな風に気ままに生きてる神子だっているんだし。

(シクラメンさん、ああいう自由な生活を勝ち取るまでにどれだけ頑張ったんだろ……)


 一切頑張ってない。彼女は二百年間あの調子で周りが諦めていっただけである。


「はぁ……まあ、あと何回かこなせば少しは皆の熱も冷めるでしょ。女神って言ったって、笑いながら手を振るだけだしね」

「奇跡とか起こしてあげないの?」

「そういう、なんでもかんでも神様頼みになりそうなことはしません。本当に私でないと駄目な場合は別だけれど」

 スズランの中のウィンゲイトの意識もそれだけはやめておけと訴えている。神になった直後には彼女も調子づいてしまった時期があったのだ。その頃の数々の失敗の記憶が頼んでもいないのに次々と浮かび上がって来る。


 人間、過度に楽を覚えてしまうとロクなことにならない。


「何事もほどほどが大切なの。ていうか奇跡ならこの間たっぷり見せたじゃない。世界を救った上に再生させたでしょ。あれ以上は今の私には無理よ」

「他の世界のスズちゃんが帰ったから、今は神子としての力しか残ってないんだっけ?」

「そういうこと」


 ──本当は“六柱の影”の力を借りて七系統の始原の力全てを使えるようになっているのだが、まだ明かすべきではないと判断した。今も教皇ムスカリとロウバイ、そしてナスベリとモモハル以外の人間はその事実を知らない。


(本来の力には遠く及ばないとしても、これはこれで個人にとっては過積載にも程がある力ですものね……)

 ウィンゲイトの神子としての力だけで世界を守っていくには十分すぎる。当面“崩壊の呪い”のような脅威は現れないだろうし。

(それに、この世界の人達はミナ達との戦いの結果、かなり深度が深くなっている。正直、そんじょそこらの世界の神や魔族程度なら手を貸さなくても倒せるでしょう)

 考えてみると、それまたとんでもない話だわと苦笑する彼女。突然の笑みにアサガオとモモハルはそれぞれ片眉を持ち上げる。

 そこへ──


「た、大変じゃスズちゃん!」


 いつものように、新たなトラブルが舞い込んで来た。

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