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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
13.Life has its ups and downs(下り)
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犯行動機

「牧師が長々お説教」

「う……ん? ぐう……」

 見張りを眠らせ魔力探査で周囲に他の人間がいないことを確認したスズランは、隠形(ステルス)の魔法を解き水槽のガラスを叩いた。

「フリージアちゃん、起きて」

『んう?』

 水中で目を開けるフリージア。やはり眠っていただけらしい。

 彼女はこちらの姿に気が付くと小首を傾げる。

『あれ? あなた誰? 初めて見る顔ね』

「ああ、そうか、このメガネを外さないとね」

 髪を染めただけで顔は変わっていないのだが、メガネにかかった認識阻害の呪のせいでわからないのだろう。スズランが素顔を晒すと途端にフリージアの寝ぼけ眼は皿のように見開かれる。

『す、すすすす、すずらんさまっ!?』

「助けに来たわよ。でも先に教えて、他にも誰か捕まってる?」

『捕まってる? なんのこと?』


 ん? スズランはようやく違和感を抱く。


(よく見ると拘束されてるわけではなし……簡単に目を覚ましたから薬を嗅がされたとも思えない。それに倉庫の中の人間に魔法使いはいない。種族全員が魔女のウンディーネをどうやって捕えたの?)

 もしかして大きな誤解があるのでは?

 改めて少女に問いかける。

「フリージアちゃん、ここで何をしてるの?」

『お、お手伝いです』

「お手伝い?」

『はい、この近くを通った時、なんかうるさいなあと思って近付いてみたら──』


 かくかくしかじか。


「……」

『あの……?』

 事情を聴いてしかめっ面になったスズランを、怒られるのかなと怯えた様子で見つめる少女。スズランの脳内ではマリアの力を介し接続したユリとモモハルから何度も思念波の通信が入っている。

【スズ、そこで何してるの? もう突入してもいい?】

【スズランさん、人質の安全は確保できましたか? 私はいつでもいけますよ】

「……ああ~」


 なんと説明したらいいものか、考えを整理してから返答する。

 テレパシーではなく大声で。


「作戦中止! アサガオちゃん、モモハル、ヒルガオちゃんとノイチゴちゃんも、みんな倉庫に入って来て!」




「な、なんだ君達は!?」

「どこから中に!」

 フリージアを伴ったスズランが奥の部屋から歩み出て、モモハル、ユリもタイミングを合わせ内部に突入すると、男達はひどく狼狽した。地上部分にいた三人に呼ばれ、地下にいた四人も慌てて這い出して来る。

 さらに彼等はユリが混じっていることに気が付き、見る間に顔を青ざめさせた。やはり西から来たマフィアなどではなく地元の人間だ。

「あっ、これはっ、そのっ……」

「んんんん?」

 一方、ユリも男達の一人に注目して目を細めながら近付いて行く。

「その方、どこかで会ったことがないか?」

「……よ、よく言われます」

 顔を逸らす男。だがユリは、すぐにポンと手を打って思い出したことを示す。

「そうだ! たしか大学の教授殿! 前に視察に──いや、ゴホン。大学の構内を歩いていた時に見かけたぞ、うむ! 私は実はあそこの卒業生なのだ。もとい卒業生なのです」

 今の自分は女王でなく流浪の剣士ユリタロウだという設定を思い出し、危ういところで取り繕う彼女。もちろん本人以外の全員、その正体はとっくの昔に知っている。

 でも彼等はユリの家臣ではない。今しがた彼女が言った通り、ここセンダイにある大学の職員と学生なのだ。

「こ、こら! 中に入ってはいけない!」

「スズねえ、どうしたの!? なんで急にさくせんへんこうしたの!?」

「待てコラ!」

「はなして! はなしてってば!」

「うちの妹に何すんだ!」

 少し遅れて正面にいた見張りの男と主任、そしてノイチゴ、ヒルガオ、アサガオの三人も揉み合いながら入って来た。

 五人は中の状況が飲み込めず、その場でピタッと足を止める。一方、ノイチゴの言葉を聞いた教授と学生達はさらに血の気が引いた。


「ス、スズって……今、あの子、スズって言ったか……?」

「あの方と一緒にいるってことは、まさか……」


 バレてしまったなら仕方がない。トキオに続いてまたこれかと、諦め混じりのため息をつくスズラン。髪を染めていた染料を始原の力で分解し、元の色に戻して改めて名乗りを上げる。


「そうです、私が神子のスズランです」

「ははあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 謎の集団は素早くその場で土下座した。

「私の顔は印籠ですか……」

 水戸の御老公じゃあるまいに。彼女は自分の顔を両手で挟み、むにむに揉んでおどけてみせる。緊張をほぐしてあげようと思ったのだが、効果は全く無かった。




「生命水の調査?」

「は、はい……」

 スズラン達に問い質され、全面降伏した大学の研究者達は倉庫の床に並んで正座し犯行理由を自白する。彼等はけっして悪人ではない。しかし、ここでやっていることは明確な犯罪行為。だからこっそり立ち回っていた。

「生命水……って、何?」

 聞いたことの無い言葉に眉をひそめるアサガオ。他の面々も同様の顔。それも当然の話、一般には全く知られていない代物なのだ。

「海底、もしくは地底深く、命の海と呼ばれる領域から湧き出した液体のことよ。高濃度の魔力と高濃度の魔素を同時に含有している。しかも他の栄養素も豊富なの」

「おお……流石はスズラン様、ご存知でしたか」

「ええ、まあ」

 何を隠そうココノ村の名産品となった茶葉も、自身がそうとは知らずに地脈の交点から汲み上げてしまった生命水を利用し、極めて高い品質を獲得させたものである。後にクルクマからその事実を指摘されたため、当然スズランは知っていた。

「非常に貴重で魔法使いの研究でも錬金術でも重宝される資源。それが、この港の近くで湧出し始めたと?」

「は、はい。先月ミヤギ沖で地震があったことはご存知ですか?」

「話には聞きました。幸い大きな被害は無かったとか」

「そうです。ただ、その際に海底で地割れが発生しました。漁師をしている友人から特定のポイントでだけ驚くほど魚が獲れるようになったと聞き、もしかしたらと当たりを付け潜ってみたところ……」

「生命水の湧出が判明したと」

「そうです……」

 そこまで説明して急に肩を落とす教授。若い学生達は逆に悔しそうに下唇を噛む。彼等の表情の違いから何があったのかおおよそ想像がついた。

「わかんないな。それでなんで倉庫の床を掘り返して海に繋がるトンネルなんて掘ってたのさ? 場所がわかってるなら普通に調査したらいいじゃん」

「我々だって、最初はそうしようとした!」

 アサガオの言葉に激昂する学生。周りに「神子様の御前だぞ!」と窘められ慌てて口をつぐむ。

 スズランは片手を挙げ、頭を振った。

「そう畏まらなくても結構です。言いたいことは素直に言って。調査の許可を申し込んだものの却下されたのでしょう?」

「はい……」

「ううむ、なるほど」

 ようやくユリもどういうことか理解した。この港の近くが問題の湧出点なのだとすると申請が通らなかったのも無理は無い。ケセンヌマほどではないといえど、ここもミヤギの経済を支える重要な港。そこで学術的な調査活動などされても船乗りや商人達からすれば邪魔でしかない。役人にとってもそんな彼等を説得して回る面倒な仕事はしたがらないだろう。ましてや生命水などというよくわからないものの調査だと説明されても、重要性がいかほどのものか理解し難い。

 とはいえ、今となっては話が別だ。先程その価値を理解している人物のお言葉を賜ったばかり。

「スズラン様、今一度お訊ねします。その生命水とやらですが、価値は高いのですね?」

「ええ、非常に」

「うむ」

 それさえ確認できたら問題は無い。改めての質問に答えてくれた彼女に頭を下げ、ユリは懐から何かを取り出す。

 それは普段、女王として行動中の彼女が愛用している先祖伝来の眼帯。

 身に着けて研究員達の顔を見渡す。

「皆、驚かせてすまん! ユリタロウなどと名乗ってはいたが、実は私はこの国の王ユリなのだ!」


 みんな知ってる。でも、誰もその事実は指摘しなかった。

 愛されてるなあと、アサガオ達は目の前の女王を少し羨む。


「諸君らが犯行に及んだ事情は理解した! 大変重要な発見だったのだろう、他の者達に先を越されぬようにと功を焦り犯罪に走るほどに」

「うっ……」

「そ、そこまでお見通しで……」

 そう、彼等の動機はそれである。せっかくの大発見。しかも他にはまだ知られていない。だからこそ誰よりも早く調査活動を始めたかった。

 ユリも、そんな心情は汲み取ってやりたい。

 されども──

「だからといって見逃してやることはできん。罪は罪だ」

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