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最悪の魔女スズランAfter 幸せはまたやって来る  作者: 秋谷イル
13.Life has its ups and downs(下り)
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意外な人質

 港まで行くと話に聞いた怪しい一団は簡単に見つかった。スズランはサカタでの一件を思い出し、子供達は倉庫の一つに頻繁に出入りしているその集団を物陰に隠れつつ見つめ、口々に同じ感想を漏らす。

「あやしい……」

「あやしい……」

「たしかに怪しすぎる……アホなのかな、あの人ら」

 問題の男達は一見すると船乗り風。しかし、どういうわけかその服は一様に土で汚れている。しかも疑って下さいと言わんばかりに全ての出入り口に見張りをつけてあった。


 どこからどう見ても怪しさしか無い。


 するとユリが、アサガオに対し注意を促す。

「油断してはなりません。悪党というのは常に様々な罠を張り巡らせ待ち構えているもの。つい先日などは落とし穴の底に大量のウナギが……幸い落ちずに済みましたが、あの光景を見て以来、私はウナギが食えません。思い出すだけで鳥肌が……あああ」

「そうですね」

 想像しつつ気の抜けた返事をするアサガオ。ネタがバレているため緊張のしようが無い。逆にユリはいつもの猪突猛進ぶりがなりを潜め慎重になっていた。今の回想から察するに、どうやら家臣の皆さんもそれなりに小芝居を楽しんでいるようだ。振り回されっぱなしの女王に対しささやかな復讐を目論んでいると見える。バレても笑い話で済む程度の悪戯を仕掛けて。

(戦場では頼りになる方なんですが……)

 六柱の影との戦いにおける獅子奮迅の活躍を思い出すスズラン。魔力を持たない常人の中ではユリの戦績は突出したものだったと思う。案外この小芝居は彼女にとって良い訓練にもなっているのかもしれない。

「で、どう?」

 波止場に積まれた木箱の陰で、その箱にもたれかかりながらモモハルに問う。彼は透視能力で建物の中を観察中。スズランも探査魔法を使って敵の人数を確認している。全部で十二人。三人が外で見張りに立っていて七人は中で作業中。七人のうち四人は地面よりも低いところにいる。地下室でもあるのだろうか? 建物の一番奥に残る二人。この二人はほとんど動かない。休憩中なのかもしれない。

 それから時々幌馬車がやって来て倉庫に横付けする。そして中から運び出した大量の麻袋を荷台に積むと、またどこかへ走り去って行く。

(密貿易でも装ってますの?)

 妙にこそこそしていて後ろ暗い物品を扱っているようにしか見えない。ユリにそう思わせることが目的なのだから、ここは名演技と称えるべきだろうか。

 まあ、なんにせよ待っているのは変装した侍達。忙しそうなのはユリの接近に気付いて準備を進めているだけかもしれない。スズランはそう踏んだ。

 ところが、モモハルは固い声で予想外の報告を上げる。


「……まずいよ、人質がいる」


「へっ?」

「なんですと!?」

 焦るユリ。その横で一瞬目を丸くしたものの、やはりそれもエキストラだろうなと気を取り直すスズラン。けれどそうではなかった。

「あの子、この間の子だよ。ウンディーネの、ええと……」

「フリージアちゃん!?」

 今度こそ身を乗り出し、情報神(ユカリ)の力を借りて倉庫を透視した彼女は、本当に奥の部屋に囚われているフリージアを見つけ頭を抱えた。

「なんでこうなるのよぉ……!」

「今回は僕じゃないよ? ぜったい違う。こんなの想像してないからね?」




 ──どうやらあれは本物の犯罪組織らしい。モモハルと共に透視して得た情報からそう結論付けるスズラン。

 というのも、倉庫を借りた一団は床に穴を開けた挙げ句、そこから海に向かって横穴を掘っているのだ。馬車で運び出していたのは、その際に出る大量の土。

 ユリのための小芝居であそこまでするとは思えない。フリージアを囚えていることから見ても、本当になんらかの犯罪計画が進行中だと考えた方がいいだろう。

 ウンディーネの少女は倉庫の奥の大きな水槽の中。動かない二つの反応は彼女と見張りの男のもの。男は読書しており、フリージア自身は薬でも嗅がされたのか水底に横たわり静かに眠っている。少なくとも死んではいないし外傷もここからは見当たらない。改めてその事実を確かめ、わずかに安堵する。

「お母さんと戻らなかったのかしら……?」

 たしかにあの時、迎えに来た母親と共に帰ったはず。なのにこんなところにいるということは帰る途中で捕まったか、また無断でこちらへ渡って来たか。

 前者だとすると、ここから見えない場所に母親が囚われている可能性もある。慎重に対処しなければ。

【ママ、手伝おうか?】

(ありがとう。でも相手は人間だし、懲らしめるだけならなんとでもなるわ。もし不測の事態が起きたらその時にはお願いね)

【わかった】

 ミナ達の力を借りればたしかに簡単に解決できる。でも、あまり始原の力を乱用したくない。万能に近いあれを行使することに慣れてしまえば、これから人として生きることが難しくなってしまう。

 それにこの程度の困難なら自分達だけでどうにでもできる。フリージアはいざとなれば自分かモモハルが救出すればいい。まずは他に人質がいないかの確認。それから敵の戦力や目的も一応確かめておきたい。

 都合の良いことに陽も暮れて来た。あちこちの影が濃くなったのを確認して中腰の姿勢で動き出すスズラン。

「ちょっと行ってくる。アサガオちゃん、二人を見てて」

 やはり弟子達を危険に巻き込むつもりは無い。しかしヒルガオとノイチゴは切実な表情で訴えかけて来る。

「まって! わたしたちも何かしたい!」

「てつだわせて!」

「こら、聞き分けないこと言うな」

 叱るアサガオ。ユリの家臣達が相手ならいいが、本物の犯罪者となれば話は別。

「でも心配だし……」

「あの子、わたしたちより年下なんでしょ……?」

「……」

 スズランはしばし黙考し方針転換を決める。自分がいないうちに勝手に動かれてしまう可能性は否めない。なら安全な役割を与えて納得させよう。自分達より幼い子を助けたいという気持ちも汲んでやりたい。

「わかった、それじゃあ二人にも一仕事頼むわね」




「むう、あんまりかっこいい役じゃない」

「しかたないよ、私たちまだ子供だもん」

 言葉とは裏腹に隣を歩くヒルガオ同様、唇を尖らせるノイチゴ。二人に与えられた仕事は“陽動”だった。

 少女達は倉庫から少し離れた位置まで移動すると、そこで手に入れたばかりのホウキを呼び出し、跨る。

「よし、やってみよう」

「まってまって、ちゃんとヒモをつながないと」

「あ、そうだった」

 頑丈な長い紐の端にヒルガオを繋いだノイチゴは、もう一方の端を握ったままあたりをきょろきょろ見渡し、それから例の倉庫の鉄扉の前に立つ見張りの男へ近付いて行った。

「すいませーん」

「……なんだ?」

 目と鼻の先で何か始めた少女達を訝しむ男。眉根を寄せつつ問い返す。

「空をとぶ練習がしたいんですけど、このヒモをどこかに結んでもいいですか?」

「駄目だ、よそでやれ」

「ええっ、でもおししょうさまに『あなたたちはまだ上手にとべないから広い場所で練習してきなさい』って言われたんです」

「たしかに港は広い。だから他の場所でもできるだろ」

「このあたりはたてものが多いから風が弱くて練習しやすいんです。おねがいします」

「うるさい、どっか別の建物の近くでやれ」

「そこをなんとか」

「おい、どうしたんだ?」

 揉めているのに気が付き、中から別の男が顔を出した。

 彼は事情を聞くなり、あっさりいいよいいよと笑顔で許す。

「しかし主任」

(しゅにん?)

「いいから。ちょっと君達、待っててね。おい……あまり突っぱねても怪しまれるだろう。それでまた、あの子みたいなのが寄って来たらどうする……」

「……わかりました」

 小声で囁かれた後、不承不承頷く男。よく見るとかなり若い。一方、主任と呼ばれた方は四十代くらいの中年男性。

(何してる人たちなんだろ?)

 ノイチゴが純粋に疑問を抱いた時、主任も純朴な好奇心をぶつけて来る。

「君達、代わりと言ってはなんだけど見学させてもらってもいいかな? 魔法使いの飛行訓練なんて今まで見たことが無いんだ」

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