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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
02.There are things he can't even see
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モモハルの悩み

 決戦から一ヶ月ほど経ち、季節は秋。スズランが村の周囲に展開した結界とムスカリ達の尽力により今度こそ本当にココノ村に平穏が戻った。

 ただ、そうすると色々考える余裕も出て来る。それは幼い頃、能天気という言葉の具現の如く思われていた彼も例外ではなかった。

「ううん……」

 ベッドに腰かけ、腕組みして首を捻るモモハル。ここは彼等がメイジ大聖堂で暮らしていた間、大工のムクゲさんに依頼して作ってもらった子供部屋。一階と二階に一部屋ずつ増築されたその片割れである。兄として妹に選択を委ね、妹ノイチゴが両親の寝室に近い二階を選んだことから彼は一階の部屋に入った。

 モモハルは十一歳。ノイチゴは八歳。大聖堂でも彼だけは個室を貰っていたし、こちらでも自分の部屋が必要だろうと両親が気を回したのである。

 お隣はまだ家族全員同じ寝室で寝ているらしいが、スズランは流石に両親と別のベッドを使っている。おじさんとおばさんの子供達に対する溺愛ぶりは未だ衰えを見せず、スズランも両親と同じ部屋で過ごすことを苦にしていない。だから多分、あっちは当面部屋を分けないだろう。

 いや、自室が与えられたことを不満に思っているわけではない。むしろ嬉しい。こちらは親離れが進みつつあり、一人になりたい時間が増えていたから。

 けれど、そう、この一人の時間というやつが曲者。他に誰もいないと、ついつい様々なことを考えてしまう。

 思考の大半を占めているのは、やはりスズランのこと。この年齢にもなると流石の彼も男女のあれこれについて意識するようになっていた。

 思い返す。幼少の頃、いや、赤ん坊の頃からスズランに対し繰り返して来た“暴挙”の数々を。


「あああああああああああああああああああ……っ」


 今度は両手で顔を押さえ、ベッドの上で仰向けになってジタバタする。自分はこれまでなんてことを。ほっぺをしゃぶり、力一杯抱き着き、どこへ行くにも彼女の後を追いかけ回して──これでよく嫌われなかったものだ。


「ううう……思い出したくなくても見えちゃう」


 彼は過去現在未来の全てを見通す眼神(がんしん)アルトラインの神子(みこ)。そのため想起しようとした記憶は、まるで昨日のことのように鮮明に思い出せてしまう。たとえばロウバイの授業で行われるテストでも、実はこの能力を使って暗記問題を可能な限り記入し追試やお説教を免れて来た。

 しかし、今はそんな自分の力が憎い。いっそ全て忘れてしまえたなら、こんな風に夜毎後悔で悶えることも無くなると言うのに。

「って、忘れちゃ駄目だよ」

 たしかに恥ずかしい記憶だしスズランに対して申し訳ないが、だからこそ忘れずに今後のための教訓にしないと。

 とりあえず女の子に対して過度なスキンシップは厳禁。というより、お互い年頃なんだから軽く触れることだって避けるべきだ。


 そう考えて、ふと思い出す。


「……スズは、本当は二十八なんだよね」

 自分が十七歳だった彼女を赤ん坊にしてしまったせいで外見上十一歳だが実年齢は十一足す十七で二十八。つまり同い年でなくずっと年上のお姉さんなのである。親子でもおかしくない年齢差。

 しかも今の彼女の中にはマリア・ウィンゲイトの記憶まである。全ての世界が生まれる前から存在していた始まりの神様で、人間だった頃には結婚して三人の子持ちだった。


 はたして、そんな女性(ひと)が自分を相手にしてくれるだろうか?


「……僕は、ずっと好きなんだけどなあ……」

 大の字になって天井を見上げ、呟く。赤ちゃんの頃こうして見上げた天井にスズランの作った星屑が輝いていたことがあった。あんな小さな時から、ずっとこの想いは変わっていない。

「僕はスズランが大好きだ」

 結婚したい。その前の段階なんていらない。とにかく彼女とずっと一緒にいたい。スズランのことを考えると頭の中はそればかりになる。どうやら並行世界の自分も皆、揃いも揃ってこういう重たい男だったらしい。だからスズランと必ず出会う特異点なんてものになってしまった。

 特異点だからスズランを好きになるのでなく、好きすぎて特異点になる。それが全ての世界の“モモハル”の真実。


「……皆、どうしてるかな」


 あの戦いの時、力を貸してくれた並行世界の自分達。今は夜空の星々になったそれぞれの故郷へ帰ったはず。彼等は無事スズランと結ばれただろうか? それとも、自分と同じようにそうなるべく努力している最中か?


「そうだよ、頑張らなきゃ」


 この苦悩の発端となった問題を、彼はようやく思い出す。

 自分はスズランと同じ神子。なんとなればシブヤの大図書館で食っちゃ寝ぐ~たら生活を続けるシクラメンのように働かなくても生きていくことはできる。

 でも同じ立場どころか、よりいっそう貴い身分のスズランは今まで通りこの村で普通に生活するつもりだ。

 自分もそうしたい。彼女がそうだからというわけではなく、宗教的な象徴として生きていくのが性に合わない。

 でも、だとすると結局、何をして生きていけばいいんだろう?


「宿を継ぐのかなあ……」


 別に嫌なわけではないが、決戦に向けて二年間、さらにその前の二年も含めてノコンやクチナシから教えを受け、ミツマタら強者と手合わせして剣術の腕を磨いた日々。あれはあれで楽しかった。今後また大きな事件が起きないとも限らないし、やっぱり剣を捨てることはできない。

 でも、それでいいのかなと疑問に思う。料理人と剣士、どっちつかずの道を歩んで両方極められるものだろうか? どっちも半端者になってしまいそうで怖い。


 というか、そういう未来が見えている。


「……はあ」

 未来予知。この力も時に厭わしくなる。これまで散々助けられておきながら恩知らずな話だとは思うけれども。

「料理人の僕と剣士の僕……スズはどっちがいいのかな?」


 過去現在未来の全てを見通す眼神の力も自分より上位の神には通じない。

 そしてスズランは、数少ないその上位神の一人なのだ。

 彼の力でも彼女の乙女心だけは見透かせない。

 ゆえに自身の未来も実際には不透明。


「ああ~……」

 こんなに好きなのに、どうしたら振り向いてもらえるか全くわからない。進むべき道も決められない。

 幸か不幸か女神に想いを寄せたおかげで、ごく普通の少年らしい苦悩に耽るモモハルであった。

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