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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
13.Life has its ups and downs(下り)
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お騒がせ娘

 貸倉庫の床を掘り返した挙句、勝手に海まで繋がるトンネルを作ってしまった研究者達。ユリは彼等を犯罪者として裁いた。

 ただし──


「本来なら流島送りだが、大変貴重な資源を発見した功績とその価値を正しく知る見識を無駄にするは惜しい。よって役所の管轄下で調査活動をさせ、それをもって労役と見なす。しばらく家には帰れず大学に通うことも許さぬが、刑期を終えた暁には復職と復学を私の権限において保証しよう」


 ──ようは、生命水の研究が金になりそうだからしっかり働いてお国に貢献しろという沙汰である。その代わり研究が実を結んだ場合、功績は国ではなく彼等自身のものとして発表するそうだ。


「学者という人種は金より名誉を欲するものです。もちろん金になる研究だったら相応の報酬も支払いますよ」


 生命水を安定して確保できる目途が立てばミヤギは莫大な利益を得るだろう。研究者達全員に一生食うに困らないだけの褒美を与えても痛くも痒くも無いほどの富を。抜けてるように見えて、意外にちゃっかりしているとスズラン達は感心した。やはりユリも七大国の王の一人なのだ。

 そして彼女とは、ここセンダイで別れることになった。


「申し訳ございません、彼等の面倒を最後まで見てやりたいので、私はここでお暇します。タキアまで同行すると言っておきながら面目ない」

「いえ、いいんですよ。ユリさんはミヤギの王なのですから」

 むしろここでまた着いて来るなどと言えば説教していたところだ。スズラン達は笑顔でユリに別れを告げる。


 直前、彼女にはあることを心配された。


「本当に大丈夫ですか? スズランさんの負担が大きくなるのでは……なんなら家臣から有能な者を数名お貸ししますよ」

「それには及びません。私が一緒にいる限り勝手な行動は取らないでしょう」

「ねえねえスズラン様! 早く! 早く出発したい!」

 馬の背から呼びかけて来るのはウンディーネのフリージア。なんと、このままココノ村まで連れて行くことになった。

 スズランは振り返りつつ、あの倉庫で彼女と再会した時の会話を思い返す。


『フリージア、今度は修行のために来たんです』

『修行?』

『ウンディーネは十歳になったら修行の旅に出る決まりなの。世界中の海を泳いで見識を深める。でもフリージアは天才だから七歳でもいいでしょって、しばらく前にママに頼んだんです。でも駄目って言われて怒って飛び出して来たら、この間あの場所でスズラン様に会いました』


 それでね、と彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべる。


『帰ってからママと女王様に言ってみたの。スズラン様がフリージアを気に入ってくれて、修行の面倒を見てもらう約束をしたって。そしたらやっぱり! 今度はすぐに行きなさい、是非行って来なさいって送り出してくれたのよ!』

『……そんな約束、してないわよね?』

『してないけど、スズラン様に弟子入りしちゃえば嘘じゃなくなるでしょ? それに女神様の生まれ変わりの弟子だなんて最高だわ。一生皆に自慢できる!』


 その言葉を聞いたスズランは確信した。

 この子を放置しておくのは危険だと。


(私と出会った時のクルクマも同じような気持ちだったんでしょうね……)

 母親どころかウンディーネの女王にも御せないじゃじゃ馬。それなら本当に自分が面倒見て色々教えてやった方がいい。そう判断した。すでにアカンサスや女王にもそうすると伝えてある。

 代わりに、他に弟子入り希望者がいても来させないようにと女王には約束させた。そう何人もいないとは思うが、フリージアのような娘が次々弟子入り志願で押しかけてきたら流石に身が保たない。


 ──ちなみにあの倉庫にいた理由は、海中に響く金属音を聴きつけた彼女が興味本位で近付いたところ、トンネル内に浸水して死にかけていた彼等を見つけ助けてやったことがキッカケだそうだ。魔法で水を操れる彼女と出会った研究者達は一週間以内にトンネルを完成させるからその間だけ手伝って欲しいと頼み込み、フリージアも提示された報酬の額に興味を持って引き受けた。


『前に来た時、綺麗なアクセサリーが欲しかったのに、人間の使う“お金”っていう物を持ってなかったせいで断られたの。でも、あのおじさん達がたくさんくれるって言うから、それならちょっとくらい寄り道してもいいよねって』

『そう……偉いわね』

 スズランは本心からそう思った。お金を稼ごうとしたことにではない。アクセサリーを売っていた露天商から商品を強奪しなかったことに対してだ。流石にそれくらいの分別は持ち合わせているらしい。人命救助もしたそうだし嘘をついて押しかけて来たことは不問に処そう。

 短い回想を終えた彼女は、新たな弟子フリージアと共に馬に跨って出発する。


「ばいばーい!」

 二日間滞在したセンダイ城。その城門まで見送りに出てくれたユリ達に手を振るフリージア。

「お達者で! またこちらから遊びに参ります!」

「はい、また会いましょう!」

「またねユリ様!」

 手を振り返すユリに、スズラン達も大きく手を振って別れた。

 その後、否応無しに注目を浴びながらセンダイの街を通り抜ける。一応また変装はしているのだが、馬の背にウンディーネが乗っているのだから目立たないはずがない。

「フリージアちゃん、泳がないの?」

「だって馬なんて初めて乗ったんだもん。面白いから、しばらくこのままがいい」

 だそうだ。飽きるまで降りてくれそうにない。

 ユリと共にキバナが抜けたため、馬の数は二頭になっている。ユリはもう一頭差し上げましょうかと申し出てくれたのだが、御せるのが自分とモモハルだけなので丁重に断った。

 こちらの馬には自分とフリージア。もう一頭にはモモハルとアサガオ。仮にフリージアが宙を泳いでくれたとしても、どうしたって頭数は足りない。

 では、残り二人はどうしたのかと言うと──


「う、ぐ、ぐ、ぐ……」

「がんばってヒルガオちゃん! おくれてる、おくれてるよ!」


 二人一緒に一本のホウキに跨り、前に座ったヒルガオを応援するノイチゴ。

 今はヒルガオの番。教わったばかりの飛行魔法で、どうにかこうにか自分達の頭の高さくらいまで浮いて二頭の馬について来ている。

「む、むずかしい……これ本当にむずかしいんだけど!?」

「私、まだむりだからね!? 私のホウキじゃ、どこにとんでくかわからないよ! だからがんばってヒルガオちゃん!」

「あはは、へたっぴ~」

 そんな二人を指差して笑うフリージア。スズランはこらっと窘める。

「あの子達は貴女の姉弟子よ、敬意を払いなさい」

「ええっ? フリージアより小さいのに?」

「年齢も向こうが上。お姉さんなの」

「そうなんだ」

 びっくり顔のフリージア。それから急に馬を降りて空中に魔法の水流を生み出し、ノイチゴとヒルガオを素早く両脇に抱えた。

「うわっ!?」

「ななな、なに!?」

「そんなノロノロしてたらいつまで経ってもスズラン様の村に着かないでしょ! 特別にフリージアが運んであげる!」

 そう言って今度は空中を泳いで行く。しばらくは馬がいいと言っていたのに気まぐれな子だ。スズランとモモハルは慌てて追いかける。

「こらっ! 急がなくていいから降りなさい!」

「あはは、あはははは!」

「ユリさんが抜けた代わりに、また騒がしい子が道連れになったもんだ」

「ははは、まあ、これで村もいっそうにぎやかになるよ」


 そんな彼等のために、センダイの民は誰に言われるでもなく道を開ける。


「ありがたや、ありがたや」

「こんなに近くで、お二方の顔を拝めるとは」

「まったく女王陛下様々じゃて」

 どうやらユリタロウと同じようにクマシデとイヌシデの正体も広く知れ渡ってしまったらしい。

 民は旅立つ二人の神子とその弟子達の邪魔にならぬよう、左右へ退きつつ彼等の出立を見送った。

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