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衝撃的な報告

「それでは陛下、開通させます」

「ええ、やって」

 スズランが許可を下すと、カロラクシュカは再び村の中に落雷を落とし新たな“扉”を出現させた。今度は東側の森の一部を切り開いて作った専用のスペースにである。流石に道のど真ん中に扉があっては邪魔になるためスズラン達の要望で移動させた。

 そう、これから当面、この場所に構築された“扉”は維持されるのだ。

「ここからいつでも異世界にいけるわけかあ」

「なんだかワクワクする!」

「スズちゃんの許可が無きゃ駄目だからな! 勝手に使うんじゃないよ!?」

 目を輝かせるヒルガオとノイチゴ。釘を刺すアサガオ。しっかり言い聞かせておかないと、この二人、さらに最近加わったフリージアも足して三人の悪ガキは無断で異世界への冒険に旅立ちかねない。

「正直、ここにこれを設置しておくのは不安なのよね……」

 渋い表情のスズラン。ミツルギは申し訳ありませんと謝ってから、しかしながらと付け足す。

「皆、陛下に会いたがっておりますので」

 この世界の三柱教徒達と同じ。敬愛するマリア・ウィンゲイトが復活したと知り、聖母魔族の世界は少し前からお祭り騒ぎ。現地民の迷惑も考えず大挙して押し寄せようとする馬鹿共までいた。三代目と自分達五封装が止めなかったら本当に実行していただろう。

「陛下は今も皆に愛されております」

「さすがはスズ」

「自慢の娘だなあ、おい」

 カロラクシュカの言葉に胸を張るカズラと、その肩を叩くサザンカ。

 けれども当のスズランは嘆息した。

「顔を出すのは一度だけよ? ディルがいるのに、今さら私が出しゃばったって良いことなんか無いわ」

 実を言うと今回、カロラクシュカとミツルギは単なる挨拶でなく招聘を行うため訪れたのだ。つまりスズランに自分達の世界まで来て欲しいというわけである。聖母魔族全員に初代大魔王が復活した姿を披露すべく。

 二人が世界各地を巡り七王や各大陸の長と顔合わせしたのも、一時的にマリアの転生体であるスズランを借り受けたいと前もって頼んでおくため。

「ディル陛下もマリア陛下との再会を望んでおられます。それに、お招きするに相応しい口実もありますし」

「口実?」

 これまでそんな話は聞いていない。なんのことかと眉をひそめたスズラン達にカロラクシュカはニマリと意地の悪い笑みを返す。


「結婚式です」


「……は?」

 まさかと思ったら、そのまさかだった。

「実はゲルニカ坊ちゃん、一度は断ったものの結局ディルちゃんの愛を受け入れることにしたんですよ」

「はあっ!?」

 スズランの人格と交代して仰天するマリア。それはそうだろう。それぞれ血の繋がりが無いとは言え、彼女にしてみれば息子と孫が結婚することになったわけだから。

 たしかに以前、ちゃんと向き合えと助言はしたが、まさかこうなるとは。


【な、何を考えてるのよ、あの子!?】

【ゲルニカ、お前……】

【……】

【いいんじゃない? ユウ、ユウも叔母ちゃんと結婚しようか】

【ちょ、これ以上混乱を招かないでくださいユカリさん!】

【ロックだなあ、おい】


 スズランの胸の宝石内では六柱の影が大騒ぎだ。村の皆にも動揺が広がっていく。

「待って、つまり戸籍上、私の孫が曾孫と結婚するってこと?」

「う~ん、あくまでマリア様の息子とお孫さんだからスズランの親の僕達が気にすることでは無いんじゃないかな……」

「でもスズちゃんはマリア様でもあるのよね?」

「ややっこしいなあもう」

「まあ、めでたいことなんじゃろうし祝いに行ったらどうかね?」

「待て、スズちゃん一人で行かすのか? それは流石に不安じゃ。いやミツルギさん達を疑っとるわけじゃないんですぞ」

「わかっております」

「やはり誰かついていかんと」

「ノコンさん、ロウバイ先生、頼めるかのう?」

「わ、我々ですか?」

「わたくしは構いませんよ」

「いっそ皆でついてったらいいんじゃない?」

「そうしようそうしよう!」

「冒険だ!」

「落ち着け嬢ちゃん達!」

「フリージア、焚きつけないの!」


 てんやわんやの大騒ぎ。これは結論が出るまで時間がかかりそうだ。

 マリアは眉間に皺を寄せて訊ねる。


「ええと、いつ頃の予定なの?」

「この世界の時間では、およそ二年後といったところです。何人で来るかは、ごゆっくりお考えください」

 スズラン達の世界は聖母魔族の世界のそれに比べ時間の流れが極端に早い。向こうでの半年がこちらでは二年になるのだそうだ。

 マリアはふうと再び息を吐き、肩の力を抜く。

「わかりました。では、また会いましょう。気を付けて帰りなさい」

「はい、陛下もどうか、お健やかに」

「次に会う時には、かつてのお姿により近付いておられるでしょう。楽しみにしています、陛下」


 ──そう言って、かつての臣下達は元の世界に戻って行った。


「……スズねえ」

「使わせません」

 マリアはスズランと交代する前に異世界への入口にロックをかけた。これで自分の許可無くこれを使うことは誰にもできない。

「ケチ!」

「やめなさい!」

 怒ったノイチゴは母レンゲに頭を叩かれる。ゆくゆくは使わせてやってもいいかもしれないが今は時期尚早。ノイチゴだけでなく、この世界の大半の人間にとってこの扉はまだ触れるべきでないものだ。だからスズランはココノ村に扉を設置させたのである。

 まあ、当面はこれで大丈夫。そう思った彼女が振り返ると、モモハルが扉を見つめ何事かを考え込んでいた。


「結婚か……」

「……」


 自分達はまだ十三歳。本来そんなことに悩む時期ではない。けれど彼は生まれる前から恋焦がれていて、こちらは本当は三十歳なのだ。一足早く決断を下したマリアの息子の顔を思い浮かべる。


(私も、いつかは結論を出さなくちゃね)


 その日は多分、そう遠くない。

 未来予知とは関係無く、そんな予感を抱いた。




 巨大な王城。会議室に集まり円卓を囲んだ六人の男女。

 うち一人ががなり立てる。赤い髪とアゴヒゲの老人だ。

「陛下に想い人だと!?」

「違う違う、そうかもしれないって話を聞いただけ。ネリカ型の神子ちゃんからね」

「へえ、そりゃ興味深い話だ」

 道化師のような格好の青年は隣の席のカロラクシュカ同様ニヤニヤしている。他の面々にも特に狼狽えた様子は無い。

 赤毛の男だけが焦燥感に駆られていた。

「し、しかし陛下は万物の父を今も愛しておられるはず」

「彼女はたしかに我々の敬愛した陛下ですが、同時に今はスズランという異なる存在でもあります。そのようなこともありえましょう」

 ミツルギが言うと、彼女の隣の“闇”としか形容しようがない何かも声を発する。

『然り。陛下が恋に落ちたなら、それは輪廻転生が正常に作動している証。転生は陛下が司る事象の一つ。我等としては喜ぶべきであろう』

「く、ううっ……」

「気を落とさないでよエンディワズ殿」

「そうそう。陛下を相手に失恋したのは一度や二度じゃないでしょう?」

「うるさい! わ、私はそのような感情を抱いてなどおらぬ! 陛下に対する思慕の念は、あくまで臣下としての敬意から湧くものだ!」

『嘘はいかんな法魔王殿。そなたほど初代陛下の寵愛を望んでおる者は珍しい』

「何を申されるかファブリス老!?」


「もうよい」


 円卓だが下座上座は決まっている。最上位者が座るべき場所に腰かけた長い黒髪の美女。彼女は臣下の者達のいつもの掛け合いを一声で止め、話を本筋に戻す。

「初代陛下の安全、そして“崩壊の呪い”の浄化は確認できたのだな」

「はい。流石に全盛期ほどの御力は発揮できないようですが、今の情勢ならば初代陛下を脅かせる者などそうはいないでしょう。我等が総がかりで挑んだとして勝てるかどうかという御方です」

「呪いに関しても初代陛下の監視下にある間は二度と以前のような暴走は無いものと考えられます。実質的な無力化と判断していいかと」

「長年の懸案が一つ解決したわけね」

 崩壊の呪いについては聖母魔族もずっと頭を悩ませてきた。自分達なら界球器内に侵入して“断片”を叩くことはそう難しくない。けれど、あの呪いは数多の界球器に分散してしまっていた。しかも叩いても叩いても僅かにでも残っている限りすぐに増殖する。千年かけてもあれをどう消し去ればいいかわからなかったのだが、まさか消さずに無害化してしまうとは、流石マリア・ウィンゲイトという他に無い。

(おじさまの判断は間違っていなかったわけね)

 ゲルニカになら、あの呪いを完全に駆逐することもできただろう。けれど彼は前の人生を終える直前に言ったのだ。


『きっとそれは、僕の役目では無いんだよ』


 力でねじ伏せるべき敵ではなく、心で対処すべき問題なのだと彼は結論付けた。だから自分達聖母魔族も、あの呪いにはなるべく手出しを控えていたのである。

「ふふ……ますます惚れ直したわ」

 上機嫌で呟く彼女。千年越しの恋が実ったばかり。当然、最高の気分。

「さて、それでは、おばあさまを招待するに相応しい宴を考えましょう。私とおじさまの夫婦としての初舞台よ!」


 三代目大魔王ディル・ディベルカ・ウィンゲイトは、この日、そのために五人の腹心を招集した。


『平和なことだ』

 最長老セクトファブリスは闇の中で湯飲みを持ち上げ、ずずっと美味い茶を啜る。カロラクシュカとミツルギが持ち帰った土産。彼等の敬愛する初代陛下が育てたお茶を。

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