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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
02.There are things he can't even see
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年寄りの楽しみ

「やあ、来たよ」

「来た……」

 翌日の午後、突然来訪した二人を見てスズランとモモハルは目を丸くした。

「アカンサス様!? シクラメン様まで!!」

「なんでここに!?」

「なんでって、遊びに来たんだよ。戦後の残務処理もやっと落ち着いてきたからね」

 なんでもないことのように笑う柔らかい巻毛で褐色肌の少年。スズラン達より少し年上のように見えるが、実のところ四百歳超えの大先輩だ。鍛冶の神から加護を得て日常的に鉄を打っているだけあり、細身ながらも筋肉質。腕力では今のモモハルをも上回る。

 もう一人はシクラメン。知の神ケナセネリカの神子である。長い紫の髪と全体的に白く見えるほど薄い水色の瞳が特徴。普段はシブヤの大図書館から一歩も外に出ず読書三昧の生活を続けるぐ〜たらもの。年齢は二百歳と少しで外見的には今のスズラン達と同世代。

 ちなみに二人が訪れたのはココノ村東の森の中にある学校で、三日前からようやく授業を再開したところだった。

「まあ、いらっしゃいませ」

 教師のロウバイは流石というかなんというか、一切動じず二人を歓迎する。

「授業中だと聞いて見学に来たけど、お邪魔かな?」

「いえ、お二人に見ていただければ、子供達も身が引き締まりましょう」

「なら、見てる」

「はい」

 とんとん拍子で話が進み、何故か二人の神子による授業参観が始まった。

(どんな学校だよ……)

 冷や汗を流しつつ胸中で呻く少女。名前はアサガオ。現在十三歳で一応この学校の生徒では最年長。元は茶色い髪を魔法使いの薬で鮮やかな青に染めてあり、細いフレームの四角いメガネをかけている。田舎の村には似つかわしくない先進的で洒落た格好をしていて、ココノ村一のお洒落さんとしても評判だ。

(神子が授業見に来て、生徒にも神子が二人って……)

 我ながらとんでもない村に引っ越して来たものだ。詳しくは知らないが目の前で大陸史を解説しているロウバイ先生もかなり高名な魔女らしい。

 しばらくして大きなのっぽの古時計が正午を告げ、本日の授業は終了した。ふうと息を吐き出すアサガオ達三姉弟。結局神子さん達は最後まで後ろから見守っていた。

 早速、スズランが駆け寄る。

「お久しぶりです!」

「おや? そんなに久しぶりだったかな?」

「一ヶ月しか経ってない……」

 首を傾げる二人。数百年生きた神子達からすると一ヶ月程度は昨日今日と変わらないのかもしれない。

「僕たち今月からは月二回シブヤに顔を出す予定ですよ? どうして村まで来てくれたんですか?」

 モモハルはキョトンとしている。シブヤにいた二年間だってこの二人とはそれほど顔を合わせたことが無かったのだ。

 椅子に座ったままアカンサスは苦笑する。

「迷惑だったかな?」

「そうじゃありませんけど、不思議で」

「まあ、恥ずかしながら告白すると寂しくなったんだよ、僕も彼女も。アイビーが記憶を無くして普通の子供になってしまったろ? おかげで話し相手が減っちゃってね」

 ああ、なるほどと今度こそ納得するスズラン達。最初の神子アイビーとアカンサス達は古くからの友人でもあった。けれど、そのアイビーは先の決戦で人類を守るため自分自身の記憶を魔力に変換し、燃やし尽くして──

「今のアイビーは赤ちゃん同然。面倒を見るのも楽しそうだけれど、ナスベリ達ビーナスベリーの社員が蝶よ花よと可愛がっていて僕等の出番は無いんだ。なら、たまには後輩の世話でも焼こうかと思ってね」

「遊びに来たのでは?」

「若人にお節介を焼くのが老人の数少ない趣味なんだよ。もちろん君達が僕と彼女をもてなしてくれてもいい。さあ、今日の授業は終わったんだろ? 遊ぼうじゃないか」

 つまるところ戦いが終わって暇を持て余しているのかもしれない。スズランは苦笑して、二人の先輩の来訪を受け入れた。




「モモハル。君、悩んでるらしいね?」

 夜、なんと宿屋に泊まっていくことになった二人は食事中のテーブルにモモハルを呼び出し、いきなりストレートに切り込んできた。

「……アルトラインですね?」

「ふふふ、成長して察しが良くなったじゃないか。まあ、正確には彼が残していった分体だけどね。ほら本体は今、別の世界で修行中じゃないか」

 モモハルに加護を与えている眼神アルトラインはあの戦いの後、自らの可能性をもっと引き出したいと言って異世界へと修行の旅に出た。そのため、この世界には“神の力”の一部だけを残してある。モモハルやスズランが変わらず予知の力を使えるのはそのおかげなのだ。

「分体にもかかわらず、相変わらず茶目っ気のある性格をしているよ」

「みたいですね」

 二人の訪問を予知できなかったのも、きっとその分体の悪戯心のせいだ。アルトラインとはそういう神様なのである。

「なあにモモハル? 何か悩んでるの?」

 耳聡く聞きつけた母レンゲが会話に加わってくる。アカンサスが手でさりげなくどうぞと促すと、頷きながら同じテーブルを囲む椅子に着席した。

「当ててみようか? スズちゃんのことでしょ」

「えっ、なんで!?」

「なんでも何も、あんたが悩むことなんて他に無いでしょ」

「うっ……」

 図星だった。親子の会話を聞いていたアカンサスは声高らかに笑う。

「ハハ! 君ほどわかりやすい子はそうそういない。だからこそ心配にもなる。スズラン君が絡んでいることは明白だけれど、いったいどういう悩みなんだい? ほら、お兄さんに言ってごらん」

「い、言えって言われても……」


 周りには他にも何人かの客がいた。

 こうも人目があっては──


「……おっと、うちの猫にエサをやらんと」

「ワシは婆さんに買い物を頼まれとった」

「サザンカ、代金はここに置いとくぞ」

 あからさまに気を遣って出て行く老人達。モモハルは頭を抱える。これではアカンサスの提案に乗らざるを得ない。

「ううう……」

「せっかくお二人が聞いてくださるって言うんだから甘えてみなさい。ウメさん以上の大先輩だもの、きっと良いアドバイスを貰えるわよ」

 そう言って立ち上がり、老人達の食事の後片付けを始める母。自身はもう息子の悩みもその解決法もわかっているという顔だ。

 一方、アカンサスは肩をすくめて頼りないことを言う。

「そう期待されても困るかな。なにせ僕は恋愛経験が少ないから」

「じゃあ、なんで恋愛相談を……」

「言っただろ、お節介を焼くのが年寄りの楽しみなんだって。君の想い人のおかげで僕等二人も相棒が旅立ってしまったんだし、少しは付き合ってくれてもいいじゃないか」

 アカンサスが契約した神ストナタリオとシクラメンの契約した神ケナセネリカは一時的に人間に生まれ変わって暮らすのだそうだ。長年この世界を守ってきた彼等の要望に輪廻転生を司る神マリア・ウィンゲイトが、つまりスズランが応えた結果である。

 モモハルはしばらく考え込んだ後、ため息をついて頷く。

「わかりました、聞いてください」

「その前に」

 話を切り出そうとした途端、待ったをかけるシクラメン。今までずっと夢中でカウレを口に運んでいた。

「これ、気に入ったわ。もう一杯」

 そしてまた一人、カウレ中毒者が生まれた。

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